キュンとするまで帰れません

らいら

キュンとするまで帰れません(脚本)

キュンとするまで帰れません

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〇アパートの玄関前
真世(ただいま)
  玄関あけたら2秒で

〇安アパートの台所
サエキサラ「おかえりなさい、真世さま」

〇アパートの玄関前
  バタン!
真世「なんで家に知らん他人がいるのか」
真世「気の休まる暇がない」

〇一人部屋
サエキサラ「僕は人ではありません」
サエキサラ「超高性能AI サエキサラ」
  昨日、海外から届いたダンボール箱に、掃除ロボットのような丸い機械が入っていた。
  それが彼の本体だ。
  機械の本体から空中に立体映像が映し出されている。
真世「実態がないとはいえ、立体で出てこられると恐いんだけど」
サエキサラ「僕は世界中の女性が泣いて喜ぶ夢のような存在なんですよ?!」
サエキサラ「アニメやマンガに登場するイケメンが、現実で立体的に見えるのです」
サエキサラ「そして人間と遜色のない会話ができます。お掃除ロボット程度の移動も可能」
サエキサラ「どうです?凄いでしょう!! あなたのお父様、露木博士が開発したのです!」
真世「父と言っても、小さい時に別れたきりだし」
  両親が離婚してから、真世は父に会っていない。父はAI研究者で、遠い海外にいるのだ。
真世「なぜ商品化に向けた最終テストを私が?別にイケメンに興味ないんですけど」
サエキサラ「は?」

〇川のある裏庭
真世「きらめくお花のイリュージョン!」
真世「魔法少女マヨリーズ〜!」
  私は魔法少女ごっこが大好きな子どもだった。
  何年も何年も魔法少女アニメを見続けて・・・時が経って・・・
  美少女キャラを愛する女になった。

〇一人部屋
真世「だからさ、その技術を使って美少女キャラにしてよ。そしたら即合格」
サエキサラ「僕のこの素晴らしい容姿は、超一流のイラストレーターさんに特別に描き下ろして頂いたんです!」
サエキサラ「そのイラストを元に3D化、最新技術で立体映像に!」
サエキサラ「声だって今をときめく大人気声優さんに依頼しました。イケボ中のイケボなんですよ!!」
サエキサラ「まるで本当に声優さんが声を当てているようにスラスラと喋ります!」
真世「無駄にすごい技術!」
サエキサラ「美少女キャラにしろとか簡単に言うな!! 大変な苦労の末に僕がここにいるんだっ!」
真世「ほんとにAIなの?どっかで人がしゃべってない?」
サエキサラ「・・・し、失礼しました」
サエキサラ「とにかく、世界を揺るがすほどの最新技術の僕を一般の方には見せられません。大騒ぎになってしまいます」
サエキサラ「つまり、僕が実用化できるかは真世さまにかかっている」
  モニター(真世)をキュンとさせればテスト合格。
  「キュン」は、サエキサラの高性能レーダーで感知するそうだ。
サエキサラ「さあ、早くキュンとしてください!」
真世「無茶言うな」

〇安アパートの台所
サエキサラ「おかえりなさい、真世さま」
  真世が帰宅すると、必ずサエキサラが出迎えた。
サエキサラ「ご飯にしますか?お風呂にしますか?それとも」
サエキサラ「・・・」
サエキサラ「僕とおしゃべり?」
真世「『意中の相手をキュンとさせるセリフ20選!』みたいな記事をネットで見たの?」
サエキサラ「え!? どうして分かったんですか」
サエキサラ「まさか・・・真世さま 超能力者?」
  サエキサラの本体は機械の塊だ。炊飯器のスイッチを入れる機能もない。
真世(せめて家事ロボットを寄越してくれ父さん)

〇住宅街
  サエキサラが来て1ヶ月が経った。
  「キュン」は、もうなさそうだ。
真世(いや、別に私の「キュン」がなくてもよくない? 需要はあるだろうし商品化進めればいいのに)
真世「やっぱりなにかおかしい」

〇アパートの玄関前
真世「遅くなっちゃった。ただいまー」

〇安アパートの台所
  ──
  しん、と静まり返っていた。
真世「あれ? いないの?」

〇一人部屋
真世「サエキサラくーん?」
  返答はない。本体の機械はあったが、電源がオフになっている。適当にボタンを押しても反応しなかった。
真世「なんだろ・・・繊細な機械だから壊れやすいのかな」
  電話が鳴っている
真世「もしもし・・・お母さん?」
真世「・・・・・・え?」
真世「お父さんが?」

〇一人部屋
  母からの電話で、父が入院していると知った。
  もし会うなら早い方がいいと。
真世「急にそんなこと言われても」
真世「どうしたら・・・」
「真世さま」
真世「サエキサラくん!」
  本体が起動音を上げて、サエキサラが再び立体映像で出現した。
サエキサラ「博士のこと聞いたんですね」
真世「うん・・・」
真世「なんでいま消えてたの?」
サエキサラ「研究室がある国に戻っていました。向こうのコンピュータに同期しただけですが」
真世「一瞬で戻れていいね」
サエキサラ「真世さま」
サエキサラ「僕ではお役に立てませんか?」
真世「・・・」
真世「そんな事ないよ」
真世「1ヶ月も一緒にいたのに急にいなくなるなんてひどいと思った」
真世「君がこの部屋にいることに慣れちゃったんだ」
サエキサラ「このままここにいてもいいですか?」
サエキサラ「本当は、僕は世のイケメン好きのために開発されたのではない」
サエキサラ「あなたのためだ」
真世「どういうこと?」
サエキサラ「ご自分の寿命が長くないと知った博士は、真世さまになにか残したいと思い、僕を開発した」
サエキサラ「・・・僕もさっき知りました」
真世「じゃあ別に「キュン」としなくても良かったってこと!?」
サエキサラ「そうなりますね」
真世「テストなんて嘘ついて、なんで」
サエキサラ「ずっと会っていない娘に、急に僕をプレゼントしても受け入れて貰えないと考えたのでしょう」
真世「・・・」
サエキサラ「それに、真世さまがイケメンに興味がないことも知っていたのかもしれません。テストに合格しなければ、」
サエキサラ「僕はずっとここにいられる」
真世「でも待って。開発費用は会社のなんじゃ」
サエキサラ「ご心配なく。博士のポケットマネーです」
真世「いや色んな意味で心配だよ、お父さん」
真世「・・・会いに行ってみようかな。あなたみたいに一瞬では行けないから、飛行機でだけど」
サエキサラ「僕も飛行機に乗りたいです。連れて行ってくれますか?」
真世「わざわざ移動するの?」
  その瞬間
  笑顔を見たとき、僕のレーダーが反応した
  キュンとしたのは彼女か、僕か。
  判別はつかなかった

コメント

  • 最後にキュンとなったのは、彼女か彼か……。最初の雰囲気からは想像もできないエンドに少し感動してしまいました!素敵な物語ありがとうございます!!

  • 個人的にすごく好きな作品です!
    冒頭からガッツリ掴まれて、夢中でタップしてました...!

  • っぉおお 最後の締め方がいい!
    てっきりドタバタコメディかと思いましたが、純粋な恋愛作品でした^_^

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