嘘つきオオカミと最後の夜(脚本)
〇研究機関の会議室
『人狼』
それは、村人の中にまぎれ込んだ人食い狼を探し出すゲーム。
鈴原朔也「ルールは把握しました。 この中に1人、人狼役になった人がいるんですね」
鈴原朔也「それから、『占い師』や『騎士』という特別な能力を持った村人もいる、と」
「能力は誰が持ってる?」
鈴原朔也「待ってください。初日から名乗り出るのはやめましょう」
鈴原朔也「特に、騎士の人」
鈴原朔也「夜に村人を守る能力のある騎士は、真っ先に襲われる危険があります」
向井真奈(旅行サークルの活動で、こんな激しい心理戦になるなんて・・・)
「人狼は誰?」
「お前か?」
「あんたこそ!」
鈴原朔也「俺は、発言の少ない人が怪しいと思います。人狼探しに参加していないのは、人狼だからではありませんか?」
『昼』のターンで、村人チームは怪しいと思う者を1人選んで追放する。
先輩「違う! 俺は人狼じゃない!」
『夜』になると、人狼は村人を1人選んで食い殺す。
「ぎゃああああ!!」
〇研究機関の会議室
「3日目の朝になりました。村人は広場に集まってください」
向井真奈「まだ終わってないなんて・・・」
鈴原朔也「残り3人か。 ごめん。俺が判断を間違えたせいだ・・・」
向井真奈「そんなことない。朔也くんはがんばってくれてたよ」
広瀬「騙されるな!」
広瀬「俺は人狼じゃないし、真奈ちゃんも違うんだろ。だったら、朔也が人狼で確定だ!」
向井真奈「先輩・・・」
鈴原朔也「真奈ちゃん、騙されないで」
鈴原朔也「同じ理由で、俺は先輩が人狼だと確信しています」
向井真奈「朔也くん・・・」
向井真奈(どちらかが人狼なのよね・・・)
広瀬「朔也が「怪しい」と言った人間は、全員無実だったじゃないか!」
広瀬「こいつは村人チームを引っ張る振りをして、逆に俺たちを追い詰めていたんだ!」
鈴原朔也「ミスは認めます。 亡くなった人たちには、本当に申し訳ないことをしました」
鈴原朔也「でも、ここで負けるわけにはいきません」
鈴原朔也「俺は、無実の人たちを犠牲にした罪を背負って生きていきます」
鈴原朔也「真奈ちゃんと、共に──」
広瀬「・・・おい、迫真の演技だな。 たかがゲームなのに」
鈴原朔也「俺は真剣ですよ」
鈴原朔也「たとえゲームだとしても、大切な人を死なせるわけにはいきません」
向井真奈(今、「大切な人」って──)
鈴原朔也「俺は必ず真奈ちゃんを守ってみせます」
鈴原朔也「真奈ちゃん、きみの役は『騎士』だよね?」
向井真奈「どうしてわかったの!?」
鈴原朔也「俺は初日に、「騎士は真っ先に襲われる危険がある」って言っただろ」
鈴原朔也「そのときの反応で、すぐにわかったよ」
向井真奈(見透かされてる・・・)
鈴原朔也「もし俺が人狼なら、騎士の正体を見破っていて野放しにすることはありません」
鈴原朔也「真奈ちゃんが無事でいるのは、俺が村人だからです」
広瀬「違う! お前はそう言って真奈ちゃんを味方に付けるつもりで、最後まで残したんだろう!」
鈴原朔也「いいえ。そのためだけに騎士を残すのはリスクが高すぎます」
広瀬「だったら、騎士の正体に気づいていたというのが作り話だ!」
鈴原朔也「先輩。もう少し建設的な意見を言ってもらえませんか?」
鈴原朔也「さきほどからあなたは、俺の言い分を躍起になって否定するばかりです」
鈴原朔也「もっとも、先輩が人狼だから、そうするしかないのでしょうが」
広瀬「ぐっ」
鈴原朔也「真奈ちゃん」
向井真奈「はい!?」
鈴原朔也「俺と先輩は互いに投票し合う。 だから、この勝負を決めるのはきみの一票だ」
向井真奈「責任が重い・・・」
鈴原朔也「俺を信じて。必ずきみを守るから」
向井真奈「・・・」
広瀬「待ってよ。俺は本当に人狼じゃないんだ」
向井真奈(先輩は焦ってる。 どう考えても、冷静に話をしてる朔也くんの方が正しそう)
「投票の時間になりました。村人はこの中から人狼だと思う者を選び、追放してください」
ピロン
「広瀬さんが追放されました」
広瀬「ちくしょおおお! 覚えてろよ、朔也!」
「夜になりました。村人は家に入ってください」
〇殺風景な部屋
「村人は朝まで外に出られません」
向井真奈(最新の体験型ゲーム施設だけあって、演出がリアルなのよね)
向井真奈(無事に朝が来れば、村人チームの勝ちか)
向井真奈「・・・」
〇研究機関の会議室
鈴原朔也「たとえゲームだとしても、大切な人を死なせるわけにはいきません」
鈴原朔也「俺は必ず真奈ちゃんを守ってみせます」
〇殺風景な部屋
向井真奈(あれはどういう意味だったのかな?)
向井真奈(まるで告白──)
ガチャ
向井真奈「え?」
向井真奈「まさか・・・」
鈴原朔也「こんばんは。 襲いに来たよ、真奈ちゃん」
向井真奈「朔也くん、嘘でしょ!?」
鈴原朔也「残念だったね。俺が『人狼』だ」
向井真奈「騙された・・・!」
鈴原朔也「やっと2人きりになれたね、『騎士』さん」
鈴原朔也「自分自身を守れない騎士が、これからどうなるか、わかる?」
向井真奈(こ、殺される・・・!)
鈴原朔也「覚悟はいい?」
向井真奈「──その前に、ひとつだけ教えて」
向井真奈「私を守りたいって言ってくれたのは、ゲームに勝つための嘘だったの?」
鈴原朔也「――いや、あれは本気だ」
鈴原朔也「俺は殺す側になってしまったけれど、それでもきみを守りたかった」
鈴原朔也「だから解釈を変えたんだ。 人狼は夜に村人を──」
鈴原朔也「『 食、べ、る 』」
向井真奈「待って、それってただの設定でしょ」
向井真奈「なんで近づいてくるの?」
鈴原朔也「ふふ。ゲームだから襲われないとでも思ってた?」
鈴原朔也「人狼が勝ったら、残った村人を好きにしていいんでしょ?」
向井真奈「そんなルールないよ!?」
向井真奈「ちょっと待って、朔也くんっ」
鈴原朔也「そう言う割には、逃げないね」
向井真奈「それは・・・」
鈴原朔也「ねぇ、キスしていい?」
向井真奈「っ──」
バタンッ
鈴原朔也「あっ」
広瀬「朔也、てめぇ、ふざけんなよ!」
鈴原朔也「わ、先輩!」
広瀬「この野郎! 涼しい顔で嘘つきやがって!」
鈴原朔也「いててて。ギブ! ――ギブですって!」
広瀬「よくも俺たち全員を殺してくれたな!」
鈴原朔也「そういうゲームですから」
先輩「朔也くん、サイテー」
鈴原朔也「あははは」
広瀬「くそっ」
向井真奈(さっきのは、何だったんだろう・・・)
〇お化け屋敷
向井真奈「・・・」
向井真奈「あっ」
向井真奈「えっと、さっきのって──」
鈴原朔也「ねぇ」
鈴原朔也「今夜、また襲いに行っていい?」
彼女はその後、オオカミさんに食べられたんでしょうか。笑
てっきりこれで推理は当たってる気はしたんですが、タイトルを思い出して、はっ!と。
人狼役のかっこよさ、ずるさが詰まっていてドキドキしました。
人狼ゲームが好きでお話も書いてみたいと思いつつ、議論を描写すると文字数がかさんで無理だなあと諦めていました。人狼ゲームの本質は推理より心理かもしれないですね、最終日を集中的に描くことで判断役の葛藤やリアルの人間関係への影響が伝わってきておもしろかったです。怖い人ってかっこいいですよね不思議と。ちなみに僕は大体村人を引いて判断を誤ります
紳士な発言と無邪気な笑顔からのオオカミ化のギャップが良いですね😆
ここまで白熱するとサークル崩壊しそう(笑)