あたたかい場所

峰山郁子

読切(脚本)

あたたかい場所

峰山郁子

今すぐ読む

あたたかい場所
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇アパートの中庭

〇アパートの中庭
  待つということは、
  どうやら私の人生テーマであるらしい。
  子供の頃は、両親ともに出張が多くて、
  その度に祖母の家で帰りを待っていた。

〇実家の居間

〇実家の居間
  都心から郊外にある祖母の家には
  鶏がいて、採れたての卵で、
  祖母は
  よく甘い卵焼きを作ってくれた。
  料理が得意な祖母が作るものは、
  なんでも美味しかった。
  うす味の醤油で味付けをした
  かつお節のおにぎりも好きだったし、
  チーズ味の馬鈴薯の天麩羅も良く食べた。
  でも、母が作るちょっと焦げ目のある卵焼きや梅干し入りの不恰好なおにぎりが、いつも恋しかった。

〇一階の廊下

〇一階の廊下
  ある日、出張から帰ってきた母と、
  近いうちに
  山の上の遊園地に行く約束をした。
  ゴーカートとメリーゴーランドと
  子供も乗れるジェットコースターは
  必ず楽しむことに決めていた。
  しかし母の時間が合わず、
  結局30年以上経った今も、
  約束はそのままだ。

〇渋谷の雑踏

〇渋谷の雑踏
  私は今、渋谷で彼を待っている。
  どうやら
  付き合ってほしい所があるらしい。
  6歳年下の彼は32歳。
  出会ってから5年になるが
  大切な人だという気持ちは変わらない。
  余裕のある時間が少ないことを
  知っているので、
  デートは大体、彼の職場近くのカフェだ。
  私がカフェに先に行き、
  今から行くよという彼のLINEを待つ。
  お互いの家に寄ったのは5年の間、
  数えるほどしかない。

〇店の入口
  そのカフェは
  今風のお洒落なカフェではないし、
  かといって昔ながらの喫茶店でもない。
  シンプルな木のカウンターに
  椅子が並んでいるだけの
  小さなカフェである。
  表通りから離れているからか、
  いつも待たずに座れる。
  それに、向かい合って座るより
  カウンターで隣に座る方が
  彼は落ち着くのだそうだ。
  そのカフェで彼を待ちながら飲む
  シナモンティは美味しい。

〇渋谷の雑踏
  彼と人生を
  共に過ごしてみたいと思いながら、
  私からは言えずに時間が経ってしまった。
  渋谷で待ち合わせるのは、
  何年ぶりだろう。
  2月も中旬を過ぎたけれど風が冷たい。
  立っていると余計寒く感じる。
  彼の姿を探してスクランブル交差点を
  見過ぎたせいか少々首が痛い。
  待ち合わせから15分。
  人は、どのくらい待つことを
  待ちくたびれたというのだろう。
  私は15分を過ぎてくると、
  なんとも手持ち無沙汰になってくる。
  待つという空間で、
  この立ち位置を何処に定めるか迷いだす。
  そんなことを大真面目に考えながら
  さらに20分が経ち、
  スクランブル交差点の人波みの中に、
  ようやく彼を見つけた。
  端正な容姿の彼を視界に捉えることは
  難しくはない。
  ゆっくりとした歩みで、
  私が立つ方向にやって来る彼に、
  私はきょう一番の笑顔を向けた。
  彼は少し微笑むと、
誠「きょう寒いよなぁ、 俺達の新居探し、 あったかくなってからにする?」
  と、呟いた。
  私は一瞬息を止め、
  少し呼吸を整えてから、
夏菜子「ううん。 きょうがいい」
  と言って、
  彼の腕を掴んだ。

コメント

  • 待てる女性ってすごいなと思っています。全体的に大人な雰囲気が漂っている作品でした!最後は未来に向かっていく事が予想出来て良かったです!素晴らしい作品ありがとうございました!

  • なかなか悪くない感じでした

  • いつも待たされるのは女性が多いような気がします。彼女には人生の時間を有効に使って欲しいものです。最後の彼女の台詞は未来志向で良かった。

コメントをもっと見る(6件)

成分キーワード

ページTOPへ