黒歴史と黒騎士

nori

エピソード1(脚本)

黒歴史と黒騎士

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〇渋谷のスクランブル交差点
「痛え──」
「気を付けろ、ガキ」
「おい、待てよ。この子に謝れよ。テメーからぶつかっておいて、気をつけろはないだろ」
「あっ?」
謎の女「自分の非を押し付けんなよ。子供に示しがつかないだろ?」
「面倒臭え女だな。わかったよ、俺が悪うございましたね。これでいいか」
謎の女「キミ、怪我はない?」
中里 優「あっ、うん」
謎の女「みっともないとこ、見せちゃってね」
中里 優「そんな・・・。助けてくれて、ありがとう」
謎の女「礼はおかしいだろ。悪いのはこっちなんだから」
中里 優「お姉さんは、悪くないでしょ」
謎の女「あっ、ほら。大人を代表してさ。素直に謝らない大人はよくないでしょ」
中里 優「あはははは」
謎の女「何だよ」
中里 優「変だよ、それ」
謎の女「何がだよ。全然、変じゃない!!」
  それが彼女との初めての出会いだった。何も悪くないのに、大人を代表して子供に謝るって
  よくわかんなかったけど、すごく真っすぐで、正義感に満ちた女性なんだと、僕はその時、思ったんだ

〇学校脇の道
  それからというもの、僕はことあるごとに街に繰り出したんだ。もう一度、会えることを期待して
中里 優「やっぱ、もう無理かなあ」
「なんで折角、就いた仕事、そんなにアッサリ辞めんのさ」
「あんなダサい仕事、俺には向かないんだよね。俺にはもっとやるべきことがあるんだよ」
謎の女「ダサいとかじゃなくて、根性ないだけじゃん」
男「もう一度、言ってみろ」
謎の女「単なる根性なしが仕事のせいにすんなよ。結局、簡単な仕事ですら、物になってないじゃん」
男「ふざけんじゃねーぞ」
謎の女「きゃあ!!痛ーい」
中里 優「やめろー」
男「なんだ、このガキ」
謎の女「キミ!?」
中里 優「お姉さんに謝れ。暴力は卑怯だ」
男「生意気なんだよ、クソガキ」
謎の女「ちょっとー、子供にまで手を出してんじゃないよ」
男「うるせーって言ってんだろ」
  ヤバいよ、警察呼んだ方がよくねー
男「ちっ!!」
謎の女「私たちも逃げるよ」
中里 優「えっ!?」
謎の女「ほら、早く」

〇入り組んだ路地裏
謎の女「ここまで来れば、大丈夫」
中里 優「あー、疲れたー」
謎の女「ゴメン、またみっともないとこ、みせちゃったね」
中里 優「ううん」
謎の女「ってか、なんでキミ、こんなところにいるの?」
中里 優「いや、その・・・、大きな声が聞こえて、気になってみたら、そこにお姉さんがいて・・・」
謎の女「ホントに?」
中里 優「ごめんなさい。ずっと探してました。また会えたらいいなあって」
謎の女「会いたいって私に?」
中里 優「うん」
謎の女「変だよ、それ」
中里 優「変じゃないよ。どうして?」
謎の女「だって見てたでしょ。私って、男を見る目ないんだよね。いっつもああなるんだ」
謎の女「初めは優しいんだよ。みんな、いい人。でも、すぐに人が変わる」
謎の女「さっき、あいつのこと罵ったけど、ホントは私せいなのかもって、思い始めてきた。こうも黒歴史が続くとね・・・」
中里 優「お姉さんは悪くないよ。よくわかんないけど・・・悪くない!!」
謎の女「あはは、ありがとう」
中里 優「黒歴史って?」
謎の女「ろくでもない男と付き合ってばかりで、隠したくなるような過去ってとこかな」
中里 優「・・・」
謎の女「だから、私に会う価値はないよ。今日だって、こんな目に遭わせちゃったしね。怪我はない?」
中里 優「お姉さん、ぼくはいい男になる」
謎の女「どうしたの、急に?」
中里 優「僕が良い男になったら、もう一度、会ってよ。お姉さんの黒歴史?僕が終わらせる」
謎の女「ありがとう」
中里 優「ダメかなあ?」
謎の女「キミ、今いくつ?」
中里 優「12」
謎の女「そっかあ」
中里 優「やっぱ、ダメだよね・・・」
謎の女「じゃあ、こうしよう。キミが今の私と同じ歳になったとき、良い男になってたら、その時はデートしよう」
中里 優「いいの?」
謎の女「その代わり、条件は2つ。君が良い男になること。これ絶対条件ね。で、もうひとつの方が難しいかな」
中里 優「なに?人の顔、じぃーと見て!?」
謎の女「キミ、絶対イケメンになると思うんだよね。で、その時、私は28でもうおばちゃん。それでもいいの?」
中里 優「男を見る目、なかったんじゃなかったっけ?だったら、僕はイケメンにはなってないよ」
謎の女「す、鋭い・・・」
中里 優「ボク、中里優。お姉さんは?」
謎の女「黒崎由紀。宜しくね」

〇アパートのダイニング
  3年後
「優、帰ったの?」
中里 優「ただいま、母さん」
「あんたさあ、何年か前によく弥生町に出かけてたこと、あったよね?」
中里 優「うん・・・」
「最近は出かけてないわよね?」
中里 優「出かけてないよ、どうして?」
「ならいいけど。今、ニュースになってる」
  3月31日、3時のニュースです。さきほどお伝えした事件に、新たな情報が入りました。犯人は依然、逃走中。
  目撃者の証言によると、犯人は背後から女性を刺し、そのまま逃走した模様。
  そして被害者の身元も確認できました。
  被害者は、黒崎由紀さん、女性。23歳
  意識不明の重体とのことです
中里 優「うそだ。そんなのうそだ」

〇墓石
(毎年、この花を添えてくれてたのは、あなたですか?)
中里 優「ええ」
(どうして?)
中里 優「約束を果たせたか、確認するためです」
(どんな約束を?)
中里 優「いい男になったら、もう一度、会ってくれると」
(変わった約束ですね)
中里 優「変わった人でしたから・・・」
(・・・)
中里 優「今、姿が見えてるってことは、どうやら俺は約束を果たせたそうですね。お姉さん」
黒崎由紀(ホントにいい男になったね。それにイケメン。思った通りだ)
中里 優「男を見る目、なかったんじゃなかったけ?」
黒崎由紀(そうだったんだけどね)
中里 優「黒歴史を終わらせにきた」
黒崎由紀(ありがとう、来てくれて。ありがとう、覚えててくれて)
黒崎由紀(もう思い残すことなく、旅立てると思ってたんだけどなあ。また、未練残っちゃったじゃん)
中里 優「どんな?」
黒崎由紀(一度でいいからいい男になったキミとデートしたかったなあ)
中里 優「行こうよ、今から」
黒崎由紀(えっ?)
中里 優「デート。由紀が行きたいところ、教えて?俺がつれていく」
黒崎由紀(うん)
  おしまい

コメント

  • ヒロインさんの性格が良くて、男を見る目がないだけで、いい女性なんだろうなと思えました。だからこそ、最後が非常に悔やまれます!!男の子もすごく一途ですね!素敵な作品ありがとうございました!

  • 悲しいお話のはずなのに、なぜか心温まってしまいました。
    お姉さんがいつまでも、たとえ死後でも明るく優しいからかな?と思います。

  • 性格が真っ直ぐで悪い人に意見ができ、子供の見本となる大人の彼女は人間として素晴らしい人です。本当に惜しい彼女を亡くしました。

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