読切(脚本)
〇男の子の一人部屋
僕((あれ、体が動かない))
僕「へ?」
僕「どういう、ことかな」
キョロキョロと周辺を見渡すと、・・・なんてことは無い。
ここは自分の住んでいる部屋で、目の前にはテーブルと、電源が入ったままのパソコンが置いてある。
パソコンを開いたまま寝てしまうことはいつもの事だが、動かないとはどういうことか。
比較的自由な首を動かしながら、寝ぼけた頭で考える。
椅子に座っているが、腕は後ろで拘束されており、胴体と足、肩が椅子に縛り付けられている。
僕「・・・拘束、されているのかな」
ああ、喋ることが出来るから、轡はされていないようだ。
だんだんと明瞭になる頭で、電源が入ったままのパソコンの画面が勝手に動き出す。
なんなんだ、と思えば、画面には丁寧に作り込まれたプレゼンテーションソフトが起動されていた。
僕((君に10の質問・・・?))
その表紙らしき画面をじっと見ていれば、次の文字に表示が切り替わった。
Q1 恋人の第一印象を答えよ。
僕「は・・・?」
犯人は空き巣や強盗じゃない。そう確信した。
しばらく黙り込んでいれば、左下に『迅速に答えよ』と表示された。
僕((僕が黙り込む事まで折り込み済み、という訳かな))
観念して質問に答えることにした。
僕「小動物だと思った、かな。 一人で生きていけるか心配で、傍に居てあげたいなって」
渋々答えれば、カチカチとプレゼンテーションソフトのページが次に進む。
Q2 恋人の良いところを述べよ。
再度考え込めば、すぐさまに『迅速に答えよ』の文字が表示される。
僕((よく作り込まれている))
僕「一緒にいて退屈しないところ、かな」
そこで一度、言葉を切ってみるが、画面は先に進まない。足りない、のかな。
僕「僕には考えられないようなサプライズを提供してくれるし、いつも楽しそうにしているところ」
僕「それは彼女の一番良いところだと思うよ」
そう答えれば、プレゼンテーションソフトは焦ったように次のページへ移った。
Q3 恋人の嫌なところを述べよ。
もう僕も焦らすことなく答えることにした。
僕「そんなところはない、かな」
僕「彼女に苦手なものがあっても、僕が支えれば良いだけだからね」
プレゼンテーションソフトはしばらく固まったままだ。
変な回答だったかな、と思っていればようやく次に進んだ。
Q4 今日の予定を答えよ。
僕「今日?」
今日は昨日に続いて休みだ。だから昨日は恋人とデートしたし、今日はのんびり過ごす予定だった。
再度『迅速に答えよ』が表示される前に、質問に答えた。
僕「録り溜めたテレビ番組の消化、かな」
僕「あとは昨日貰ったお菓子を食べるために、ちょっとお高めのコーヒーを淹れる予定、だったんだけどな」
体感、まだ朝である。
犯人が早く解放してくれれば、その予定通りに過ごせるであろう。
パソコンの画面は再び動きが固まった。
次の瞬間、高速で画面が変遷し、質問がいくつか飛んだ。
Q8 恋人の好きなところを述べよ。
それを見て、ようやく犯人の目的を理解した。
僕「好きなところなんて多すぎるけれど」
そう前置きして、言葉を続けた。
僕「性格のひとつを挙げるなら、行動力と想像力が豊かなところ、かな」
僕「そう、例えば、うん、例えばの話だ」
僕「休日に何しているか不安になったからって、恋人である僕を拘束して、質問するところ、とかね」
僕「・・・こら、お家に帰らなきゃダメじゃないか」
そこまで言えば、後ろからハグをされた。
僕「君、こんなに手の込んだプレゼンテーションを作るなんて、いつから考えていたんだい?」
僕「まさか、昨日買ったリボンって・・・」
僕「いや、大丈夫だよ」
両手を動かせば簡単にリボンは解けて、他の部位のリボンも動けば直ぐに外せた。
僕「確かに、君が結んだこのリボンなら自力で外せたから、監禁罪にはならない、かな」
彼女のハグを一度抜け出し、落ちたリボンを拾って、彼女の髪に結んでやる。
僕「でも、せっかく君に似合うと思って選んだんだ」
僕「僕みたいな人を縛るんじゃなくて、装飾に使って欲しい、かな」
僕「え、嫌いにならないのか、って?」
僕「まさか! 驚いたけど、多分君だろうと思っていたから」
僕「嫉妬してくれたんだろう?」
僕「こんなに可愛い嫉妬に怒るなんて、そんなことはしないよ」
僕「あぁほら、泣かないで」
僕「君の楽しくしている姿が好きなんだ」
僕「驚かされることだって、僕は喜んで君に付き合っているのだから」
僕「でもそうだなぁ、拘束されるのは困る、かな」
僕「だってこうして、君の事を抱きしめてやれないじゃないか」
髪を結び終えた僕は、そのままぎゅっと彼女を抱きしめる。
さっきまで彼女の方から僕を抱きしめた癖に、今はカチコチに体を固くして緊張している。
僕「君は僕のことが好きかい?」
僕「僕も、同じように君のことが好きだ」
僕「だから、嫌われるかも、なんて心配しなくて大丈夫だよ」
耳元でそう囁いて、名残惜しいが、彼女を抱きしめていた腕を下ろした。
僕「さ、朝食を作ろうか。君も食べていないんだろう?」
僕「既に作ってある?」
僕「ははっ、流石だ いつだって君は僕のことを驚かせるってことかな」
僕「作ってくれてありがとう。 君の手料理が楽しみだ」
僕「この後は一緒に過ごせる、かな? もちろん、君が良ければね」
癖の強い彼女に対して、特に怒ることも無く付き合う彼が、やさしいなぁと思いながら読んでいました。結局の所、お似合いなのかもしれないですね!素敵な作品ありがとうございました!
回答に満足してないとスライドが止まったり、愛の溢れる回答だと焦って先へ進んだり、読んでるこちら側がほっこりしてしまいました!
面白かったです!
一歩間違えたらサイコな彼女さんですが、それをモノともしない優しい主人公にキュンですね!
面白くて一気に最後まで読んじゃいました。