夏空は天まで届き遡る

相沢梓

読切(脚本)

夏空は天まで届き遡る

相沢梓

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〇教室
  8/31(日) ○○小学校 2年1組 教室
ユミ「あら? カケル君?」
カケル「あ、先生 どうしたの? 今日から夏休みだよ。間違えて学校来ちゃったの?」
ユミ「違うわよ。 先生は新学期の準備があるのよ」
ユミ「カケル君こそ学校で何しているの?」
カケル「自由研究!」
ユミ「自由研究?」
カケル「そう 早めにやっとこうと思って」
ユミ「でも何でわざわざ学校で?」
カケル「学校の七不思議を調べようと思ってね」
ユミ「七不思議?」
カケル「知らないの? 旧校舎に出る幽霊とか夜になると走る人体模型とか・・・」
ユミ「ってちょっと待ってそれを調べに行こうと思っているの?」
カケル「そうだよ」
ユミ「ダメよ 旧校舎は立ち入り禁止だし、夜遅くまで学校にいてもダメ」
カケル「ええー!? 何で? 別にいいじゃん」
ユミ「ダメです」
カケル「ちぇっ じゃあなに調べようかな」
ユミ「昆虫の研究とかどう? ほら、カケル君虫取り好きじゃない」
カケル「わざわざ調べなくてももう知ってることばっかりだもん。 ・・・・・・あ」
カケル「そうだ。じゃあ先生を研究するよ」
ユミ「え? わ、私?」
カケル「うん だから先生が職員室で仕事してるの隣で見てて良い?」
ユミ「それは構わないけど、どうして私なの?」
カケル「先生のこと好きだからだよ」
カケル「だから大きくなったら先生と結婚してあげても良いよ」
ユミ「・・・・・・」
カケル「先生? どうしたの?そんな顔して」
ユミ「え?ううん何でもない。ありがとう でもカケル君が大人になる頃私もうおばさんになってるわよ」
カケル「大丈夫だよ。 何歳になっても先生はキレイだから」
ユミ「あはは (どこでそんな言葉覚えてきたのかしら)」
ユミ「じゃあ取り敢えず職員室行きましょうか?」
カケル「うん」
  私は去年も彼の担任をしていた。
  その時から彼は私に好きだと言ってくれる。
  どこで覚えてきたのか大人ぶった言葉と共に。
  結婚なんて言葉がすぐにでてくるところが子供っぽくて可愛らしい
  明るく元気な彼を気に入っている教師は多いのだろう

〇学校の廊下
カケル「あれ?先生足引きずってるけど、怪我してるの?」
ユミ「え、ああこれね ちょっとねん挫しちゃってね」
カケル「大丈夫?」
ユミ「ええ、大丈夫よ ありがとう」
ユミ「それより今職員室は私しかいないけど、大人しくしないとダメよ」
カケル「はーい」
  私は元気に歩くカケル君の少し後ろを歩いていた。
  私の気持ちがばれないように

〇役所のオフィス
カケル「じゃあ先生はいつも通り仕事しててね 僕観察するから」
ユミ「ハイハイ」
  私は彼と会話しながら、必死に笑顔を作っていた。
  彼に私の暗い気持ちが少しでも伝わらないように

〇役所のオフィス
カケル「終わったー」
ユミ「頑張ったわね」
カケル「じゃあ先生、帰る前にちょっとお話ししようよ」
ユミ「・・・・・・そうね じゃあ少しお話ししましょうか」
ユミ「カケル君は夏休みどこか旅行した?」
カケル「え?先生何言ってるの 夏休みは始まったばかりでしょ これから行くんだよ」
ユミ「・・・・・・ううん 違うわカケル君 今日は8月31日 夏休み最後の日よ」
カケル「え?そんなはずないよ だって・・・」
  戸惑うカケル君を前に私は胸が傷んだ。
  それでも告げなければならない。
  きっとそれが私の義務だから
ユミ「・・・・・・カケル君、どこにも行けなかったんじゃない?」
カケル「あ、そうか僕・・・」
  そう言うとカケル君の体は薄くなっていき、そしてフッと消えた
ユミ「・・・・・・」
  3年前カケル君は交通事故で亡くなった
  事故は学校を出てすぐのところで起きた
  ちょうど1学期最後の日だった
  居眠り運転をしていたトラックが歩道に突っ込んできて即死だったようだ
  その時私はカケル君と一緒にお話をしていた。
  彼は夏休みの予定を嬉しそうに私に話してくれていた
  私は命に別状はなく、足の怪我だけですんだ
  その足は今でも引きづって歩かなければならないが、カケル君に比べれば大したことじゃない
  誰も私を責める人はいなかった
  不幸な事故だとみんなが言った
  それでも私はあの時のことを後悔している
  彼をなんとか助けることができたんじゃないか、
  いや、そもそもあんな場所で話さずに校舎で話せば良かった、そんなことばかり考えてしまう
  そしてあの事故の後、毎年夏休みになるとカケル君は私の前に現れるようになった
  消えることのない私の後悔が見せる幻なのか、彼の未練が起こしている現象なのかわからない
  でもきっと来年も彼は私の前に現れる
  それだけは分かる
  だから私は来年も彼と話をする
  私の後悔が、そして彼の未練が断ち切られるまで

〇田舎の学校
  誰もいない校舎は静寂に包まれている
  煩わしいセミの鳴き声も、今年はもう聞きおさめのようだ

コメント

  • まだ子どもなのに事故に遭ってしまったカケルくんが不憫ですね。
    先生はそのことを知っていて、毎年カケルくんとお話してるんですね。
    なんだか悲しい中にも温かさを感じた作品でした。

  • 私は幼い頃父親を交通事故で亡くしているので、その無念の魂がこの世に存在することを信じている方です。そして、私の中でそれは当然のことのように感じます。墓参りという行為の他、こういった形で故人をしのぶこともできますね。短いストーリーなのに、とても引き込まれました。

  • 怖い!カケルくんが怖い!交通事故で亡くなったカケルくんは先生のことが本当に大好きだったんだね。先生は後悔の念で笑顔がなかったんだ。

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