物語は続いている

池田 蒼

読切(脚本)

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池田 蒼

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〇手術室
  ピ
  ピ
  ピーーー
看護師「先生!心拍が!」
医者「分かってる!電気ショックだ!早く!」
  ドムン!
  ・・・
  ピーーー
医者「くそ!ダメか!」
  匙を投げた医者の前には呼吸をやめた青年が横たわっている。
女性「正樹さん!正樹さん!!」
  今メガネの女子が叫んでいたのが俺の名前だ。
  一時間ほど前、俺は駅前で通り魔に刺された。
  気がつけば病院の天井近くに浮かびながら自分が死んでいくのを眺めている。
正樹「おーい。都杏(とあ)ー。いるよー」
  メガネ女子の名前は都杏。俺の彼女である。都杏に俺の声は届かないようだ。
正樹「はぁ。やっぱダメみたいだな。きっとこれが死ぬって事なのか・・・」
  俺は観念した。
  不思議な力に背中を引っ張られる感覚が時間とともに強まっている。
正樹「都杏。ごめんな。俺そろそろ行かないといけないみたいだわ」
  俺はその不思議な力に身を任せた。

〇朝日
  ・・・
  気が付くと俺は見知らぬ海岸に立っていた。
閻魔「いらっしゃいませ~。あの世へようこそ!おひとり様でよかったですね~」
  突然、煌びやかな服をまとった女が現れた。
正樹「お、お前は・・・??」
閻魔「は~い。お察しの通り閻魔です~♪」
正樹「まじかよ!イメージとかけ離れているんだが・・・」
閻魔「現世で語られているものとは確かに違って見えますよね~。でも、こっちのほうがギャップにキュンでしょ?」
正樹「なんだよそれ!・・・いやちょっと待て、閻魔って事は俺は地獄行きって事か?」
閻魔「いえ。そこは大丈夫です。これからいくつか選択肢をお知らせしますので、その中から、選んでもらえます♪」
閻魔「えーっと、あなたの場合はー・・・」
閻魔「これで~す♪」
  そういって差し出された紙切れにはこう書いてあった。
  ・転生(記憶なし)
  ・地縛霊(記憶あり)
  ・猫(不明)
閻魔「よかったです!いいのばっか!旦那も隅に置けませんなぁ。誰かの身代わりになった方は特典つきですよ~♪」
正樹「身代わり?あぁ、そうか・・・」
  俺は刺された時の事を回想していた。

〇駅前ロータリー
  それは都杏を駅まで送った時の事だ。
都杏「正樹さん。今日はありがとうございました」
都杏「少し元気になりました」
正樹「まぁ、あまり落ち込むなよ。次があるって」
都杏「はい。また頑張ってみます」
  都杏は子供の頃から小説家になるという夢を抱いていた。
  大学を出てからもその夢が諦め切れず、バイトにいそしむ傍らで、執筆活動を続けていた。
  その日は、最終選考まで残った文学賞の発表日だったが、
  彼女は落選した。
正樹「じゃあまたな。気を付けて帰れよ」
都杏「はい。送っていただいてありがとうございました」
  俺はがらにもなく小説を読むのが好きだった。都杏との出会いは本屋でだ。
  ありえない話だが、同じ本を取り合うタイミングが合い、それがきっかけに会うようになった。
  都杏には俺にないものが多くあった。そしてそれが魅力的だった。
「危ない!そいつナイフもってるぞ!!」
  唐突に見知らぬ男が都杏めがけて、突進してきている。
正樹「危ない!!」
  とっさに俺は都杏と男の間に割り込んだ
男「どけぇ!!」
  ダンッッ!!
正樹「ぐ、ぐうぅ・・・」
都杏「正樹さん!!」
男「くそ!!」
  そう叫んで男は走り去った。
都杏「正樹さん!!しっかりして!!」
  俺はその場に崩れ落ちた。すでに都杏の声は遠くから聞こえてきている。
  そこで俺の意識は途絶えた。その後は病室で、気が付けば天井に浮かんでいたってわけだ。

〇朝日
閻魔「さ、次の人もいますんでそろそろ選んでもらっていいですか?」
  俺は迷っていた。
  紙に書いてあったことからすると、転生して別の人生を歩むか、幽霊か、もしくは・・・
正樹「おい、この「猫(不明)」ってのは、どういう事だ」
閻魔「はい。猫になって転生します。ただ、記憶については人によるみたいで、なってみないとわからないんですよね~」
  俺は決めた。
  未練がましいかもしれないが、もう一度都杏に会いたい。そして、それは記憶をなくして改めてではなく、俺として。
正樹「猫だ」
閻魔「ほんとにいいんですね?」
正樹「あぁ」
閻魔「わかりました~」
  閻魔がそういうとまばゆい光にあたりが包まれて、俺はその光に溶けていった。

〇街中の道路
  ざーーーー
  俺は猫に生まれ変わった。
猫「にゃ~」
  記憶は奇跡的に残っていた。
  だが、路地裏に生まれ、なんとか今日まで猫生を生き延びてくることでやっとだ。
  都杏にまた会うなんて事は夢のまた夢だ。考えが浅はかだった。

〇渋谷の雑踏
  おれはボロボロになりながら、何年もかけて微かな記憶をたよりに、都杏の住む街を探し続けた。

〇本屋
  既に記憶も猫としての記憶が大半を占めるようになる。
  おぼろげに浮かぶ本のイメージだけが拠り所になっていた。
  ふと迷い込んだ本屋で、俺は一冊の本を見つける。
猫「にゃ~ん」
  著:まさき とあ
猫「にゃ~ん」
  もはや、俺にその文字を読むことはできなかった。
  ただ、懐かしさだけが心に飛び込んで来て、たまらなく切ない。この感情は一体なんだ。
猫「にゃ~ん」
  俺は泣き続けた。
「あらあら、猫君。こんな所に迷い込んじゃって。わたしの本が気にいったのかな」
  そういって俺の背後から女性が歩み寄ってくる。
都杏「この本はね。失った大切な人が猫になって戻ってきてくれるお話なの。もしかして、君がそうなのかな」
猫「にゃ~ん」
都杏「ふふ。一緒に帰りましょうか」
  俺はこの人を知らない。
  だけど温かい。
  気が付けば俺は彼女の胸に飛び込んでいた。

〇黒
  おしまい♪

コメント

  • 主人公の選択、そしてその後の展開が全て切なくて、心がキュっとなりました。たとえ記憶が無くても、彼女の傍にいる事が出来るような猫生を歩めそうで、ちょっと安心している自分がいます。素敵な物語、ありがとうございました!

  • 冒頭の衝撃から、行きつく暇もない展開。キャラの立った閻魔様の人外み溢れる優しさの在り方。最後に残る切なさ。
    好きです!!!!(告白)
    彼の視界からでは通り魔の件解決したとは思えないですし、彼女さんが心配ですよね…
    記憶を失っても、言葉が読めなくなっても彼女の傍に居たいという気持ちだけは失わなかった彼の一途さがたいへん良きです…
    存分に甘やかされる猫生過ごして欲しい…

  • 表紙絵に「この結末はあり? それともなし?」って書かれていらっしゃいますが、個人的にはありだと思います。

    お互いがお互いに気づけない……その切なさがよかったです。

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