第6話 灰色、再び(脚本)
〇学校の廊下
萱沼過激派の女子たちは
不可解な傷を負った手首を抑えながら
私をにらみつけていたが、やがて・・・
女子生徒「もう行こうよ。 こんな子に関わるだけ無駄だって」
園田「・・・ふん」
彼女は腹立ちまじりに地面に落ちていた
私のポーチを蹴飛ばして、去っていった
U「お、おい! 丁寧に扱えって!」
???「今、なにか聞こえたような・・・ これ、かな?」
女性は拾い上げたポーチに耳を当てた。
その中には、Uの首が入っている。
私は慌てて杖を握り直し立ち上がる
キリエ「すみません! それ、私のスマホです」
???「放課後まで電源は切らないと駄目だよ。 はい、これ」
そう言ってポーチを差し出す女性。当然、
生徒ではない。でもこんな先生、
見たことがない。新任だろうか?
キリエ「えーっと、先生?」
教育実習生「ああ、私、教育実習生のカナエ」
キリエ「・・・苗字は?」
教育実習生「え?」
キリエ「ほら、 先生を名前で呼ぶのってなんか変ですし」
鈴木先生「あはは、ほんとだ。 鈴木カナエって言います。 よろしくね、灰瀬さん」
キリエ「どうして、私の名前を?」
鈴木先生「高1に、骨折した子がいるって 聞いてたから。たしか、 全国レベルのバレリーナだとか。違った?」
キリエ「いえ、合ってます。灰瀬キリエです」
鈴木先生「それで、灰瀬さんはなんで他の女子たちと揉めてたの? ・・・まさかイジメ?」
キリエ「彼女たち、萱沼イツキのファン なんですけど、私が彼に怪我させたら、 もうカンカンで・・・」
鈴木先生「あの萱沼君か。テレビにも出たとかで、 すごく人気あるもんね」
キリエ「でも、2人とも、怪我してるのか急に 腕を押さえて去って行って・・・」
鈴木先生「ああ、また・・・」
キリエ「また?」
鈴木先生「知らない? ここ最近、切り傷が出来たって 保健室に来る女子が増えてて、 しかも皆どこで怪我したか覚えてないの」
キリエ「知らないうちに怪我?」
鈴木先生「誰に襲われたとか、危険物の報告もなし。先生たちは、『多感な年頃だし、そういう遊びが流行ってるんだろう』なんて」
鈴木先生「まあ、ここだけの話、原因は萱沼君って 言う人もいるんだけど・・・」
キリエ「萱沼? あいつが何かしたんですか?」
鈴木先生「何も。ただ、怪我をした生徒の大半が 萱沼君の熱心なファンだったから、 彼がそそのかしたんじゃないかって」
キリエ「萱沼がそそのかすなんて『ない』ですよ。あいつ、誰にでも愛想いいけど、 結局、自分にしか興味ないから」
キリエ「自分のために血を流させるとか、そういう生臭い関係なんて絶対嫌がるだろうし」
鈴木先生「なるほどね。灰瀬さんって 人をよーく観察してるのね」
キーンコーンカーンコーン・・・
鈴木先生「あ、次の授業始まっちゃう! じゃあね、灰瀬さん」
キリエ「・・・マイペースというか、なんか 不思議な雰囲気の先生だったな・・・」
U「おーい、終わったか? ちょっと話が・・・」
キリエ「今から授業。またあとで」
〇教室
男子生徒「あれ? 萱沼は?」
男子生徒「まさか鼻血でそのままぶっ倒れたとか?」
教師「静かに。萱沼は家の用事で今日は早退だ」
キリエ「用事・・・?」
〇教室
キーンコーンカーンコーン・・・
女子生徒「ねえねえ。萱沼くんの用事って、 植物園のリニューアルイベントの 準備でしょ。テレビでやってた」
女子生徒「高校生で区のイベント任されるとか、 やっぱすごいよね!」
男子生徒「どいつもこいつも萱沼って、 マジうぜえ・・・」
男子生徒「つか、アイツに入れ込んでる女子ども、 みんな怪我してるし、なんか不気味だよな」
男子生徒「それだけど、あの噂知ってるか?」
男子生徒「ああ、萱沼のやつが自分の育ててる薔薇に女子の生き血を吸わせてるってやつだろ」
男子生徒「生き血って、吸血鬼かよ。 つか、荒唐無稽すぎんだろ」
男子生徒「えー、テレビのインタビューでも、萱沼が 白い薔薇を真っ赤な液体にジャブジャブ 漬けてたし。アレ、ぜったい女子の血だぜ」
園田「馬っ鹿じゃないの? あれは染色っていう 技法。使ってるのはただの色水」
男子生徒「じゃあ、お前らの傷はどこでついたんだよ」
園田「それが覚えてないんだって。気づいたのは3日前で、ほんと痛みとかもなかったし」
女子生徒「私も同じ。3日前っていうと、 園田さんと植物園に行った日だっけ? 植物で切ったのかな」
男子生徒「結局イツキの追っかけで出来た傷かよ。 やっぱ戦犯はイツキな」
苅野「ったく・・・どいつもこいつも 好き勝手言いやがって」
キリエ「言わせておけばよくない?」
苅野「・・・イツキのやつ、 こないだ親父さんが病気で亡くなって、 自分が家継がなきゃって気負ってるんだ」
苅野「メディアの露出が増えたのもそのせい だし、その上、変な噂まで立てられたら、 アイツだってキャパオーバーだ」
キリエ「イツキのお父さん、亡くなったの? たしか、脳梗塞で入院中だったとか・・・」
苅野「ああ。6年前に倒れてからずっと 寝たきりで、とうとう、この春休みにな」
キリエ「・・・・・・」
キリエ「ボールのこと、 ちょっと大人げなかったかな・・・ん?」
リュック越しに背中をドンと
小突かれた気がした。多分、これは・・・
キリエ「U!!」
キリエ「ごめん! 私ちょっと用事が・・・ バイバイ!」
苅野「あ、ああ・・・じゃあな」
〇屋上の入口
普段締め切りになっている屋上前の
踊り場で、リュックからUを取り出す。
ここなら誰も来ないはずだ
U「踏んだり蹴ったり、僕に人権はないのか!」
キリエ「あるわけないし、教室で暴れないでよ。 バレたらどうするの」
U「仕方ないだろ。灰の匂いがしたんだから」
キリエ「灰って・・・まさか、アッシュマンの?」
U「そう。そしてアッシュマンがいる カルテジアの匂いでもある」
U「僕を蹴飛ばした女子たちから、 かすかに匂ったんだ」
U「アイツら、多分カルテジアに迷い込んだな」
キリエ「じゃあ、手首の傷はアッシュマンに?」
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