灰色のカルテジア

八木羊

第11話 小夜啼きの天使(脚本)

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〇教室
  シオンよ、救い主を称えよ!
  導く者を、牧者を称えよ!
  ラテン語の頌歌は、ただの早口言葉と
  なって生徒たちの口から垂れ流されていた
指揮者「ダメダメ! 全然、声出てないよ!」
イツキ「ふぁー・・・」
  この時期、
  午後のHRは合唱の練習時間に充てられる
  萱沼はあくびを隠そうともしない。
  教室中のCO2濃度が飽和寸前だ
女子生徒「テナー、ブレすぎじゃん? 男子、もっと頑張ってよ」
男子生徒「仕方ないだろ、 パートリーダーいないんだから。 あいつ、こんな時期に休みやがって」
指揮者「それが最近、合唱部で喉風邪が 流行っててさ、先輩たちでも 声が涸れちゃった人がいるんだよね」
女子生徒「ウチに限らず、合唱部ってどのクラスでも 練習の中心でしょ? 大丈夫なの?」
  ピンポンパンポーン・・・
男子生徒「ん?」
指揮者「なんだ?」
校内放送「本日のHRは急遽、全校集会になりました」
校内放送「皆さん、体育館まで集合してください。 繰り返します・・・」
キリエ「集会?」
  急な集会と言えば、連休前に
  苅野の件で開かれたのが記憶に新しい。
  そのせいか、つい身構える
  ガヤガヤと体育館に向かい始めた
  生徒にまじり、萱沼が近づいてきた
イツキ「・・・心当たりは?」
キリエ「さっぱり。とりあえず、行ってみよう」
イツキ「ああ」

〇体育館の舞台
校長「今日のお話は私ではなく、 眞秀理事長からしていただきます」
キリエ「・・・理事長? しかも眞秀って・・・」
イツキ「・・・この4月から創業者一族の一人で、 ロンドン校の学長だった人が 赴任してきたんだよ。始業式で挨拶してた」
  萱沼がそっと耳打ちしてきた。壇上には
  校長と入れ替わりで、パリッとした
  グレーのスーツの初老が上がってきた
眞秀理事長「本日は皆さんに大事なお知らせがあり、 直接お話しさせていただくことに なりました」
キリエ「・・・え?」
  壇上で一礼した男の顔には見覚えがあった
イツキ「・・・どうした?」
キリエ「あの人、ただの用務員じゃ・・・」
イツキ「用務員?」
眞秀理事長「昨夜、繁華街で本校の生徒数名が、病院に 緊急搬送されるという事がありました」
  ざわつく生徒たち。事件? 事故?
  ニュースになった? 様々な囁きが聞こえる
眞秀理事長「事件に巻きこまれたのか、詳しいことは 調査中ですが、生徒たちが遅い時間に 繁華街の盛り場にいたことは事実です」
眞秀理事長「我が校は自主自立を重んじ、生徒の行動に 厳しい規律は設けていません」
眞秀理事長「今一度その意味を考えて 行動を心がけてください」
眞秀理事長「くれぐれも眞秀の名に恥じないよう。 ・・・私からの話は以上です」
  理事長は一礼して壇上を去った。用務員の
  オジサンが理事長だったことも驚きだが、
  今はその語った内容のほうが衝撃的だ
  生徒たちもざわめいている
男子生徒「・・・倒れたの合唱部のやつらしいぜ。 それもナイトクラブで見つかったって」
女子生徒「・・・ナイトクラブ?」
男子生徒「全員が昏睡状態で・・・原因はお酒か ・・・ヤバいクスリだって話も・・・」
女子生徒「薬って・・・ 合唱部なんてマジメの集まりじゃん」
男子生徒「でも、3年の八十島(やそしま)先輩 みたいなのもいるし、上級生から 変な遊び吹き込まれたのかもよ」
イツキ「・・・・・・」
キリエ「理事長、なんかアッサリしすぎじゃない?」
イツキ「コウイチの件と立て続けだし、変に 噂が立つ前に収束させたいんだと思う」
キリエ「たしかに、生徒がナイトクラブで ドラッグパーティーなんて 表沙汰には出来ないか」
イツキ「あくまで噂だけどね」
男子生徒「おいおい、そう言ってくれるなよ萱沼。 俺は仲の良い合唱部のやつから 直に聞いたんだぜ」
男子生徒「上級生がクラブで、 集団幻覚キメて声が出なくなったって」
キリエ「集団幻覚?」
男子生徒「なんでも首のない天使が歌うのを聞いて、 発狂した挙句、声が涸れるんだと」
女子生徒「首のない天使って、急にオカルトに なってない? しかも首がないのに 歌うって、矛盾してるし」
男子生徒「ドラッグの幻覚なんてそんなもんじゃん? 知らないけど」
  首のない天使、昏睡する生徒・・・
  非現実的存在と現実としての被害者。
  思わず、萱沼のほうを見る
  萱沼もこちらを向き、小さく頷いた。
  私たちは教師の号令を待たず、
  人込みをぬって教室へ戻った

〇教室
  無人の教室に戻るなり、私と萱沼は
  リュックの中のUに事情を話した
U「・・・首のない天使、か。 それはたしかにアッシュマンかもな」
U「誰がそのアッシュマンかはさておき、 事件のあったクラブに行けば、 そこからカルテジアに入れるはずだ」
キリエ「クラブは駅の裏通り、繁華街のどこかだと 思うけど、具体的な店名までは・・・」
イツキ「知ってそうな人に、心当たりがあるよ」
U「なら、早速聞きに行くぞ。 もし、そいつも店に出入りしているなら 灰の匂いがするかもしれないし」

〇学校の廊下
イツキ「17時か、 けっこういい時間になったな・・・」

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