ご都合主義なのに演出だけは良いから許せる映画みたいな関係

戸羽らい

ご都合主義なのに演出だけは良いから許せる映画みたいな関係(脚本)

ご都合主義なのに演出だけは良いから許せる映画みたいな関係

戸羽らい

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〇シックなカフェ
悠人「どう?俺と付き合わない?」
悠人「俺たち気が合うみたいだし」
志保「気が合う、ねえ?」
志保「私はそうは思わないけど」
悠人「いやいや、合うっしょ!」
悠人「好きな映画のジャンルも一緒!」
悠人「好きな場面もセリフも一緒!」
悠人「崩壊する街をバックに ゾンビになった二人は愛を確かめ合う!」
悠人「『くすっ、どうやら 世界が朽ち果てても 僕らの愛は変わらないようだね』」
悠人「今の似てた?」
志保「似てないし、私はあのシーンご都合主義すぎて好きじゃない」
志保「みんなゾンビになって自我を失ってるのに、何であの二人だけ意識があるの?」
悠人「それは・・・愛の力でしょ」
志保「胡散臭いなぁ あんたと同じくらい胡散臭い」
悠人「でも感動してたじゃん」
志保「それは・・・演出が良かったから」
志保「メリーバッドエンドは好きだし・・・」
悠人「俺たちの関係もメリーバッドエンド?」
志保「そもそも付き合ってすらないよね?」
悠人「このままいくとバッドエンドなんですが・・・俺と付き合ってくれませんか?」
志保「え〜〜でもあんた浮気するしなあ」
悠人「しない!絶対しない!」
志保「本当にそう言い切れる?」
悠人「しない!世界が滅びても浮気はしない!」
志保「世界滅びたら浮気できないけど」
志保「ていうか、私のどこが好きなの?」
志保「顔?」
悠人「そこで自信満々に顔?と訊ねる その傲慢さが好き」
志保「本当は嫌いだろお前」
悠人「いや好きだって! うまく言えないけど、そういうところが好きなんだって!」
悠人「自分に自信があって、俺が浮気しても」
悠人「『まあ別の女食って、さらに私の美味しさに気付いたんじゃない?』」
悠人「って堂々と言えるそのマインドが!」
悠人「・・・今の似てた?」
志保「似てないし、あれ強がってただけだから」
志保「本当は不安だったし、今でも不安だし」
志保「あんたと付き合っていける自信が・・・ 私にはない」
悠人「ごめん・・・」
志保「謝るくらいなら最初からするな」
悠人「ごめん・・・」
悠人「でも、ダメなんだ、俺」
悠人「色んな女と付き合ってきたけど、志保以上の女にこれから出会える気がしない」
悠人「出会えたとしても、それは別の誰かに志保の幻影を重ねてるだけで」
悠人「結局、志保じゃなきゃダメっていうか」
悠人「ダメなんだよ、もう・・・」
志保「ダメじゃん、もう」
悠人「だから改めて俺と・・・ 付き合ってほしいんだけど」
志保「じゃあ安心させてよ」
志保「あの映画のラストみたいにさ お互いがゾンビになってもずっと一緒にいられるような」
志保「そう思わせてくれるような」
志保「そんなセリフを聞かせてよ」
悠人「ここで・・・ですか?」
志保「どこでもいいよ」
志保「この世界にはもう私たちしかいないんだから」
悠人「は、入り込んでる・・・」

〇マンションの非常階段
  お店を出た私たちはなるべく人気(ひとけ)のない場所を探した
  初めて会った時もこうやって二人で抜け出して、まるで逢引きみたいだって笑い合ったっけな
  あの頃のドキドキは今も変わらなくて、それはつまるところ、私は浮気されてもなお、未だに悠人のことが好きだということだろう
  ・・・悠人の浮気を知った時、私は夢から覚めたような気持ちになった
  『そうか、今まで私は夢を見てたんだ
  だって、こんな映画みたいな展開があるわけない』
  そうやって自分の感情に折り合いをつけた
  でも分かってるんだ、私は
  このドキドキは期待だって
  このドキドキは不安だって
  色んな感情が渦巻いて、それは止められないものなんだって
  それが恋というものなんだって
悠人「コホン・・・」
悠人「志保、俺はお前と同じ墓に入りたい」
志保「死んでんじゃん」
悠人「最後まで聞いて!」
悠人「ゾンビのように永遠ではないけれど」
悠人「だからこそ、限られた時間をお前と一緒に過ごしたい」
悠人「同じ家に住んで、同じものを食べて、同じ場所に行って、同じ景色を見て・・・」
悠人「時々自分たちの人生を振り返ったりして・・・」
悠人「エンドロールが流れる間もずっと手を握っていたい」
志保「・・・」
志保「悠人って恋愛物の映画苦手だよね?」
志保「途中で飽きて席を立ったりしない?」
志保「私といても退屈じゃない?」
悠人「そんなことない」
悠人「俺にとっては志保のいない世界の方が退屈だ」
志保「・・・」
志保「それは私も一緒かな」
悠人「え?」
志保「面白い映画を観ても、感想を共有する相手がいないとつまらない」
志保「悠人がいないと、私も、退屈かも」
悠人「ってことは?」
志保「・・・これからも、よろしく」
志保「・・・って、なんかこれ私の方が恥ずかしいんだけど!」
悠人「可愛いよ」
志保「うっさいなあもう」
志保「これからも夢中にさせてよね」
志保「・・・じゃないと 今度は私が浮気するかもしれないから」
悠人「はっはっは」
悠人「させねーよ」
志保「どうかなあ?」
悠人「っ」
志保「っっ」
  彼は私を強く抱きしめ、唇を重ねる
  それはまるで誓いのようで、この映画のラストを飾るのに相応しい演出・・・
  とかわけのわからないことを考える私ってやっぱちょろいなあとか
  もう期待とか不安とかどうでもいいやとか
  街の喧騒がやけに遠くに感じられるとか
  私の舌も脳もとろけていって、頭が真っ白になっていくのだけがわかうあいいあうあ
  あういういゆあるいとあるうい
  ゆうとゆうとゆううう
  えおえぉえおえおやあいあゆう
悠人「・・・」
志保「・・・」
悠人「好きだよ」
志保「・・・」
悠人「って、おーい 志保さん?」
志保「・・・」
志保「ごめん、夢見てた」
悠人「どんな夢?聞かせてよ」
志保「すごくご都合主義なのに演出だけは良いから許せる映画みたいな夢」
悠人「俺もその夢見たいな」
志保「続きは劇場で、ってね」
悠人「俺たちの関係も続くってことでいいよね?」
志保「名作は一度完結しても次回作が作られるんです!」
志保「私たちの関係はこれからだ!」

コメント

  • 映画が好きという事もあって、すごくキャラクターのセリフ回しが独特で良かったです。また、彼と彼女の会話もテンポが良く、すっと読めました!素敵な物語ありがとうございました!

  • 映画好き同士の会話って、現実でも独特な雰囲気がありますよね。この作品からもそれが伝わってきました。
    言葉にできない言葉を表現しているところにセンスを感じます!

  • 軽口や漫才のようでもあり、生々しく痛々しいやりとりのようでもある、戸羽さん独特の雰囲気がたまりませんね
    あうあうあ~の表現もふざけているようでいて、頭真っ白で何も考えられない感じが思いの外リアルに伝わってきて良かったです!

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