人ならざる者、神のうち

坂井とーが

7 人ならざる者(脚本)

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坂井とーが

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〇テーブル席
坂井とーが「・・・・・・」
高橋夏蓮「とーが、聞いてる?」
坂井とーが「あっ、うん」
  あれ以来、会う人を本物かどうか確認してしまう癖がついた。
  だけど、あれはもう二度と現れないだろう。昔、私が溺れた沼から、幽霊のウワサが途絶えたときみたいに。
坂井とーが「で、何の話?」
高橋夏蓮「聞いてないじゃん・・・。 私の先輩の話。実家の蔵で怪現象が起きるから、見てほしいって」
高橋夏蓮「取り壊そうとするたびに、事故が起きるらしいよ」
坂井とーが「何かいるのかな。実際に見てみないことには何とも言えないけど」
高橋夏蓮「結構遠いのよね。I県北部の田舎だって」
坂井とーが「I県北部・・・。私の出身地だ」
高橋夏蓮「そうなの!?」
坂井とーが「すごい偶然。小さい頃に引っ越したからあまり覚えてないけど、ちょっと懐かしいな」

〇屋敷の門
  そうして私たちは、I県の田舎にやってきた。
北村「初めまして。あなたが坂井とーがさん? 霊能力があるっていう」
坂井とーが「霊能力というか、少し見えるだけなんです」
北村「そう。何でもいいわ。 とにかく、問題の蔵を見てもらえるかしら?」

〇古民家の蔵
高橋夏蓮「わぁ、広いですね!」
北村「おばあさんが亡くなって、この土地をお母さんが相続することになったの。男の跡継ぎは生まれなくてね」
北村「でも、お母さんは自分の生家を忌み嫌ってる。その原因が、この蔵にあるらしいの」
坂井とーが「壊そうとしたら事故が起きるそうですね」
北村「ええ。高いところのものが落ちてきたり、重機で人を轢いてしまったり、ね」
坂井とーが「・・・二階には何があるんですか?」
北村「開かずの間よ」
高橋夏蓮「穏やかじゃないですね」
北村「開けてはならない、近づいてもならないって、小さい頃からいわれてたの。 坂井さん、何かわかる?」
坂井とーが「すごく嫌な感じがします・・・。 開けてみてもいいですか?」
北村「どうぞ。鍵はこれよ」
高橋夏蓮「とーが、開けても大丈夫なの?」
坂井とーが「わからない。だから夏蓮と北村さんは、外に出ていてください」
北村「よろしくね」
坂井とーが「はぁ・・・」
  ふたりが出て行った後、私は深いため息をついた。ここは空気が重い。
  正直に言うと、来たことを後悔している。
坂井とーが(――手に負えないかもしれない)
  それでも階段を上って鍵を開けたのは、そこにいる者たちの声が聞こえたからだ。
  とても寂しく、悲しい声が──

〇黒
  ガチャ
  ギィィィ

〇地下室
  そこは、一筋の光もささない、真っ暗な部屋だった。
坂井とーが「!!」
  部屋の中にいた十数人の子供たちが、一斉に私を見る。
  その赤い瞳は、深い孤独と悲しみに染まっていた。
縺ッ繧九「だして・・・」
髮ェ蠖ヲ「だして・・・」
蟶ょヱ「ずるい・・・」
  小さな手が、次々と伸びてくる。
坂井とーが(――ごめん!)
  私は急いで後ずさりし、扉を閉めようと──
蟶ょヱ「いかないで・・・」
  扉の隙間に割り込んできた手が、私の足首をつかむ。
坂井とーが「あっ──」

〇屋敷の門
北村「実は私、霊能者なんて信じてないのよね」
高橋夏蓮「じゃあ、どうして私たちに相談したんですか?」
北村「身内を納得させるためよ。お祓いしてもらったって言えば、取り壊し工事も進めやすいから」
北村「だけど、もしあの子が二階にいるものを言い当てたら、少しは信じてあげてもいいかもしれない」
高橋夏蓮「何がいるんですか?」
北村「この地域には古い言い伝えがあるの。山で死んだ子供は、物の怪になって帰ってくるって」
北村「あの蔵にはね、帰ってきたとされる子供たちを閉じ込めてるのよ」
高橋夏蓮「どうしてですか? せっかく帰ってきたのに・・・」
北村「「物の怪になって」と言ったでしょう。帰ってきたそれは、もう人間の子供じゃない」
北村「だから、決してそれの名前を呼んだり、情をかけたりしてはいけないの」
北村「それらが自らを人間と勘違いして、やがて人間と区別がつかなくなる、と言われているから」
高橋夏蓮「昔の人は、物の怪になった子供たちを怖がったんですね・・・」
北村「それだけじゃないわ。死んだ子供たちは、死や災厄を引き寄せると考えられていたの」
北村「だから蔵に閉じ込めて、母屋への災いを引き受けてくれる身代わりにしようとしたそうよ」
高橋夏蓮「それって、子供たちが可哀想なんじゃ・・・」
北村「まったくね。ただの迷信だとしても、昔の人は酷いことを考えたものだわ」
「!!」
高橋夏蓮「とーが!?」

〇古民家の蔵
  ・・・・・・
北村「・・・死んでる」
高橋夏蓮「嘘でしょ!? とーが、とーが!」
坂井とーが(声が出ない・・・ 救急車を・・・)
北村「警察を呼ぶべきかしら──」
北村「それとも、何もなかったことにしてしまう?」
高橋夏蓮「ちょっと、先輩・・・?」
北村「ふふふ・・・」
「あはははっ」
高橋夏蓮「うぐっ──」

〇地下室
  ずっ ずっ ずっ
北村「閉じ込めなきゃ・・・」
北村「この子も、あの子も・・・」
  ずっ ずっ ずっ
北村「私たちの代わりに・・・ 死んでくれてありがとう・・・」
坂井とーが(っ、夏蓮・・・)
坂井とーが「──夏蓮!」
北村「え!?」
  金縛りが解けたみたいに、動けるようになった。
北村「あんた、なんで生き返って──」
坂井とーが「待って、落ち着いてください」
北村「いやああああああ!」
  彼女は話も聞かずに駆け出し、
  薄暗い階段から足を踏み外した。
「ぎゃっ」
坂井とーが「・・・・・・」
高橋夏蓮「ううっ」
坂井とーが「あ、夏蓮」
  もうすぐ目を覚ましそうだ。
  私は彼女を安静に寝かせて、階段を下りた。

〇古民家の蔵
北村「たすけて・・・」
  北村さんは動けないようだが、命は無事だったらしい。
  彼女は子供たちに恨まれていたのだろうか。ここを作った人間の子孫だというだけの理由で。
  蔵の入り口を見ると、最後の子供が出て行くところだった。
  あの子供たちに帰る場所があるのかどうか、私にはわからない。
  私は救急車を呼び、蔵を後にした。
  もう夏蓮とは、顔を合わせない方がいい気がした。
  人ならざる者は、私だったのだから──

〇病院の廊下
  コツ コツ コツ──
???「うう・・・」
坂井とーが「まだここにいたんですか・・・」
坂井とーが「早く成仏した方がいいですよ。 人並みの幸せなんて、私たちにあるはずないんですから」

〇ナースセンター
坂井とーが「病棟、異常ありません」
師長「見まわりご苦労さま。 坂井さんが当直だと安心だわ」
坂井とーが「・・・いえ、そんな」
  だけどもう少しだけ、ここにいてもいいだろうか。
  私が成仏できる、その日までは──

〇総合病院
坂井とーが(疲れた・・・ 早く帰って寝たいなぁ)
「とーが」
坂井とーが「あ」
  二度と会ってはいけないはずだった。夏蓮が私の正体に気づけば、きっと大変なことになるから。
高橋夏蓮「よかった・・・! もう、いなくなっちゃったのかと思ったよ!」
  駆け寄ってきた夏蓮が、私の背中に腕を回す。
坂井とーが「わ、あぶな――!」
高橋夏蓮「ごめんね。心の整理がなかなか付かなくて、会いに来るのが遅くなった」
坂井とーが「・・・大丈夫なの? 私、人間じゃないのに」
高橋夏蓮「何言ってるの!」
高橋夏蓮「とーがは人間だよ! 出会った頃からずっと、人間だったんだよ!」
坂井とーが「・・・そっか」
  思えば私の両親も、私の正体を知っていながら人間として育ててくれたのだろう。
坂井とーが(人って、あたたかいなぁ)
  こうして触れ合う肌のぬくもりが、人ではない私を人にしてくれたのだと思った。

コメント

  • おもしろかったです!一気読みしてしまいました!
    自分が人ならざる何かなんじゃないかという気持ちはなんとなく共感します。自分宇宙人説か他者全員アンドロイド説を疑っていました。友達などとの繋がりのおかげで人でいられているような感覚です。
    村、病院、電車、廃墟などリアルに出そうなチョイスで毎回怖かったです、主人公の死に制限がないことで展開にもセーフティがないのがまた恐ろしいですね……。

  • 完結おめでとうございます🎉伝奇モノとしてのワクワク、ホラー要素が面白かったのはもちろん、自分のコンプレックスと向き合いそれを否定せずに受け入れて前向きに生きることを選ぶ…素敵な物語でした☺️とーがさんが人外ながらもなんだかんだで面倒見よくて優しいのが素敵でした😆

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