灰色のカルテジア

八木羊

第8話 アンダー・ザ・ローズ(脚本)

灰色のカルテジア

八木羊

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〇植物園の中
  白黒の世界で、自分よりも大きな蜘蛛の
  怪物に襲われ、殺されそうになっている
イツキ「僕も、相当キてるな・・・」
  連日の取材に、イベントの準備。
  肉体的にも精神的にも
  だいぶすり減っている自覚はあった
イツキ「とは言え、こんな『夢』を見るとは・・・」
キリエ「萱沼、その腕は・・・」
イツキ「・・・腕?」
  破けたシャツからのぞく腕。
  そこに幾重も絡まる枯れた茨
イツキ「なんて、惨めで汚い・・・ 早く、切らないと・・・」
  床に転がっている鋏に手を伸ばす。
  が、鋏の柄にあと少しと言うところで、
  指が動かない
イツキ「いっ・・・」
  見れば、指先にきらりと細い糸が。
  それは柔らかそうな見た目に反し、
  無理に動かせば皮膚に食い込んでいく
  糸だけじゃない。腕にも、枯れた茨に
  べたべたと糸がくっついて、その棘が
  皮膚に食い込んでいく。傷がついていく
イツキ「・・・違う、僕に傷なんてない・・・ 僕は・・・僕は・・・」

〇黒背景
  バシン・・・!
男の声「どうして叩かれたか分かるな? お前が私の言った通りに出来ないからだ」
男の声「いいか、イツキ。お前も私の作品だ。 だから常に完璧でいなさい。 美しくいなさい」
子供の声「はい、お父さま」
  痛みも傷も微笑んで受け入れる。
  だって、父の手でたわめられ、切られ、
  活けられた花はどれも美しかったのだから
  叱られ、ぶたれ、殴られるほどに、
  僕も美しく咲けるはずなのだから
イツキ「・・・今に思えば、とんだ欺瞞だ」
医者の声「奥様。旦那様のご容態ですが、脳の血管が 破れて・・・いわゆる脳梗塞です。 回復は絶望的でしょう」
女性の声「そんな・・・私は、 イツキは・・・これからどうすれば・・・」
  残された庭の花たち。
  父の愛した大輪の薔薇が枯れていく
子供の声「枯れた部分を切らなきゃ・・・」
  白く枯れた部分に鋏を入れ、指を
  かけるが、支柱に絡みついた蔓は易々とは
  離れない。棘が、指に食い込んでいく
子供の声「僕では駄目だ・・・ 僕の手では枯れてしまう」
  庭仕事のためにたくし上げたシャツ
  見れば、両の腕には、
  蚯蚓腫(みみずば)れの痣が、
  かさぶたになって幾筋も残っている
イツキ「何が完璧な美だ。あなたは僕にこんな 醜いものだけ遺して、勝手に消えた・・・」
イツキ「手入れをされない花は、枯れるだけ・・・ なら、僕も枯れていく?」

〇植物園の中
イツキ「・・・ふざけるな。 こんな傷で枯れてたまるか」
  指に力を籠める。皮膚が切れ、
  糸も千切れる。右手が鋏の柄に届いた
イツキ「僕は、温室の徒花(あだばな)には ならない。咲くも散るも、僕の意志だ」
  腕に糸と茨が二重に食い込む。
  お構いなしに鋏のカシメ部分を握り、
  左腕に刃先を突き立てる
イツキ「枯れた葉は引き千切れ。 腐った根は切り刻め。 僕が望む、美しさは・・・」
イツキ「何度でも蘇る、強かな野薔薇だ!」
  吠えるように叫び、鋏を一息におろす。
  刃は糸も茨も、
  そして傷ついた皮膚をも切り裂いた
イツキ「熱い、痛い・・・でも、綺麗だ」
  傷口からあふれるのは赤い血ではなく
  青い火。火は瞬く間に両腕を覆った
キリエ「まさかアレって・・・」
U「へぇ、怪我の功名ってやつだな」
  青い火が収まり、腕に残ったのは・・・
キリエ「真っ赤な薔薇・・・?」
  枯れた茨の代わりに
  瑞々しい蔓薔薇が腕を覆う。
  これが何かは全くわからない
  でも、僕が望んでいたのは、
  たしかにこれだ
  傷だらけの肌を見るたびに、複雑に絡む
  赤い傷跡に蔓薔薇のイメージを重ねていた
  同じ赤なら醜いかさぶたではなく、
  燃えるように赤い薔薇がいい
  それは美しく、そして僕を傷つけるものを
  許さない棘の花
イツキ「・・・蜘蛛は本来、 益虫のはずなんだけどね。 お前はアブラムシ以下の害虫だよ」
  蜘蛛に向かって腕を振り下ろせば、
  薔薇の蔓が束になって何本も伸び、
  蜘蛛の8本の脚を捉えた
イツキ「その汚い脚で僕の庭を踏み荒らすな!」
  蔓を力任せに引っ張る。
  蜘蛛はガクンと膝を屈した
キリエ「萱沼、シャベルを!」
  灰瀬の視線の先にある造園用の
  シャベルに手を向ける
  腕の中からまた新たに茨の蔓が芽吹いて、伸びる
  汚らしい蜘蛛糸を薙いで、絡めとった
  シャベルを、灰瀬に向かって投げる
キリエ「サンキュ!」
  灰瀬はシャベルを受け取るなり、
  その奇妙な作り物の脚に
  思いきり打ち付けた
  脛に入ったヒビから青い火が漏れて、
  瞬く間に両足を焼く
イツキ「その脚も、僕の腕と同じ?」
キリエ「細かいことはあと! しっかり捕まえといて」
  灰瀬は助走をつけると、
  勢いよく蜘蛛の脚に回し蹴りを入れた。
  まるでコマのよう
  透き通る脚が、蜘蛛の節足を次々に折る
巨大蜘蛛「・・・・・・!」
  痛みにのたうつように蜘蛛は暴れ、
  蔓を引き千切って逃げ出す
  しかし、右の前脚2本を折られ、
  その歩みは遅い
キリエ「萱沼! 大丈夫!?」
イツキ「あ、ああ。なんとか・・・」
キリエ「あの怪物を倒したら、全部説明する。 今は力を貸して」
イツキ「・・・わかった。なら、僕に考えがある」

〇植物園の中
キリエ「ちょこまかと・・・ いい加減止まれっての!」
  脚を2本失った蜘蛛は、今度、木々に
  糸を引っ掛けて飛ぶようにして逃げ始めた
  追いかければ、来た道のほうに飛んでいく
キリエ「この!」
  灰瀬の頭上を蜘蛛は悠々と飛ぶ
  そして5メートルはあろう人工池を
  ひょいと飛んで、薔薇のドレスの
  オブジェに飛び移った
イツキ「今だ!」
  蜘蛛の頭上にある逆さ吊りの何百と言う
  薔薇飾りが、大きく揺れる
  飾りはシャンデリアに近い仕組みで、
  天井から下がる腕木に何百のワイヤーと
  薔薇が括られている
  今、これが落ちれば・・・
巨大蜘蛛「・・・・・・!」

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