疑似的恋愛アンドロイド(脚本)
〇遊園地の広場
洸「はー楽しかった! 次はどれに乗ろっか?」
洸「あ、その顔はジェットコースター乗りたいんだろ? いいよ、じゃあ次はアレね!」
彼は洸(こう)くん。
私たちは恋人同士で、今日は楽しい遊園地デートの最中だ。彼はイケメンで気遣いもできて、私を大切にしてくれる優しい彼氏。
・・・そういう設定の、アンドロイドだ。
〇テーブル席
人型アンドロイドの、疑似恋愛サービス・・・ですか?
スタッフ「ええ。『レンタル彼氏』というサービスはご存知ですよね? そのアンドロイド版と思っていただければ」
スタッフ「アンドロイドの普及率は上がりましたが、まだ身近で触れた経験のない方も多くいらっしゃいます」
スタッフ「我々はアンドロイドの存在を身近に感じていただけるよう、低価格でそうしたサービスをご提供させていただいております」
スタッフ「実際にご覧いただいた方が早いかもしれませんね」
スタッフ「このように、お客様のお好みに合わせたアンドロイドをご提供しております」
今の・・・全員アンドロイドなんですか?
スタッフ「はい。本物の人間にしか見えないでしょう?」
スタッフ「人間相手には緊張してしまうという方でも、アンドロイド相手ならという方も多いんです」
スタッフ「お客様のように、異性とのコミュニケーションに自信が無いという方にも・・・」
洸「佐伯さん、こっちの書類~・・・って、すんません接客中・・・!」
スタッフ「何をしてるんですか、洸くん。もう少し周りを見て・・・」
あの・・・そちらの方もアンドロイドなんですか?
「えっ?」
初回ってお試しサービスがあるんですよね? できれば、そちらの方にお願いしたいなと・・・
洸「え、あの・・・俺は・・・」
スタッフ「洸をご希望ですね、かしこまりました!」
洸「佐伯さん・・・!?」
スタッフ「それでは、レンタルの日程を決めさせていただきますね」
〇ジェットコースター
そこからすっかりアンドロイドの魅力にハマった私は、洸くんとのデートを重ねていた。
洸「・・・・・・」
洸くん、大丈夫? もしかして、ジェットコースターで具合悪くなった?
洸「いや、大丈夫。・・・けど、ちょっと休憩入れていい?」
構わないよ。何か飲み物・・・はアンドロイドだから飲まないか。欲しいものある?
洸「・・・膝枕」
えっ?
洸「・・・冗談。観覧車行こうぜ。あそこなら休憩もできるし」
うん・・・?
〇観覧車のゴンドラ
洸「少し楽になってきた。乗り物中断しちまって悪かったな」
気にしなくていいよ。それに、観覧車も乗り物だし!
洸「確かにそれもそうか」
洸「・・・なあ。アンタはさ、俺といて楽しい?」
ん? 楽しいよ。じゃなきゃ何回もレンタルなんてしてないし。
アンドロイドでもジェットコースターで具合悪くなるんだなって、新しい発見もできたし。
洸「ハハッ、それは禁句。不良品だと思われるだろーが」
洸「・・・あん時さ、俺を選んでくれたのって何で? 店に来たの初めてだったよな?」
うーん・・・顔が好みだったからかなあ。
洸「顔・・・」
そりゃあ好みに合わせてお選びくださいって言われてたし。
でも、雰囲気とか・・・他のアンドロイドも見せてもらう中で、洸くんがいいなって思ったんだよね。直感ってやつかな。
洸「直感か。・・・アンタはさ、何でアンドロイドなんかレンタルしようと思ったの? そういうの、必要無さそうに見えんのに」
何だか今日は質問攻めだね。・・・私、人付き合いが苦手なんだよね。自分に自信無いし。
このまま一生一人なのかなって思ったら、急に寂しくなっちゃって・・・そんな時に、疑似恋愛アンドロイドの広告を見たの。
疑似でも、恋愛って楽しいんだなって知ることができた。だから、洸くんには感謝してるんだ。
でもね、今日でレンタルを終わりにしようと思ってる。
洸「えっ、何で・・・!?」
このままじゃダメだから・・・だって私、本当に洸くんのこと好きになっちゃってる。アンドロイドなのに・・・
洸「好きになったら、ダメなのかよ?」
だってアンドロイドだよ? いくら人間に近くても私の恋は実らない。洸くんに恋したこと、後悔したくないんだ。だから・・・
洸「俺は好きだよ、アンタのこと」
洸「これはプログラムでも何でもなくて、俺自身が抱いてる感情だ。作られたモンじゃない。仕事だからでもない」
洸「・・・俺さ、本当はあの日に廃棄されるはずだったんだ」
えっ、廃棄って何で・・・?
洸「不良品だから」
洸「それが俺の運命なんだ、しょうがないって諦めてたけど・・・あの日、アンタが俺を選んでくれたことで命が延びたんだ」
洸「最初はいつ飽きられるかヒヤヒヤしてた。けど・・・アンタが笑ってくれる度に、俺はもっとその笑顔が見たいと思うようになった」
洸「俺はもう、いつ廃棄されたって怖くない。だけど・・・アンタにいらないって言われる、今はそれだけがスゲー怖いんだ」
洸「なあ。俺は不良品だし、人間でもないけど・・・アンタの傍にいたらダメかな?」
洸「レンタルじゃない本物の彼氏として、アンタを愛しちゃダメかな?」
私でいいの・・・?
洸「アンタがいい。他のやつなんていらない」
洸「俺が大好きなのは、この世界でたった一人。アンタだけなんだよ」
洸「だから、俺の彼女になってください」
・・・ッ、はい!
洸「やった・・・!!」
洸「これから改めてよろしくな、俺だけの可愛い彼女さん」
アンドロイドとの恋愛、このお話はハッピーエンドで締めくくられていますが、色々考えると、切ない気持ちが押し寄せてきました。
それでも、気持ちが通じ合った彼らが幸せに生きて行って欲しいと思わされました。素敵な物語、ありがとうございました!
洸くんがアンドロイドなのか人間なのか、ぼかしながらストーリーを進めているのがうまいなって思いました。
アンドロイドが相手だと、自分だったらたぶん本音と妄想を垂れ流しちゃいそうで……あぅ恥ずかしい😱
近い将来あり得そうなお話ですね。
そのうち人間が生きていく上でアンドロイドやロボットがサポートするのは当たり前になり…人間自体がいらなくなるのでは?!なんて思うこともあります。
けど恋や駆け引きってのは、人間の特権であってほしいです。