吐く息は白い

浅葱

吐く息は白い(脚本)

吐く息は白い

浅葱

今すぐ読む

吐く息は白い
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇田舎のバス停
柊佳「うわっ、寒っ!」
  親友の柊佳(しゅうか)が、大袈裟(おおげさ)に身震いする。
あなた「だから言ったじゃん。 いい加減諦めて、マフラー着けてこいって」
柊佳「人を学習能力のない人間みたいに...、今日は持ってこようとして忘れたの!」
あなた「結局持ってこなかったんでしょ。同じことだよ。見てるこっちが寒くなる」
柊佳「かといって、早くからあんたみたいな雪だるま状態にはなりたくないの! 寒さに打ち勝ってこそ東北人よ!」
あなた(...何を言ってるのか、この子は。 最近関東から引っ越して来たでしょうが)
雪哉「そう簡単に東北人を語ってもらっちゃ困るな、素人が」
  あなたや柊佳と同じクラスで、コミュ力最強の陽キャ、雪哉(ゆきや)がバス待ちの列に加わり、話しかけて来た。
柊佳「雪哉、素人って何よ!」
雪哉「こいつが早くから着込んのは、冬がどんなにヤバイか知ってるからだ。 玄人(くろうと)は冬に楯突かないんだよ」
柊佳「雪哉だって、楯突いてるじゃない!」
雪哉「俺は、まあ、ちょっとな」
  雪哉は寂しい首元に手を当てる
あなた(熟練度とかどうでもいいと思うのは、私だけなんだろうか? この二人、どうしてバスが来ないことに不満を漏らさないんだろ?)
  あなたと柊佳は、かれこれ40分もバスを待ち続けている。
  バスの時刻表には39分前にバスが一便あったはずである。
あなた「それはそうと、バス来ないね」
柊佳「あー、そういえば。 ちょっと待って...」
柊佳「んー、一応、ネット上では一つ前のバス停にバス来てることになってる」
あなた「でも、バス無いよ」
  目視できるほど近くにある一つ前のバス停は、バスどころか人の気配も見当たらない
「だろうね」
  バスが時刻表通りに来ないことどころか、ネット上に示されるGPSのバス位置が嘘のことまで、ここでは割と常識だ
柊佳「時々さ、到着する2,3コ前のバス停で、運行してたバスのGPS情報消えるんだよね。なんなんだろう、あれ」
雪哉「あー、あるある。 運行してないなら、最初からサイトに載せなきゃいいものを。悪あがきだよな」
あなた「違うよ、きっと運行自体はしてるんだよ。 途中で隕石でも降ってきて、ふふっ、消失したんだって」
柊佳「笑ってんじゃん。 でも、確かに。決めつけは良くない」
柊佳「バスごと、今流行りの異世界転生でもしてるかも...」
雪哉「だとしたら確率やべーわ。 バスの運転手って楽しいかもな」
  高校2年生のあなた達は、そろそろ受験生になる。
  職業の話題は、意識しなくても出てしまう
柊佳「じゃあ、雪哉はバスの運転手になれば? 将来会ったら、異世界転生の感想聞かせて...あ!」
  バスが前方に見える。
  柊佳の手元を覗くが、GPSは機能していなかった。
柊佳「んじゃ、お先!」
雪哉「うわ、俺等乗れねえやつじゃん。ずりぃ」
  柊佳はバスに乗って遠慮なく一抜けした。
  柊佳が居なくなると、なんともし難い空気が流れる。
  バス停に残るのはあなたと雪哉の二人。
  元々接点があった訳ではなく、社交的な柊佳の取り持ちで話すようになったのだ。
雪哉「あ、あの」
あなた「はい」
雪哉「...バス、来ませんね」
あなた「いつものことだと思うけど」
雪哉「そ、そうですよね。 ...すみません」
あなた(何が言いたいんだろ? そして、なぜに敬語? 私、怖がらせる要素あったっけ?)
  あなたは気不味い雰囲気と雪哉の一変した態度に戸惑う。
  原因追求を諦めてスマホを操作していると、横から再び声がかかる。
雪哉「あの! マフラー、貰っちゃって良かったんですか?」

〇雪山の山荘
雪哉「うわー、びしょびしょ どうすっかなー」
  休日、あなたが買い物から帰る道程に、雪哉が全身ずぶ濡れで立ち尽くしていた。
あなた(あまり仲良くないけど、助けた方がいいよね)
あなた「大丈夫?」
雪哉「え? うおっ! あ、うん。大丈夫。なんでこんなところを...、あ、いや、すみません。お見苦しく姿で」
  雪哉は露骨に動揺した。
  雪がどかっと降った次の日に気温が急上昇し、道路には大きな水溜りがいくつもできていた。
  きっと車にかけられたのだろう。
あなた「はい、これあげる」
雪哉「え!?」
あなた「さっき買ってきたばかりだから大丈夫。安物で申し訳ないけど」
雪哉「ありがとう、ございます」

〇田舎のバス停
  あなたは、そんな事もあったなと思い出し、
  雪哉の首元を見遣る。
あなた「女物に抵抗あったよね。ごめん」
雪哉「え!? いや、全然、全く。 寧ろ感謝してます。 つか、そうじゃなくて」
雪哉「マフラー貰っちゃったから、お礼になんか差し上げたいので、要望ないっすか?」
あなた「特には」
雪哉「俺のマフラー泥で再起不能で、新しいの買うから、一緒に行かない? 店回れば何か見つかると思うし」
あなた「別にいいけど、ごめんね女物あげて」
雪哉「あ、いや、恐れ多いつうか勿体なくて使えず、ともかく、貰ったのは嬉しかったっす」
雪哉「あ、変なこと口走ってる。ごめん、忘れて」
あなた「よく分かんないけど、役に立てたならよかったよ」
  雪哉の慌て様に、あなたは思わず笑ってしまう。
雪哉「あはは」
あなた「で、いつにするの?」
雪哉「え?」
あなた「買い物」
雪哉「あ! 次の土曜とかどう?」
あなた「分かった」
雪哉「場所とか時間とか、後で連絡する」
あなた「了解。またね」
  丁度バスが来たので、あなたは入口に向かう。
  雪哉は小さくガッツポーズする
雪哉「よっしゃー」
雪哉(これ、デートでいいんだよな? 二年かかったけどなんとか誘えた。 次は告白か)
雪哉(よし、やってやる! あと一年で)
  前途多難な恋愛が、今始まろうとしている

コメント

  • 『あなた』にぞっこんな彼が凄く愛おしく映りました。ゆっくりと進んで行く恋の模様にとてもワクワクしております。素敵な物語をありがとうございます!

  • 恋愛になると話し口調が変わるところ、いいなぁ〜と思ってしまいました。素敵なお話、ありがとうございました!

  • 『あなた』はきっと魅力的な女性なんでしょうね。雪哉くんは彼女からマフラーをもらった時から、より彼女の存在が大きくなったのかなあ。静かで、でもお互いに気持ちがありそうで、恋に発展するといいですねえ。

コメントをもっと見る(6件)

成分キーワード

ページTOPへ