定刻通りに、またここで。(脚本)
〇住宅街の公園
氷上 優「━━そんで顧問がカンカンに怒っちゃって。 集合写真の顔に落書きしただけなのにさ!」
学校から2人とも早く帰れた時、いつも決まってこの公園で過ごしていた。
小学生の頃は、家が近くて、この公園に遊びに来る時間もほぼ一緒で、ただ遊ぶだけの仲だった。
中学に進学した頃から、わたしたちが会える時間もガクンと減ってしまったけれど・・・
でも、9年もこのおしゃべりを続けているから、何でも話せる仲になっていた。
他愛のない事から、進路、部活、親の愚痴まで。
・・・いつまでこの時間も取れるんだろう。
また3年後には、受験に追われる身だろうし、優ちゃんとも離れちゃうだろうし・・・
氷上 優「・・・・・・顔固まってるけど、沙貴どしたの?」
沙貴「あ!えっと、ごめん、な、何だった?」
氷上 優「全く俺の話聞いてねーじゃん! そこはツッコむかなんかしてくれよ〜!」
沙貴「あはは・・・ごめん」
氷上 優「・・・・・・・・・」
気まずい沈黙。
優ちゃんは顔を覗いてくるばっかり。
沙貴「・・・ゆ、優ちゃん、なにか言いたいの?」
氷上 優「・・・今日、なんかおかしくね?お前」
沙貴「・・・えっ、急になんで?」
氷上 優「・・・普通なら、わざと遅れてツッコミ入れたり、『だって聞いてなかったもん』とか言って、全然謝んないんだよ。沙貴って」
氷上 優「なんか今日、落ち込んでる?」
沙貴「・・・!」
氷上 優「いや、俺の気のせいだったらマジでごめんだけど・・・なんかそんな気がして」
沙貴「・・・別に! ・・・・・・何ともないけどっ!」
氷上 優「それ、なんかモヤモヤする時に勢いで押し切ろうとするのも・・・昔と変わんねーな」
はっとする。
昔、私がこう言って大喧嘩したことがあった。二日間口を聞かなくて、そこから─どうやって仲直りしたんだっけ。
氷上 優「・・・どうしたんだよ。話してみろよ」
沙貴「・・・ほんと、何にもないの。何かあったわけじゃないし、何か言われたわけでもないの」
沙貴「ただ漠然と、不安なの。 2人で話せるこの時間が好きなのに、私達がおっきくなるにつれて、全然時間が合わなくて・・・」
沙貴「話したいことは毎日いっぱいあるのに、文章で打つと、なんか変になっちゃう気がして、全然チャットできないし・・・」
沙貴「──ぁ、」
ぽろぽろ、と手のひらに2粒、涙が落ちる。
夕暮れ時の風に当たった手は、少しづつ、冷めていくばかりだった。
氷上 優「──確かにこれからは、もっと忙しくなる。クラスだって、今みたいに一緒になれないだろうし・・・」
氷上 優「今の高校を卒業して大学に行くんだって、地元を離れなきゃいけなくなるだろうし・・・」
氷上 優「でもな?」
氷上 優「今まで、俺が約束守んなかったこと、あるっけ?」
沙貴「・・・! 無い、けど・・・」
氷上 優「どんだけ時間が取れなくても、どんだけすれ違ってても、またいつもみたいに約束しよう?」
氷上 優「俺だって、正直お前とずっと話してたいんだ。だから、離れても、忙しくても、絶対、またここで会お?」
氷上 優「俺だって、この時間が、すごい好きなんだよ」
氷上 優「だから、約束。な?」
風に当たって、指先も冷たくなってきた。
でもそこに、ひだまりみたいな優ちゃんの、少しおっきな手が重なってくる。
沙貴「・・・うん。約束ね、優ちゃん」
定刻通りに、またここで。
彼女の不安を察知し、それを吹き飛ばすような言葉をかける優くんから、圧倒的光を感じました!9年という月日は、10代にとっては人生の半分です。きっと、別れの時は本当に寂しい気持ちになるんだろうな、と思いました!素敵な作品ありがとうございます!
優しい彼にキュンキュンしますね。
不安になる彼女の気持ちもわかりますが、そういうのを全部吹き飛ばして、受け入れてくれる彼って素敵だなぁと思います。
確かに直接話すのとそれを文章化するのとでは内容がうまく伝わらなかったり、裏目になってしまったり、難しいですよね。
9年間も一緒にいたら、相手の異常を察知するのもなんとなーくわかる気がします。