クロと蛇神と、カノジョの秘密

春日秋人

第9話 『こわいもの』(脚本)

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〇黒
  ──クロくんの怖いものは、なに?

〇教室
九郎(くろう)「僕の怖いもの・・・」
深白(みしろ)「そ。クロくんの怖いもの、教えてよ」
九郎(くろう)「と言われても・・・」
九郎(くろう)「本当に、僕に怖いものはないんだ」
九郎(くろう)「どんな任務だって、言われればやってきたからね」
九郎(くろう)「例えば──」
九郎(くろう)「2年前、流星群にまぎれて落ちてきた《訪問者》が街ひとつを乗っ取ったことがある」
九郎(くろう)「街の住民達は残らずそいつの支配下に置かれたんだ」
九郎(くろう)「《リビングデッド》──動く屍にされてね。ゾンビって言ったほうがわかりやすいかもしれないね」
九郎(くろう)「《訪問者》を始末するために僕は住民達がゾンビと化したその街へ送り込まれた」
九郎(くろう)「任務は困難だった。いっしょに任務へ参加したチームはみんなゾンビにされた。全滅だったよ」
九郎(くろう)「でも僕は」
九郎(くろう)「──そのときも、怖いとは思わなかった」
九郎(くろう)「うん」
九郎(くろう)「だからやっぱり僕に怖いものなんてないと思うよ」
深白(みしろ)「はい、うーそー」
九郎(くろう)「え?」
深白(みしろ)「わたしが抑えてるだけで、チョーカーが反応してるもん。ね、ブルブル震えてるでしょ?」
深白(みしろ)「んー、思うにさ、クロくんは怖いものがないんじゃなくて」
深白(みしろ)「怖いものを、考えたことがないんじゃないかな」
深白(みしろ)「だってクロくん、必要ないことは考えないでしょ?」
九郎(くろう)「・・・たしかに、考えたことがなかったかもしれない」
九郎(くろう)(それは深白の言うとおり、必要がなかったからだろう)
九郎(くろう)(恐怖心は任務に必要ない)
九郎(くろう)(慎重になることは必要だ。だが、恐怖がなくとも慎重になることはできる)
九郎(くろう)(恐怖心、だけじゃない──)
九郎(くろう)(任務に心は必要ない)
九郎(くろう)(感情は邪魔だ)
九郎(くろう)(脳の機能で必要なのは、任務達成の方法を演算する能力だけでいい)
九郎(くろう)(だから僕はなにも恐れない)
九郎(くろう)(恐れないでいられる)
九郎(くろう)(大切なはずの自分の命も道具と変わらず扱える)
九郎(くろう)(・・・・・・)
九郎(くろう)(でも)
九郎(くろう)(僕に怖いものがないのは、嘘だという)
九郎(くろう)(契約の証──首に巻かれた白蛇)
九郎(くろう)(神の力が、そう断じている)
九郎(くろう)(なら、きっと僕にも怖いものはあるんだ)
九郎(くろう)(心が)
深白(みしろ)「もう一度訊くよ。クロくん」
深白(みしろ)「──クロくんの怖いものは、なに?」
九郎(くろう)「・・・・・・」
九郎(くろう)「任務から外れること」
九郎(くろう)「──これまでの自分を裏切ること」
九郎(くろう)「きっとそれが、僕は怖い」
九郎(くろう)(いつでも思い出すのは血にまみれた手の感触──)
九郎(くろう)(誰かのためにべつの誰かを殺してきた)
九郎(くろう)(『これまでの僕』を裏切れば、犠牲にしてきた者たちの意味が失われる)
深白(みしろ)「そっか。クロくんは、『なにも手放さないヒト』なんだ」
深白(みしろ)「すごく優しくて、すごく欲張りだね」
深白(みしろ)「聞けてよかったよ」
深白(みしろ)「日も沈んできたし、帰ろっか。クロくん」
深白(みしろ)「ししし、今日のゲームも楽しかったよ!」

〇線路沿いの道
  ~帰路~
《燕》(スワロー)「待たせたのう《鴉》(クロウ)! 頼れる相棒《燕》(スワロー)の復活じゃ!」
九郎(くろう)「おかえり、《燕》」
《燕》(スワロー)「まったくあの神娘(かみむす)め、ひょいひょい壊しおって。この《子機》一機でいくらすると思っとるんじゃ」
九郎(くろう)「いくらするの?」
《燕》(スワロー)「大人気ソシャゲの1ヶ月の売り上げくらいかのう!」
九郎(くろう)「よくわからないけど、すごいんだ?」
《燕》(スワロー)「そうじゃ! すごいんじゃぞ!」
《燕》(スワロー)「して《鴉》よ。 今日のゲームはどうなったのじゃ?」
《燕》(スワロー)「その様子では、また任務の役には立ちそうもない微妙な秘密を掴まされた感じかの?」
九郎(くろう)「《燕》」
《燕》(スワロー)「うむ」
九郎(くろう)「どうやら僕にも心があったみたいだよ」
《燕》(スワロー)「なにを言っておるんじゃ?」
《燕》(スワロー)「当たり前じゃろ?」
九郎(くろう)「────」
九郎(くろう)「そうだね・・・。キミが相棒でよかった」
《燕》(スワロー)「ファッ!? と、と、突然なにを言い出すのじゃヌシは! 褒めても愛情しか出んぞ!?」

〇教室
  ~翌日~
  ~放課後~
深白(みしろ)「《朝食当てゲーム》!」
深白(みしろ)「クロくん。 今日は《朝食当てゲーム》をやるよー!」
九郎(くろう)「朝食でなにを食べたか当てればいいの?」
深白(みしろ)「その通り! 昨日は重たいゲーム。して重ゲーだったからね。今日は軽くできるゲームにしてみました」
深白(みしろ)「実際のルールだけど、3回チャンスをあげるからクロくんはわたしが今朝、どんな朝食を食べたか予想すること」
深白(みしろ)「当てられたらクロくんの勝ち、3回とも外れたらわたしの勝ち」
深白(みしろ)「外すごとに1回ヒントを出すね」
九郎(くろう)「深白が僕の朝食を予想はしないの?」
深白(みしろ)「三食、豆って言ってたし。 答えがわかってるもん」
九郎(くろう)「深白、それは誤解だよ。 豆にも種類があって──」
深白(みしろ)「さあ、ゲームスタートだよ!」
九郎(くろう)(《燕》、なぜ豆の話を切られたんだろう)
《燕》(スワロー)「いや、ヌシと娘、呼吸が合ってきておらぬか? ぐぬぬ・・・」
深白(みしろ)「ししし! さあ、わたしは今朝、なにを食べたでしょーか?」
九郎(くろう)「目玉焼きかな」
深白(みしろ)「な、なんでわかったの!?」
九郎(くろう)「しかも醤油派だ」
深白(みしろ)「なんでわかるの!?」
九郎(くろう)「今朝、深白の口元から醤油の香りがしていたからだよ。かすかにね」

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