第5話 『深白以外で呼んじゃだめだぞゲーム』(脚本)
〇学校の昇降口
~朝~
深白(みしろ)「あ、クロくん・・・おはよー・・・」
九郎(くろう)「おはよう、──深白」
深白(みしろ)「ふふふ。よしよし・・・」
九郎(くろう)「どうしたの? すごく眠そうだね」
九郎(くろう)「──深白」
深白(みしろ)「まー、朝はねー・・・弱いんだぁ、わたし」
深白(みしろ)「でもこの気怠さ・・・」
深白(みしろ)「きらいじゃあ、ない。んだよねぇ・・・」
深白(みしろ)「ふわあああ・・・」
九郎(くろう)「なるほど」
九郎(くろう)「深白にとって、それは秘密じゃないんだね」
深白(みしろ)「んー・・・? あー・・・」
深白(みしろ)「・・・ししし、どーかなぁ?」
〇教室
~1限目・授業中~
深白(みしろ)「クロくん。クロくん」
九郎(くろう)「なに、深白。授業中だよ?」
深白(みしろ)「後ろの席だから小声なら大丈夫だよ」
深白(みしろ)「ししし。みんな驚いてたねー」
九郎(くろう)「うん。昨日の今日で、僕が深白を深白って呼んでるからだよね」
深白(みしろ)「友だちみたいに、みっしーって呼んでもいいんだよ?」
九郎(くろう)「それ深白の罠だよね」
深白(みしろ)「あ、バレた?」
九郎(くろう)「深白を『深白以外で呼んじゃだめだぞゲーム』なんだよね。みっしーはアウトだ」
深白(みしろ)「ひっかからないかー」
深白(みしろ)「でも、なんか楽しいね。楽しくない?」
九郎(くろう)「深白は楽しいの?」
深白(みしろ)「うん。『なにがあったんだー!?』ってみんな興味津々で見てくるの。ムズムズするー」
深白(みしろ)「たぶんもうみんな、わたしたちが付き合い始めたって思ってるんじゃないかな」
九郎(くろう)「誤解だけどね」
深白(みしろ)「ししし。誤解を解くために、昨日あったホントのこと、みんなに言ってみよっか」
深白(みしろ)「どうなるかな」
九郎(くろう)「なにを言うの?」
深白(みしろ)「痛いって言ってもぜんぜんやめてくれなくて、血がいっぱい出た」
九郎(くろう)「・・・・・・」
九郎(くろう)「誤解が深まるからやめようね?」
〇教室
~昼休み~
深白(みしろ)「クロくーん、いっしょにご飯食べよー」
深白(みしろ)「今日はわたしもお弁当なんだー」
深白(みしろ)「机くっつけるね。んっしょっと」
九郎(くろう)「たくさん話しかけてくるね、深白」
深白(みしろ)「そりゃあそうだよ。クロくんにわたしと話してもらわないと勝てないし」
深白(みしろ)「でも勝負内容で失敗したかも。 クロくん、ボロ出しそうにないんだもん」
九郎(くろう)「深白を深白って呼ぶだけだからね」
深白(みしろ)「クロくん」
九郎(くろう)「なに、深白」
深白(みしろ)「呼んでみただけー」
九郎(くろう)「数打ちゃ当たるってやつかな? 深白」
深白(みしろ)「呼んでみたかったんだよ?」
深白(みしろ)「あと、呼ばれてみたいの」
深白(みしろ)「わかんないかなー。この乙女心がさ」
九郎(くろう)「あいにく僕は女性と無縁だからね。 経験不足なんだ」
深白(みしろ)「ツバメさんは?」
九郎(くろう)「相棒の性別を意識したことはないかな。 直接顔をあわせたこともないから」
九郎(くろう)「女性か男性かも知らないんだよね」
《燕》(スワロー)「!!!?」
九郎(くろう)(《燕》(スワロー)? どうしたの?)
九郎(くろう)(──返事がない)
深白(みしろ)「クロくんクロくん」
深白(みしろ)「ところでそれ、ボソボソなに食べてるの?」
深白(みしろ)「お弁当・・・だよね?」
九郎(くろう)「これは豆だよ。深白」
深白(みしろ)「ま、豆?」
九郎(くろう)「基本的には三食これだよ。深白」
深白(みしろ)「三食・・・豆・・・」
九郎(くろう)「深白? なんで潤んだ目になってるの?」
〇空
《燕》(スワロー)(まったく! 《鴉》(クロウ)め! まったく!)
《燕》(スワロー)(ともあれ、この調子なら今日のゲームも《鴉》が勝てそうじゃな)
《燕》(スワロー)(安心安心)
《燕》(スワロー)(しかし冷静になってみると、ワレはなにを見せられておるんじゃろうな・・・)
《燕》(スワロー)(──いや!)
《燕》(スワロー)(あれでも《鴉》は、神との命を賭けたゲームをしておるのじゃ!)
《燕》(スワロー)(世界の秩序を守る、《鴉》にしかできない任務(ミッション)を!)
〇公園のベンチ
~放課後~
~ゲーム開始から24時間が経過~
九郎(くろう)「──時間だ」
九郎(くろう)「僕の勝ちだね、深白」
深白(みしろ)「はぁ~、負けちゃった」
九郎(くろう)「また秘密を教えてもらうよ」
深白(みしろ)「えっと、その前に、ちょっといいかな」
九郎(くろう)「ん?」
深白(みしろ)「あのね、その・・・」
九郎(くろう)「うん」
深白(みしろ)「ゲームは終わっちゃったけど──」
深白(みしろ)「これからも、深白って呼んでくれる?」
九郎(くろう)「いいよ」
深白(みしろ)「ほんと?」
九郎(くろう)「今日一日で言い慣れちゃったからね」
九郎(くろう)「深白」
九郎(くろう)「これからも、そう呼ぶよ」
深白(みしろ)「ししし!」
深白(みしろ)「やったっ」
深白(みしろ)「ゲームには負けたけど目的達成だっ」
深白(みしろ)「これは実質わたしの勝ちでは!?」
九郎(くろう)「負けは負けだよね」
深白(みしろ)「悪気はないんだろうけど、ときどき容赦ないよねクロくん・・・」
深白(みしろ)「じゃあ、言うから」
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