記者会見とは、

ヤマダナナコ

読切(脚本)

記者会見とは、

ヤマダナナコ

今すぐ読む

記者会見とは、
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇明るいリビング
  ある日の昼下がり。
  家事を終え、ごろごろとしていると
  スマートフォンが着信を知らせた。
紅音「もしもし? 和成、どうしたの?」
和成「紅音ちゃん! 今家!?」
紅音「仕事休みだから家だけど・・・ どうしたの?何かあった?」
  夫である和成の切羽詰まったような声音に、何か起きたのではないかと不安が高まる。
和成「貴重品と・・・ええと、2、3日・・・いや、1 週間ぐらいの着替えをまとめて!」
紅音「突然そんなの言われても困るよ・・・ 何があったの?ちゃんと、説明して」
和成「そ、そうだね・・・ あのね、落ち着いて聞いて欲しいんだけど、」
  落ち着いて聞いて、だなんて
  落ち着くべきは和成なのに
和成「ドラマの打ち上げでの写真が・・・切り取られて、」
和成「僕が、アイドルと・・・その・・・不倫をしているって、」
和成「週刊紙に、載ります」
紅音「先週の飲み会、だよね? 他にも男性や女性が居たのに、アイドルの子と一緒に居たところだけを切り取られたってこと?」
和成「うん、 ほんとにごめんなさい・・・」
紅音「和成は、何もしてないんでしょ? その子に、気があるわけでも、ないんでしょ?」
和成「絶対無い! 僕には紅音ちゃんだけだもん・・・」
紅音「なら謝るのは和成じゃない・・・」
紅音「謝るのはこんな出鱈目を書いた記者よ!」
和成「紅音ちゃん・・・」
  和成が芸能界に入る時に、ゴシップや炎上に晒される覚悟は決めていた
  私は、彼が彼らしく居てくれるなら、それだけでいい。
  だから、今やるべきことは
紅音「すぐに荷造りするわね! 誰が迎えに来てくれるの?」
和成「・・・本当に、紅音ちゃんすごいなぁ マネージャーが今向かってるからね」
紅音「了解! 両親にも連絡をしとくわ! だから、」
紅音「和成も、頑張ってね! ゴシップなんかに負けないで!」
和成「うん、頑張る・・・」
  和成との通話を終え、急いで荷造りに取り掛かった。スマホの向こうで、和成が呟いた事は、私は知らない。
和成「僕と紅音ちゃんの邪魔をする奴は・・・許さない・・・!」

〇テレビスタジオ
  今日、発売された週刊紙によると、
  歌手であり、俳優でもある
  生田和成(32)に不倫疑惑が浮上した。
  生田氏はデビュー前の24歳の頃に、一つ年下のAさん(仮名)と入籍。近隣住民は仲良し夫婦だと話す。
  しかし、先週の日曜日。取材班が撮影したのは生田氏に寄り添うアイドルの姿だった──
アナウンサー「いやぁ~ まさかの生田君の不倫報道って 一緒にお仕事したことあるけど、 信じられないなぁ」
  MCの男は信じられないとばかりに肩をすくめる。
  世間もまさかと、この報道には半信半疑だった。
アナウンサー「事務所も抗議文だしてるし、 この後生田君さぁ、会見やるんでしょ?」
アナウンサー「週刊紙が出て、当日に会見って 彼、相当言いたいことあるんじゃない?」
アナウンサー「この後15時からね、全部中継するんだよね?」
  MCの男はじゃあ僕はもう言うことは無いやと、次の話題に移っていった。

〇大会議室
和成「お忙しい中、お集まりいただき ありがとうございます」
和成「今日発売の週刊紙について、 お話をさせていただきたく、 この場を設けさせていただきました」
  朗らかで優しいと評判の彼とは思えぬ無表情と冷たい声音に、
  記者らは生田和成の怒りを感じ取る。
和成「週刊紙による、僕と女性との不倫は 事実無根の、捏造です」
和成「写真には僕と女性しか写っていませんでしたが、その場にはドラマの共演者の方々が多くいらっしゃいました」
和成「にも関わらず、 僕と女性だけを切り抜き、不倫に仕立てあげられたこと、大変遺憾に思います」
  堂々たる振る舞いに、やっぱりガセだったと記者らは明日の紙面を脳裏に描く。
  週刊紙の発行元はさぞ臍を噛んでいるだろう。
  さぁ、この後は質問タイムに入って御開きか、そう誰もがおもった。
  しかし、
和成「これだけは全国民の方にお伝えしたいのですが、」
和成「僕はお嫁さん一筋です・・・!」
和成「お嫁さんとこの先の人生を過ごすことが 僕の至上であり生存理由です」
和成「ただ、お嫁さんは一般の方なので、 これからもそっと僕たちを見守っていてください」
  ここまで言い切れるとは、余程奥さんにべた惚れなのか。記者らはなんとも言えない顔でメモを走らせた──

〇明るいリビング
紅音(嘘でしょ・・・ 明日からどんな顔して会社に行けばいいのよ・・・)
  先ほどまでの会見が何度もリフレインする。
  頑張って、とは言ったけど
  話の後半は絶対にいらなかった。
紅音「もー!今日の晩御飯は和成の嫌いなものばかりにしてやるんだから!」
  この年の憧れの夫婦ランキングで一位に輝くことになるとは、まだ誰も知らない。

コメント

  • たった一人の女性にぞっこんなイケメンっていいですよね。彼が、とても女性の方を愛している事が伝わってくる内容でした。素敵な物語ありがとうございました!

  • すごいよかったです。展開にびっくり。週刊雑誌のアイテムまであるんですね、そっちにもびっくり。

  • 芸能界のゴシップ記事は視聴者の興味をそそるのが有りますね。記者会見はある意味売名行為にもなります。彼が妻の愛情宣言をすることで妻は喜んでますね。

コメントをもっと見る(8件)

ページTOPへ