優しさジャイアニズム

六月一日

優しさジャイアニズム(脚本)

優しさジャイアニズム

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〇シックな玄関
  数ヶ月前、恋人に振られた。
  それも別れ際に人格否定までされ、しばらく立ち直れなかった。
  そんなある日の休講日、朝から同じ大学に通う幼馴染が襲来した。
黒田千夏「今日暇だよな?」
「え、朝から何──」
黒田千夏「ちょっと出かけっか」
「はぁああ??まじで意味わかん、力強っっっ!!」
  抵抗虚しく、問答無用で外に連れ出された。

〇本屋
  黒田千夏、同じ美大に通う幼馴染。
  生まれながらのジャイアンに連れられてきたのは、本屋の画集コーナーだ。
黒田千夏「若冲の大判の画集がほしいんだよな〜」
「よく朝一で襲来してきましたね」
黒田千夏「だってお前この時間なら休日も支度整ってんじゃん」
  こちらの習慣を当たり前に把握されていたため、急にきて身支度できてなかったらなどという文句は封じられた。
  ため息を吐きながらもいつもの事だと気持ちを切り替えた。
「欲しい画集がビジュより解説強めのしかない時あるね」
黒田千夏「話通じるの助かる」
(あ、ポスター画家集ある・・・ ギリとれるかな)
  気になる画集に手を伸ばそうとすると、横から伸びてきた手がそれをとった。
黒田千夏「ん」
「え、よくわかったね」
黒田千夏「どうせスタンラン目当てだろ?」
  目当ての画家の名前を当てられ驚きつつも頷いた。
「うん、この人の単独の画集なかなか無いから」
黒田千夏「うちにたしかスタンラン展の時の図録あったぞ」
「まじか、さすが古書店の息子」
黒田千夏「また探しとくからそっちにしとけば」
「ありがと、スタンランだけのあるならそっちのがいいもんね」
  何も言わなくても理解されてる感がありがたい。
黒田千夏「よし、目当てのもんなかったし、とりま昼前に県美いくか」
「また急に・・・」
黒田千夏「そんな口きいていいのか?」
「?」
黒田千夏「行きたがってただろ、印象派展」
  そう言って展覧会のチケットを出しヒラヒラと揺らした。
「うわ!行きたい!」
黒田千夏「『いきたい』?」
「このクソ虫をどうぞお連れください」
黒田千夏「いや、・・・っはは!そこまで言えって言ってないわ!」
黒田千夏「あ〜おもろ。じゃ行くか」
  軽口もそこそこに、県美へと向かうことになった。

〇立派な洋館
黒田千夏「まぁまぁ混んでんな」
「今回の目玉にモネの『日の出』があるし、ゴッホ、ドガ、スーラとかの有名作品もあるからね」
黒田千夏「ま、ゆっくり回ろうぜ」
「そうだね」

〇ホテルのエントランス
  展示室に入り、順路に沿って見て回ると人だかりが見えた。
黒田千夏「お、あれが『日の出』か?」
「多分そうだね、すごい並んでるし」
黒田千夏「俺は見てこうかと思うけど──」
「もちろん見る!」
黒田千夏「だよな」
  暫くして目の前の人達が順にはけていき、目の前に日の出が現れた。
黒田千夏「・・・・・・」
黒田千夏「いや・・・・・・クソしょっ──もがっ」
「言うなよっ今言うなよ!」
  千夏の言わんとすることを察し、口を塞いで人気の少ないところまで引っぱっていった。
黒田千夏「だっておまえ、あれ・・・あんな並んで・・・ふっ」
「わかるけど・・・まさかあんな・・・ ちっちゃぁ・・・」
黒田千夏「ばかやめ・・・・・・はははっ!」
  お互い実物を見るのは初めてだったため、知らなかったのだ。
  あの有名作が、思いの外小さく色が薄かったとは。
  あまりのギャップに声を潜めて肩を震わせた。
黒田千夏「あ〜笑ったわ〜」
黒田千夏「めっちゃ笑えたけど俺らとことん失礼だな」
「千夏と同じ感性で助かった」
黒田千夏「やっぱお前ときてよかったわ」
黒田千夏「あとは自由に回るか」
「うん」
  この後は各々、好きな作品をじっくりと自分のペースで見て回った。
  どちらにしろ、千夏と来ると最終的に出口合流なのはお互い言わなくても承知の上だ。
  自分の好きなゴッホの『星月夜』の前で立ち止まりじっくりと見る。
(他の人ときても、気を遣ってこんなに自由に見られないからありがたいな)

〇立派な洋館
  鑑賞を終え出口に向かうと、千夏がすでに待っていた
「ごめん、待たせた」
黒田千夏「満足できたか?」
「存分に!」
黒田千夏「よし、じゃあ飯行くか!」
黒田千夏「それかいつものカラオケいって飯もそこにするか?」
「いいよ」
  またもや行き先が決められていたが、今日は千夏に付き合うことにした。
  久々に気持ちが晴々としていた。

〇カラオケボックス(マイク等無し)
黒田千夏「おー新曲あんじゃん」
「え、歌いたい」
黒田千夏「俺が先で〜す」
「子供か!」
  千夏とは好みの音楽も似ているのでカラオケに来ても盛り上がる。

〇カラオケボックス(マイク等無し)
黒田千夏「あ、そうだ」
  ご飯も食べ終えたタイミングで千夏がこちらの座っている上に乗り上げてきた。
「えっ何っ」
黒田千夏「わりーそっちに鞄あって」
  千夏はそう言うと鞄から何かを取り出し、テーブルに置いた。
黒田千夏「ん」
「?」
黒田千夏「あけてみ」
  そう促され目の前の小さな紙袋をあけた。
「これ・・・」
  中には『星月夜』のミニチュアマグネットが入っていた。
黒田千夏「お前、好きだろそれ」
  うれしくてちょっと泣きそうだ。
「ありがとう」
黒田千夏「何、素直じゃん」
「これのことだけじゃなくて・・・」
「正直最近落ち込んでたから、今日嬉しかったんだ。ありがとう」
  そう伝えると、千夏は真剣な顔でこちらをみた。
黒田千夏「俺はお前の好きな色も好きな画家も知ってるし、美術館は自分のペースで見たい奴だってこともわかってる」
「うん、ありがたい」
黒田千夏「休日朝もきちんと身支度整えるし、わりと押しに弱くて優しい奴だってのも知ってるから」
黒田千夏「お前が最低野郎と別れて俺は良かったとおもってる」
黒田千夏「ってかそもそもお前は俺といたら楽しそうだから、俺といればいいじゃん」
「!」
黒田千夏「で?返事は?」
  こちらの答えを分かりきったようなにやついた顔に腹が立つ・・・
  が、こちらとしてもその通りだと思う。
  今すぐ返事するのは癪に触るので、答えるのが数日後になるのはまた別の話。

コメント

  • ジャイアニズムという単語からは想像も出来なかったほど、中身は優しさにあふれていました!途中で挟まれる会話も、二人が美大生であるという事が伝わりすごく良かったです!素敵な作品、ありがとうございました!

  • ジャイアニズムなちょっと強引な行動でも、根底に優しさがあるのが伝わってくるから、落ち込んでいるときこそ本当に身にしみますね。しかもこの強引さが、照れ隠しなのかなってところもまた可愛いかったです。

  • すごく優しい人で、主人公のことが好きで関心を持ってるから、あれこれと知って覚えてられるんですよね。
    落ち込んでる時に引き上げてくれる人がいるのは素敵なことだと思います。

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