第2話 『神になった女子高生』(脚本)
〇大きな木のある校舎
~日本~
~くちなわ市~
〇教室
~愚地(おろち)高校・教室~
深白(みしろ)「ふふ、転校生くん」
深白(みしろ)「わたしと隣の席だね」
深白(みしろ)「わたし、渕上深白(ふちがみ みしろ)」
深白(みしろ)「せんせーからも頼まれちゃったし」
深白(みしろ)「わからないことがあったら、なんでもわたしに訊いていーよ?」
深白(みしろ)「よろしくね♪」
《鴉》(クロウ)「うん。よろしくね」
〇ヘリコプターの中
~2日前~
~輸送ヘリ・機内~
《燕》(スワロー)「まったくあのメイド好きの鷹頭(たかあたま)!」
《燕》(スワロー)「人使い──いや鳥使いが荒いにもほどがある!」
《燕》(スワロー)「《鴉》(クロウ)! ヌシもヌシじゃ。嫌なら断ればよいのじゃぞ!」
《鴉》(クロウ)「付き合わせてごめんね、《燕》(スワロー)」
《鴉》(クロウ)「なんだったら僕だけで行くから大丈夫だよ?」
《燕》(スワロー)「いや! いやいや待ってくれ! それはいいんじゃよ、それは! 置いて行かれたらそっちのほうがつらいし! 相棒じゃろう!?」
《鴉》(クロウ)「でも」
《燕》(スワロー)「だいたいこうしておる今もワレの『本体』は1ミリも動いておらん」
《燕》(スワロー)「テレパシーの中継器としてこの《子機》を操作しておるだけじゃ」
《燕》(スワロー)「だから、つまり、なんじゃその・・・」
《燕》(スワロー)「ワレは、ヌシが心配だから言ったんじゃ」
《鴉》(クロウ)「《燕》・・・僕の能力に不安が?」
《燕》(スワロー)「違うわー! 絶対的に信頼しておるわー!」
《鴉》(クロウ)「じゃあなにが心配なの?」
《燕》(スワロー)「知らん知らん。もう知らん!」
《燕》(スワロー)「しかし、殺しても自動的に復活。殺した者は"消失"させられてしまう相手か」
《燕》(スワロー)「どうするつもりなんじゃ?」
《鴉》(クロウ)「プランAとプランBを考えた」
《鴉》(クロウ)「プランAは、とにかく標的の情報を集める」
《鴉》(クロウ)「無敵に思える相手でも、意外な弱点があったりするものだからね」
《鴉》(クロウ)「僕が、標的の通う高校に潜入しようと思う」
《鴉》(クロウ)「なぜかはわからないけど、標的はいまも普通に高校に通っているみたいなんだ」
《鴉》(クロウ)「そして、ちょうど良いというか、僕の年齢は標的と同じだ」
《鴉》(クロウ)「同じ学年、同じクラスに編入しても違和感はないだろう」
《鴉》(クロウ)「外から観測するアプローチは、すでに組織が行って成果を得られていないからね」
《鴉》(クロウ)「実際に標的と接触して、弱点を探る」
《鴉》(クロウ)「これが、標的を殺す方法を見つけられる可能性がもっとも高い」
《燕》(スワロー)「なるほどのう」
《燕》(スワロー)「それがプランA。プランBは?」
《鴉》(クロウ)「プランAが実行できなくなったときの保険だね」
《鴉》(クロウ)「命がけになるから最後の手段かな」
《燕》(スワロー)「なにをする気じゃ?」
《鴉》(クロウ)「まあ、そのときになったら説明するよ。 できればとりたくない方法だからね」
《鴉》(クロウ)「まずはプランAだ。潜入先で正体がバレないように気をつけないといけない」
《鴉》(クロウ)「そんなわけで、日本に着くまでに名前を決めないとなんだけど」
《燕》(スワロー)「名前?」
《鴉》(クロウ)「偽造するにしても、《鴉》で編入手続きするわけにはいかないから」
〇教室
~現在・教室~
深白(みしろ)「ねぇ、転校生くん」
深白(みしろ)「転校生くんは、鳥居森九郎(とりいもり くろう)くん、っていうんだよね?」
深白(みしろ)「鳥居森九郎・・・九郎・・・」
深白(みしろ)「くろう・・・くろ・・・」
深白(みしろ)「あ、じゃあ、クロくんって呼ぶね!」
九郎(くろう)「・・・・・・」
九郎(くろう)(普通の女子高生って、こんなにグイグイ距離を詰めてくるものかな)
深白(みしろ)「え、クロくんって呼ぶの、ダメだった?」
九郎(くろう)「・・・・・・」
九郎(くろう)(ちょっと驚いたけど──)
九郎(くろう)(距離が近ければ弱点を探りやすくなる。 好都合だ)
九郎(くろう)「わかったよ、渕上さん」
九郎(くろう)「クロくんでもなんでも、渕上さんの呼びやすいように呼んでくれてかまわないよ」
深白(みしろ)「ありがと、クロくん!」
深白(みしろ)「わたしのことは、シロちゃんって呼んでもいーからね。深白だからシロちゃん」
九郎(くろう)(任務のためには呼んでおくべきか?)
九郎(くろう)(でも、合わせすぎても怪しまれるかもしれないな)
九郎(くろう)「考えておくよ。渕上さん」
深白(みしろ)「ししし! 待ってるねー、クロくん!」
キーンコーンカーンコーン!
深白(みしろ)「あ、ざんねん! 授業始まっちゃう。もっとクロくんとお話してたかったんだけどなー」
九郎(くろう)「うん。僕もだよ」
深白(みしろ)「ほんとにぃ?」
九郎(くろう)「本当だよ」
九郎(くろう)(──キミを殺すために、ね)
〇教室
~1時限目・授業中~
九郎(くろう)(しかし、これが『学校』か・・・)
九郎(くろう)(『知識』はあったけど、『体験』するのは初めてだ)
九郎(くろう)(同じ年代の男女が、同じ空間で同じ服を着て同じ机について同じ話を聞いている)
九郎(くろう)(効率的なようで、効率のわるいことをしている)
九郎(くろう)(おかしな場所だ)
九郎(くろう)(けど、ここにいる人達にとっては、これが『普通』なんだよね)
九郎(くろう)「・・・・・・」
九郎(くろう)(・・・渕上深白。キミはどうなのかな?)
九郎(くろう)(キミはもう『普通』じゃない)
九郎(くろう)(神になった女子高生──)
九郎(くろう)(キミは、なにを思いながらこの教室にいるんだろう)
深白(みしろ)「~♪」
〇教室
~昼休み~
深白(みしろ)「はい! クロくん。 これ昨日までの授業のノート」
深白(みしろ)「預けるからよかったら見てみて? 授業の進み具合とかわかると思う」
九郎(くろう)「いいの?」
深白(みしろ)「どーぞどーぞ。そのために付せんで軽くメモなんかもつけてみたんだー」
九郎(くろう)「そうだったんだ・・・。ありがとう」
どたどたどた・・・
クラスの女生徒A「おうおうおう、お二人さーん! さっそく仲良しさんかこのこのー!」
クラスの女生徒B「うるさくしてすまないね転校生。 しかし、みっしーが転校生を独占している件に我々は興味津々なのだ」
クラスの女生徒A「まさかミステリアスな少年がみっしーのタイプだったとはな! こんなみっしー初めて見たわー」
クラスの女生徒C「よかった。 みっしーにも、ついに春が来たんだねっ」
深白(みしろ)「えー? そんなことないよお?」
九郎(くろう)「あの、三人は渕上さんの友だちかな」
九郎(くろう)「ええと、渕上さんってこれが普通じゃないの?」
クラスの女生徒B「否。断じて否だよ。普通ではない」
クラスの女生徒A「みっしー。その豊満なバストを使うときはいつ? 今でしょ!」
クラスの女生徒C「がんばってね、みっしー!」
どたどたどた・・・
深白(みしろ)「ううう。せくはら、された・・・」
九郎(くろう)「かしましかったね」
深白(みしろ)「まったくだよ。んー、ほんとにそういうんじゃないんだけどなあ」
深白(みしろ)「ね、そうでしょ、クロくん! そういうんじゃないよね?」
九郎(くろう)「いや、僕に聞かれても」
深白(みしろ)「ええー? だってクロくん。わたしたちはゼッタイにみんなが思ってるような関係じゃないよー」
深白(みしろ)「キミは」
深白(みしろ)「わたしを──」
深白(みしろ)「殺しに来たんだからさ」
九郎(くろう)(・・・・・・)
九郎(くろう)「なんの話かな?」
深白(みしろ)「んー。神さまにはお見通し、って話?」
深白(みしろ)「だから、とぼけなくていいよ?」
深白(みしろ)「キミ、わたしを殺しに来たんだよね」
九郎(くろう)「本当に、なんの話?」
深白(みしろ)「ししし!」
深白(みしろ)「さーてと」
深白(みしろ)「わたし、今日は学食かなー。 月曜の日替わりは好物なんだー」
深白(みしろ)「あ、放課後に時間ある?」
深白(みしろ)「話したいことあるんだよね」
九郎(くろう)「・・・・・・」
《燕》(スワロー)「ど、どどど、どうするのじゃ《鴉》!? バレておるぞ!?」
九郎(くろう)(落ち着いてよ、《燕》)
九郎(くろう)(ここからはプランBだ)
九郎(くろう)(結果によって、僕はあっさり死ぬけれど)
〇白
第2話 神になった女子高生 了
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