読切(脚本)
〇綺麗な会議室
わらやま「皆さん」
わらやま「皆さんにとって最大の挑戦はなんだったでしょうか?」
わらやま「大会で格上と当たり必死に食らいついた時?」
わらやま「極度の緊張の中、大技に臨んだ時?」
わらやま「人それぞれの思い出があることでしょう」
わらやま「もちろん私にもございます」
わらやま「そう、私にとって、最大の挑戦は・・・」
〇お祭り会場
小学生時代に
輪投げで温泉旅館宿泊券獲得に挑戦した時です
これより、私の挑戦の全てを紹介させていただきます。
〇大きい研究施設
時は平成──
テレビの影響力は大きく、地方のテレビ局でも、高い社会的地位を持っていました。
私が住んでいた地域も例外ではなく、ファミリー層向けの地域振興イベントを定期的に実施していました。
このようなイベントで子供が真っ先に飛びつくもの
〇お祭り会場
そう
縁日コーナーです。
こういった催しにある縁日には利用者に二つのメリットがあります。
一つは、プレイ単価が安いこと
通常の祭の出店の相場は、
当時300円から500円程度でした。
一方、このような催しでは、縁日単体で収益を出す必要がないので、プレイ単価が安い傾向にあります。
もう一つは、景品が豪華なことです。
スポンサーである企業や施設が広告の一環として景品を提供する場合が多いからです。
ただ、気をつけなければいけないのは、ゲームが完全に運任せである場合もあるということです。
くじ引きの類だと、いくら試行回数を増やしてもあくまで運だけの勝負であり、資金力に限界のある子供では勝ち目がありません。
そして今回の縁日ではどうだったかというと──。
輪投げ一回100円
10投終えた時点の合計点により景品を贈呈
目玉景品は温泉旅館ペア宿泊券
※数に限りがあり2組まで
この瞬間、私の心に火が灯り、
戦いのゴングが鳴り響きました。
ルールの詳細はこうです。
輪投げのターゲットは3✖︎3の正方形のマスに1から9の数字が配置され、それぞれのマスに棒がささっています。
配置は以下の通り。
奥
294
753
618
手前
そして、肝心の宿泊券の獲得条件ですが、10投終了時点での合計点が81点以上であることでした。
一見、9だけを狙い続けて9回成功させればよく、1回は失敗できるのですから、そこまで難しくはないようにも思えます。
ですが、当時の私の見解は違いました。
わらやま少年「これは・・・罠だ」
わらやま少年「9は最奥に配置されているから、成功率は前列より必然的に下がる・・・」
わらやま少年「かつ、仮に9を狙い他の場所に入ったとしても9を狙い続ける戦略である限り、それは失敗と同義だ」
わらやま少年「つまり狙うべきは前列でありながら高得点である8!!」
わらやま少年「8を9回成功させ、最後に9を成功させることで、81点を獲得する方法がベストだ!!」
当時の私はゲームと名のつくものであれば何でもプレイしていました。
加えて、ポーカーや競馬などのギャンブルの期待値の概念も認識をしていました。
わらやま少年「とにかく8の成功率が重要だ!!」
こうして私の挑戦が始まりました。
挑戦1回目
スタッフ「はい、終わりです。 ボク40点!すごいねぇ! はい景品のアクエリアス2L」
わらやま少年(最初はこんなもんかな)
挑戦2回目
スタッフ「はい、終わりです。 ボク56点!高得点! はい景品のスポーツタオル (この子さっきもやってなかった?)」
わらやま少年(徐々に──徐々にだ──)
挑戦3回目
スタッフ「は、はい、終わりです。 64点!す、すごい! はい景品のTシャツ (何回やんの!?執拗に8を狙ってるし!)」
わらやま少年(よし!コツを掴んできた!)
一回のプレイで10投も出来るので、上達は早かったです。
そしてこの輪投げは目玉商品以外の景品も豪華なため周回意欲がなくなることもありませんでした。
ただ、悩ましいのがアクエリアス2Lの存在です。
あまり多くは持ち歩けないため、一定数をこえると一度家に帰らなければいけませんでした。
家までは自転車で5分程度なので、大したロスではないのですが、何度も往復するとそれは疲労にかわります。
それと懸念だったのが、有限である宿泊券が誰かにとられてしまうことでした。
ただ、結果としてそれは杞憂でした。
なぜなら普通の人間は輪投げを周回プレイして精度を高めていくという発想にならないからです。
私が順番を待ってる間、無垢な子供達が遊んでいるのを眺めていましたが、みな適当に放るか9を狙って外していました。
勝負の土俵にすらあがれていませんでした。
論外です。
では、大人であればどうでしょう。
周回プレイはしないまでも合理的に8を狙いそうなものです。
ですが、そこにも落とし穴があります。
大人はハンデとして子供の倍以上の距離からの投擲を強いられるのです。
これではそもそも8と9の距離の差以前に狙った場所に入れること自体が困難です。
私がフリースローを決めればいいところを
3Pシュートを要求されているようなものです。
かくして、私が孤独な戦いを続け、自宅が飲料と衣料に溢れ、ちょっとした避難所のようになった頃
チャンスが訪れます。
9投目終了時点で
72点
ノーミス──リーチです。
〇モヤモヤ
わらやま少年「ハァ、ハァ いよいよここまで来た・・・」
鼓動は速くなり、心臓が飛び出そうなほどの緊張がこの身を襲いました。震えや発汗が抑えられませんでした。
そして、私はここである事に気づきました。
わらやま少年(しまった。ずっと8ばかり狙ってたから、9に入れられる自信が全くない)
それは完全なミスでした。8の練習が重要なことは間違いないのですが、9の練習も疎かにしてはいけなかったのです。
寒気にも似た緊張が身体を蝕みました。
わらやま少年(でも、絶対ここで決めるんだ! ええい、ままよ!)
運命の10投目を私は放ちました。
〇お祭り会場
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
催しの累計来場者 約2000人
そのうち輪投げをプレイした者 約200人
そのうち複数回プレイした者 約30人
そのうち8を執拗に狙い続ける作戦をとり、実現可能な子供である者 1人
そのうち家が近く定期的にアクエリアス2Lを持ち帰られる環境にあった者 1人
そのうち極度の緊張に打ち勝ち最後の一投を9に投げ込める者
──1人・・・。
スタッフ「お、おめでとうございまーす!! 合計81点!!!! 温泉旅館ペア宿泊券獲得でーす!!」
わらやま少年「ウ・・・」
わらやま少年「ウォォォ!!!!やったーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」
私の長きにわたる戦いはここに成就しました。
スタッフ「すごいねぇ!ボク。 何度も何度もプレイしてたもんねぇ! おめでとう!」
わらやま少年「ありがとうございます!!」
スタッフ「じゃあちょっとこっちに来てくれる?」
〇オフィスの廊下
そこは景品などが置かれている場所、いわゆる裏方でした。
スタッフ「はい!じゃあコレ! 改めておめでとう!」
わらやま少年「やったぁぁ!」
それは人生で初めて手にした目録でした。
私は感無量でした。
ただ、私はこの時既に別の考えを抱いていました。
それはさながらダイの大冒険でダイがバーンの片腕を斬り飛ばした後にとった行動の如く
そう
もう一度81点をとり、さらに2人分の宿泊券を獲得するという野望を持ったのです。
度重なる挑戦により、私の8を狙う技術はNBAのレジー・ミラーのフリースロー成功率ばりに高まっていたので
既に夕方でしたが、まだ1時間程度は終了まで時間があり、可能性は十分にありました。
わらやま少年「ボク戻ってまた輪投げしたいんだけど!」
スタッフ「え!?まだやりたいの!? (・・・うーん・・・規則だからなぁ) この紙見てくれる?」
わらやま少年「え?これなぁに?」
スタッフ「これは誓約書っていってね。 まあ、えっと、つまり・・・」
その誓約書の内容は要約するとこうでした。
今後輪投げの挑戦権を放棄する。
わらやま少年「えーーーー!!!!」
運営側も私のような強欲な人間の対策を立てていました。まさか小学生が書くことになるとは思っていなかったようですが。
こうして私の挑戦は幕を閉じ、大量のアクエリアス、タオル、Tシャツ。
そして──。
温泉旅館ペア宿泊券を手にしました。
〇綺麗な会議室
わらやま「いかがでしたでしょうか」
わらやま「以上が私の『学生時代に挑戦したこと』です」
わらやま「え? 話が異常に長い? 面接で言う話じゃないし口調がウザい? 学生時代といっても大学時代の話を聞くつもりで聞いている?」
わらやま「これはこれは失礼しました。 なかなか子供の頃のようにはいかないですねぇ」
わらやま「『的外れ』な回答で申し訳ございませんでした」
バリトンボイスというのかな?
素敵な声でビックリしました。
声優さんみたい。
わらやまさんは小学生の時代から賢かったんですね!スゴいなあ。
昔はガチでちゃんとした景品が当たる良い時代でしたね…(遠い目)
安元洋貴さんばりのイケボが遺憾無く発揮されとる…😂
攻略への執念が強すぎて、BUNGO見てる気分でした🤣
わらやまさん!!!!!
イ ケ ボ !!!!!
ぜひ少年声もやっていただきたかったですw