言の葉色のハーブティー

坂井とーが

言の葉色のハーブティー(脚本)

言の葉色のハーブティー

坂井とーが

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言の葉色のハーブティー
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〇テーブル席
元カレ「仕事ばかりのつまらない女だな」

〇店の入口
奥本雪音(また思い出しちゃった・・・ もう別れたのに・・・)
奥本雪音(ああ、やめよう。今日はリフレッシュする日!)
奥本雪音「ん?」
  ハーブティー専門店 言の葉
奥本雪音(ヒーリングみたいなものかな?)
奥本雪音(最近、そんな広告がやたらと目に入る)
奥本雪音(まぁ、試してみるだけなら・・・)

〇カウンター席
  カラン──
朝倉伊月「ようこそおいでくださいました」
朝倉伊月「わたくしは、『言の葉』の店主、朝倉伊月(いつき)と申します」
朝倉伊月「こちらのお席へご案内いたします、お客さま」
奥本雪音「ありがとうございます」
奥本雪音(丁寧な接客だな)
朝倉伊月「お客さまは、どのようなハーブティーをご所望ですか?」
奥本雪音「ええと、あまり詳しくないんです」
朝倉伊月「さようでございますか。 でしたら、どなたにもお楽しみいただけるハーブティーをブレンドいたしましょう」
  『仕事ばかりのつまらない女だな』
奥本雪音(また思い出してる・・・)
朝倉伊月「お客さまへのおすすめは、空色のハーブティーでございます」
朝倉伊月「マロウブルーという花を使ったハーブティーは、空をグラスで掬ってきたかのような青い色をしているのです」
朝倉伊月「ときに、お客さま。空を流れる雲にも名前があることをご存知ですか?」
奥本雪音「雲の名前? ひつじ雲や入道雲なら知ってます」
朝倉伊月「実は、見過ごしてしまいそうな目立たない雲にも、それぞれに名前がついているのです」
朝倉伊月「たとえば、筋雲とよばれる、白い刷毛でさっと掃いたような雲」
朝倉伊月「空に白いベールをかけたような薄雲」
朝倉伊月「晴れた日にふわふわと浮かぶ綿雲。 綿雲の底は平らで、上は丸みを帯びています」
朝倉伊月「どのような雲も、このグラスで捕まえることはできません」
朝倉伊月「さぁ、お召し上がりください」
奥本雪音「わぁ、きれいな色・・・! いただきます」
奥本雪音「・・・おいしい。 なんだか、不思議な味がします。優しくて、ほっとするような・・・」
朝倉伊月「お褒めにあずかり、光栄です」
朝倉伊月「お客さまには、心を落ち着ける効果のあるハーブをブレンドいたしました」
奥本雪音「・・・私、疲れて見えましたか?」
朝倉伊月「恐れながら申し上げますと、何か悩み事を抱えていらっしゃるようにお見受けしました」
奥本雪音「当たりです。 私、元カレに「仕事ばかりのつまらない女」って言われちゃって・・・」
奥本雪音「もちろん、そんな男はすぐに振ってやったんですけど」
朝倉伊月「心無い言葉ですね」
奥本雪音「ほんとですよ」
奥本雪音「・・・でも、ずっと仕事をしている女なんて、やっぱりつまらないのかも」
朝倉伊月「そのようなことはありません。 お仕事に費やす時間の長さで、人を測ることなどできませんよ」
奥本雪音「でも、このお店もきっと8時間営業くらいでしょう?」
朝倉伊月「いいえ。当店は朝8時から夜10時まで営業しております」
奥本雪音「14時間!? 大変じゃないですか!?」
奥本雪音(私の労働時間より長い・・・!)
朝倉伊月「ご心配には及びません。お客さまはほとんどいらっしゃいませんので」
奥本雪音「それはそれで・・・」
朝倉伊月「ひとりの時間は、パソコンに向かっております。わたくしの本職はフリーランスのプログラマーですから」
奥本雪音「なるほど。 変わった働き方ですね」
奥本雪音(いいなぁ、自由で・・・)

〇開けた交差点
奥本雪音(・・・空が青い。 マロウブルーみたいだ)
奥本雪音(あ、あの雲、底が平らだ。 別の雲は、底までもこもこしてる。なんて名前なんだろう?)
奥本雪音「・・・」
奥本雪音(もしかして、あの人は──)

〇カウンター席
  一週間後、私は再び『言の葉』を訪れていた。
朝倉伊月「またいらしてくださったのですね」
奥本雪音「この前はありがとうございました」
奥本雪音「朝倉さんが雲の名前を教えてくれたのは、私が顔を上げられるようにだったんですね」
朝倉伊月「ええ。 当店自慢の、言の葉ブレンドでございます」
奥本雪音「私、少し考え直したんです」
奥本雪音「つまらない男の、心無い言葉にとらわれてたのかなって──」
  カラン カラーン
和也「雪音ッ!」
奥本雪音「え、和也!? どうして!?」
和也「探したんだぞ! 俺は別れるなんて納得してないからな!」
朝倉伊月「・・・」
和也「お前、俺の他に男を作ってたのか!?」
奥本雪音「違う! この人はただの店員さんよ!」
和也「そんな言い訳信じられるか! 仕事で忙しいって言ってたのは、この男と会うための嘘だったのかよ!」
奥本雪音「違うって!」
和也「おい、そこのインテリ!」
奥本雪音「――ッ!」
和也「まともな仕事もしてねぇくせに、人の女に手ぇ出しやがって!」
奥本雪音「だからこの人は関係ないのッ!」
和也「お前は黙ってろ!」
朝倉伊月「失礼ですが、お客さまの方こそ言葉を慎まれてはいかがですか?」
和也「何だと!?」
朝倉伊月「お客さまの言葉は品位に欠け、たいそう不快に感じられます」
和也「てめぇ、ぶん殴られてぇのか!?」
朝倉伊月「脅迫ですか・・・」
朝倉伊月「そう仰るのでしたら、お付き合いいたします」
朝倉伊月「わたくし、武道の腕には自信がございますので」
和也「うっ・・・」
朝倉伊月「今から表に出られますか?」
和也「う、うるせぇ! 覚えてろ!」
  カラーン
朝倉伊月「行ってしまわれましたね」
奥本雪音「ご、ごめんなさい!」
朝倉伊月「お気になさらないでください」
朝倉伊月「心無い言葉を忘れるために、ハーブティーなどいかがですか?」
奥本雪音「・・・はい、お願いします」
朝倉伊月「お名前は『ゆきね』様とおっしゃるのですね」
奥本雪音「はい。空から降る『雪』に、『音』と書きます」
朝倉伊月「美しいお名前です」
朝倉伊月「本日は、『雪音』様のお名前にちなんで、雪のように白いカモミールミルクティーといたしましょう」
朝倉伊月「雪が降るときには、どのような音を立てるのでしょうか」
朝倉伊月「それは、人の耳には届かない音かもしれません」
朝倉伊月「ときに、寒い地方では、吐く息が凍ってかすかな音をたてるそうです」
朝倉伊月「それを、『星のささやき』とよぶのだとか」
奥本雪音「きれいな言葉ですね」
朝倉伊月「ええ」
朝倉伊月「当店自慢の、言の葉ブレンドでございます」

コメント

  • 言葉って本当に癒されますねぇ(*´`*)
    こんなカフェがあったら行きたい、いや、開業したいくらいでした!!!
    私も『空の辞典』を持っている雲好きなので、このような感性を持っている坂井さんと出会えて嬉しいです♪

  • 素敵なお話でした!
    お洒落な言い回し、気遣い、プログラマー、そしてなんと武道も心得ているとは…!
    オールマイティなイケメンには憧れます。
    マロウブルーの花は初めて知りました。
    「空をグラスで掬ってきたかのような」…という言の葉が、お洒落で幻想的でお気に入りです!
    空色のハーブティー、飲んでみたいです。
    元彼の対応にはスカッとしました(笑)
    面白かったです☺️

  • 気配りができて知識や言葉を操って人を癒せる朝倉がかっこいいです。優しいという言葉には優れていないと実現できない要素が含まれていると思っていて、個人的に理想の優しいイケメンでした。
    元彼は自分の言葉が雪音を傷つけたことを自覚していなさそうです、自分も気を付けないといけないなと思いました。

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