晴れのち告白、ときどき保留!?(脚本)
〇SHIBUYA109
よく晴れた休日。絶好の買い物日和だ!
高坂 健人「なぁ結衣、まだ買うのかよ?」
隣を歩く高坂健人が肩に掛けたショップバッグを直しながらあきれ混じりに言った。
健人は大学こそ違えど、田舎から一緒に上京してきた幼なじみだ。
休日に予定が合うとこうして買い物に付き合ってくれたり。
なんだかんだでずっと世話になっている。
橋本結衣「もちろんだよ!」
橋本結衣「だって、久しぶりに荷物持ちがいるんだもん!」
高坂 健人「はいはい、付き合いま・・・」
高坂 健人「・・・あ」
橋本結衣((ん? 健人?))
顔を向けると、健人は後ろをうかがうように少し首を回していた。
橋本結衣「・・・? どうし──」
何事かと尋ねきる前。
記憶にあるよりもずっと力強くてしっかりした手が肩に触れ、そのままぐっと引き寄せられる。
ふわりと昔懐かしい幼なじみの香りに包まれた。
橋本結衣((え――・・・!))
その瞬間、咄嗟のことに理解が追いつかず固まる私のすぐ横を、勢いよく風が吹き抜ける。
高坂 健人「――っぶね。自転車」
頭のすぐ上から聞こえるのはもう飽きるほどに聞いてきた声。
昔からずっと一緒だったから──
手を繋いだり触れあったりも、当たり前のようにしてきたはずなのに。
橋本結衣((あれ、こんなに大人っぽかった・・・っけ?))
最近なかなか予定が合わず、久しぶりに会ったせい、だろうか。
どくんと心臓が跳ねた。
高坂 健人「あ・・・うゎっ! わりぃ!」
慌てた健人にぱっと肩を押されて体が離れる。
瞳に健人の表情が映った。
ほんのりと頬が赤く染まっていることに、気づいてしまった。
橋本結衣「う、ううん。大丈夫・・・」
思わぬものを見てしまい、治まるどころが鼓動がどんどんと早くなっていく。
橋本結衣((やばい、うつったかも))
健人につられてか、顔に熱が集まってくるのを感じる。
橋本結衣((どうしよ・・・どきどきが、止まんない・・・))
橋本結衣「あ・・・あはは」
橋本結衣「気づかなかった、ありがとう」
橋本結衣「健人はいつも、優しいね!」
うるさく跳ねる心を誤魔化すように、わざといつも通りに明るく笑ってみせた。
高坂 健人「いや、別に・・・」
高坂 健人「てか、結衣がぼーっとしてるせいだろ」
健人の声にも普段のからかってくるような雰囲気が戻り始める。
橋本結衣((あれ? もしかして))
橋本結衣((この調子で話してれば、いつも通りに戻れそう!))
私はいたずらっぽくにやりと笑顔を向ける。
橋本結衣「あ~ぁ~。せっかくの休日なんだし・・・」
橋本結衣「一緒にいてくれる健人が彼氏だったら、もっとよかったのになぁ~」
高坂 健人「――っ!」
その瞬間、すっと健人の表情が陰って寂しげな顔色が浮かぶ。
高坂 健人「・・・そういうこと、簡単に言うなよな・・・」
橋本結衣((やばっ。調子に乗りすぎた・・・かも?))
橋本結衣「いや、だってさぁ・・・」
なんとか言い訳をしようと口を開いたところで、ぱっと手首を掴まれる。
痛くはない。けれど、その手のひらには有無を言わせない強さがあった。
高坂 健人「ちょっと、こっち」
そう言って健人は私を引っ張っていった。
〇公園のベンチ
少し進んだ先の、人は少ないけれど陽当たりがよくて気持ちのいい公園で健人は立ち止まった。
高坂 健人「さっきの・・・」
高坂 健人「さっきみたいな、思ってないことは、あんまり言うなよ」
私の手を離すと背を向けたまま健人が小さく言う。
橋本結衣「・・・さっき、の?」
高坂 健人「俺が彼氏だったら・・・とか」
橋本結衣「別に、思ってないわけじゃ──」
高坂 健人「じゃあ、思ってるのかよ?」
振り向いた健人のまっすぐな視線を受け、顔を背けられなくなる。
高坂 健人「俺は、思ってるよ。ずっと思ってた」
高坂 健人「結衣がただの幼なじみじゃなくて、彼女だったら良いのに・・・って」
橋本結衣((それって・・・))
高坂 健人「結衣が好きだ」
あまりにもまっすぐな言葉に、ひゅっと息が詰まる。
橋本結衣「・・・そんな、急に言われても」
突然な言葉だけれど、嫌ではなかった。
むしろ――嬉しい。
胸の奥が掴まれるような、むずがゆいような、温かい気持ちが広がっていくのを感じる。
でも――。
橋本結衣((私は健人と同じ意味でちゃんと好き?))
橋本結衣((意識したこと、なかったから・・・))
橋本結衣「え、と・・・」
健人からの告白へすぐに答えを返せなかった。
高坂 健人「・・・わりぃ、なんか俺ばっかり気持ち押しつけてるみたいで・・・」
高坂 健人「でも、返事、ゆっくりで良いから、考えてみてよ」
高坂 健人「――俺じゃ、ダメかどうか」
橋本結衣「・・・考える! 考えるから!」
高坂 健人「うん。ありがとな」
ふわりと、健人が記憶にあるどんな瞬間よりも優しく笑った。
高坂 健人「・・・よし、じゃあ買い物の続き、行こうぜ? まだあるんだろ?」
しんみりとしてしまった空気を振り払うように健人が言った。
橋本結衣「そうだね。行こう!」
問題を先送りにしただけだけれど、あやふやな気持ちのまま答えずに済んだことにほっとした時だった。
高坂 健人「あ、でも──」
先へ歩き出すかと思いきや、健人が一歩、私の方へと距離をつめる。
次の瞬間、軽く握られた健人の手の指が、ふっと私の頬に触れた。
高坂 健人「もう結衣を好きな気持ちを隠さないし、意識してもらえるようにアピるつもりだから」
高坂 健人「覚悟しとけよ」
橋本結衣「――っ!」
固まる私を残し、健人が先に歩き出してしまう。
高坂 健人「結衣~。置いてくぞ?」
橋本結衣「まっ、待ってよ!」
高鳴る胸を押さえて私は健人の後を追った。
ある晴れた日の告白。
心にほんの少し雲がさして一時保留にしてしまったけれど・・・
答えが出てすっきりと晴れるまで、そう長くはかからない予感がした。
健人くんがこれからぐいぐいヒロインちゃんに迫っていくんだろうな~と思える台詞にきゅんとなりました!幼馴染の関係性が変わる瞬間が楽しみです!
素敵な物語、ありがとうございました!
幼馴染...尊すぎます...
テンポ良く楽しく読ませていただきました!
すごくキュンキュンしました!😊こんな幼なじみが欲しかった!😭と、甘い気持ちになりました。ヒロインの返事がリアリティありますね。素敵なお話、ありがとうございます😊