読切(脚本)
〇おしゃれな居間
参田「はぁ、なんて美しいんだ・・・」
織原「・・・」
参田「透き通るような肌、柔らかでいてどこか冷たさを含んだシルエット・・・」
織原「・・・」
参田「ああ、今夜と言わず今からでも君と愛し合いたい!」
織原「おい参田(まいりだ)、一応確認するがお前が口説いてるのはその白い壺か?」
俺はうっとりとしている参田の手の中にある小綺麗な白い壺を指差した。
参田「そんな無粋な言い方はやめないか織田!! 彼女に失礼だろう?!」
参田は彼女?を庇うように彼女の前に手を広げた。
大学内でも変人として有名な参田は恋愛対象が陶磁器らしい。
数ある魅力的な彼女?たちの中でも、今見ている骨董品店の片隅の彼女が本命なのだとか。
織原「あー、うん。悪かったって。 で、今日はとうとうその子を引き取りに来たんだよな?」
参田「そうとも! 彼女を貰い受けるために、せっせとこの3年間アルバイトに勤しんできて!ようやくついに!」
織原「さんびゃくまんとかすごいよなー。 お前貯金残ってるのか?」
参田「あるわけ無いだろう?」
織原「知ってた」
文字通り無一文の参田だったが、そのひどく幸せそうな様子が正直ちょっとだけ羨ましかった。
その時だった。
「まあ!なんてこと! 麗しい殿方にそこまで惚れ込まれるなんて。 これは私も覚悟を決めるしか無いわね!」
織原「えっ?!」
参田「どうかしたか?」
織原「いや、なんか女の人の声が・・・」
参田「女性? この店内には男しかいないはずだが?」
織原「だよなぁ?」
俺は骨董品店の中を見渡す。
俺と参田、それから頑固店主以外はいないはずだった。
「あら? もしかして私の声が聞こえているの?」
織原「えっ?」
「あら、やっぱり。 ここよ、ここ。私はここにいるわ」
声は低い位置から聞こえてくる気がする。
俺は視線を下げていき──
ちょうどいい感じのところに、参田の彼女?がいた。
参田「織田?」
織原「えっ、なんか・・・ 壺が喋ってる・・・?」
参田「なんだって?!」
「まあ!壺だなんて失礼な! 私にはれっきとした名前がこれからきっと付くはずなのよ!」
織原「ご、ごめん」
彼女?は怒っているようだった。
それに呼応するように参田もプルプルと震えている。
参田「お、織田・・・お前・・・」
織原「な、なんだよ」
参田「お前ばかりエリーゼと話して! 俺も話したい!」
織原「えええ、ごめんて。 ってかエリーゼって言うんだ?」
「私の?まあステキな名前! 殿方の名前はなんと仰るの?」
織原「えー・・・、 こいつは参田遼太郎だよ」
「リョウタロウね、覚えたわ!」
「ところであなたはなんと仰るの?」
織原「俺?俺は織田太一だよ」
参田「織田ばかりエリーゼと話してずるい・・・」
参田がいじけている。
やはり参田にはエリーゼの声は聞こえないようだった。
「ありがとう。 ではタイチ。お願いがあります。 私の10回キュンすると死ぬ呪いを解いてちょうだい」
織原「ファッ?!」
参田「ど、どうした?」
織原「お、お前の大好きな彼女、10回キュンすると死ぬらしいけど・・・?」
参田「なんだと?!エリーゼ、どう言う事なんだ?!」
参田はエリーゼを両手で包んで揺すっている。
「そのままよ。10回胸をときめかせると死んでしまうの。まあ自業自得なんだけどね」
「呪いを解かずに10回キュンすると、何処からともなくカメムシみたいな匂いの液体を撒き散らしながら私が爆散するわ」
「でもこんなステキな出会いをしておめおめと死ねないわ。だから呪いを解いて欲しいのよ」
参田「織田?」
織原「呪いを解かないと、臭い液体撒き散らして爆散するって。 ・・・呪いを解くって、どうやって?」
「この街で1番愛に溢れた場所に私を連れて行ってちょうだい。そうすれば──」
織原「そうすれば?」
「世の中の恋人共への恨みで私が爆発して、ひと回り綺麗な壺になれるというわけ」
織原「ファッ?!」
参田「・・・織田?」
織原「え、ええと この街で1番愛に溢れた場所に連れて行くと、恋人達への恨みで爆発してひと回り綺麗な壺になれるって」
参田「???・・・そ、そうか? だがこの街には恋人の聖地とやらは5280箇所あった気がするが?」
「この街は一体どうなっているの?」
織原「ホントにな」
エリーゼのツッコミが冴え渡る。
参田は青い顔で考え込んだあと、自分を励ますようにふふんと笑った。
参田「仕方ない。一つずつしらみ潰しに行くしかないな。 気の長いデートとでも思えば悪くもない」
「ちなみに私はこれまでで8回キュンしているわ」
織原「8回?! おい参田!エリーゼはもう8回キュンしてるらしいけど?!」
参田「なんだと?!一刻の猶予も無いじゃないか! ええい織田!片っ端から当たるぞ!」
織原「なんで俺もなんだよお前らのデートだろ?!」
参田「くっ、お前しかエリーゼの言葉がわからないんだぞ!いいからついてこい!牛丼くらいなら奢ってやる!」
織原「た、たしかに・・・?」
参田はエリーゼを柔らかい布で包み、もう片方の手で俺の手を引いて最寄りの恋人の聖地へと走り出す。
壺と一人の男とその通訳の事件が、幕を開けたー!
会話のテンポの良さについつい笑ってしまいました!
もう既に8回はきゅんとしてしまっている壷さん……これから2人+1の珍道中が始まると思うとワクワクさせられます!素敵な作品ありがとうございました!
おもしろかったです。他の方も書いてますが私もカメムシでダメでした……!笑
続きが気になります!
電車の中で読み始めたことを後悔しました。
途中まで我慢したですがカメムシで限界でした。
突拍子がなさ過ぎるのに続きが気になって仕方がないです。
8回キャンした経緯の過去バナも実装予定でしょうか?
めっちゃ面白かったです!
流石おさかなさんです!