読切(脚本)
〇アパートの玄関前
春海のアパート
〇アパートの台所
結城健一「ガハハ」
結城春海「食べる時ぐらい、動画見るのやめてよ」
結城健一「チッ(舌打ち)」
結城春海「あっ今お腹動いた!健ちゃん!」
結城春海「お腹に手を当ててよ」
結城健一「だって飯食ってんじゃん」
結城春海「こういう時って、分かち合うものでしょ」
結城春海「今まで一度も無いじゃない」
結城健一「そういうの苦手なんだよ~ そのうちにするからさ~」
結城春海「そのうちって言ってる間に産まれるよ」
結城健一「それにそのお腹、カエルみたいだろ カエル、だめなんだよね」
結城健一「あそっか、俺のお玉杓子がカエルになったんだ」
結城健一「てか実は、よそのお玉杓子からだったりして なんて~」
結城春海「ひどすぎるよ!」
結城健一「ちょっと!」
結城健一「物投げんなよ ごめん冗談、ジャパニーズジョーク」
結城春海「結婚したの、後悔してるんでしょ! 本当はもっと遊べたのに」
結城春海「悪かったね、カエル並みに繁殖力高くて」
結城春海「(号泣)」
結城健一「わ、悪い ちょっと職探しに出かけてくる」
(春海)
健ちゃんは都合悪くなるといつも逃げる
〇公園のベンチ
公園
遊ぶ声や草野球の音が聞こえる
ベンチに座っている春海
結城春海「健ちゃんのバカ」
カキーン!(ホームランの音)
結城春海「ボールがこっちに飛んでくる!」
結城春海「どうしよう、腰が抜けて動けない!」
結城春海「キャー!!」
桜井智也「いてっ!」
結城春海「だっ大丈夫ですか?!」
結城春海「ごめんなさい 私をかばってくれたんですよね」
結城春海「今、タオルを濡らしてきますから」
桜井智也「大丈夫だから、気にしないで」
結城春海「でも」
桜井智也「また飛んでくるかもしれない、危ないよ」
桜井智也「さ、行こ」
結城春海「えっちょっと」
〇海辺
(春海)
彼は少々強引に海に連れてきてくれた
結城春海「海なんて久しぶり」
桜井智也「名前は?」
結城春海「まだ決めてないの」
桜井智也「お腹の子じゃなくて、あんたの」
結城春海「春海っていうの」
春海
(春海)
私は砂浜に名前を書いた
桜井智也「春の海か 今まさにこの状況だね」
(春海)
彼は砂浜に名前を書いた
智也
桜井智也「おれ、智也 高校生やってる」
結城春海「高校生?! 智也くんって大人っぽいね」
結城春海「今、学校の時間じゃないの? それに大きな荷物」
桜井智也「家出してきたんだ」
結城春海「えっ!」
桜井智也「前から入念に計画した事なんだ」
桜井智也「ひとりで生きていけるよう ネットで稼いでる」
桜井智也「貯金だって、ほら」
結城春海「こんなに?!」
桜井智也「コツコツ貯めたんだ」
桜井智也「家出先は、そこの空き家になってる 海の家」
桜井智也「死んだ祖父の形見なんだ」
桜井智也「だから僕の事は大丈夫」
結城春海「若いのに、用意周到なんだね」
結城春海「なんかちょっと生意気」
桜井智也「へへ」
桜井智也「ねえ、妊婦ってどんな気分?」
結城春海「どんなって」
結城春海「結構しんどいかな この子、父親に愛されてない」
結城春海「きっと私の事も」
結城春海「ごめん なんか涙が」
桜井智也「そっかぁ~ヨシヨシ」
結城春海「おまけに私の体、カエルみたいでしょ」
桜井智也「そう?でも僕は好きだよカエル」
桜井智也「ねえ、ゲロゲロって言ってみてよ」
結城春海「や~だよ~」
桜井智也「言え、この泣き虫ガエルめ~」
桜井智也「じゃないと コチョコチョ・・・・・・」
結城春海「アハハ・・・・・・」
結城春海「も~くすぐったい~」
結城春海「ゲロゲロ」
桜井智也「カエルだ~ ハハハ・・・・・・」
〇海辺
結城春海「あっ雨・・・・・・」
〇小さな小屋(ガムテープあり)
空き家になってる海の家
結城春海「帰った方がいいんじゃない? お母さん、心配するよ」
桜井智也「いないから大丈夫 母さんは僕が生まれてすぐ死んじゃったんだ」
桜井智也「僕の命と引き換えに」
結城春海「ごめん」
桜井智也「いいんだよ」
桜井智也「今の家族とは絆が無いんだ」
桜井智也「唯一の家族の思い出は 母さんのお腹で過ごした十月十日(とつきとおか)だけ」
結城春海「そうだったんだね」
桜井智也「これ見て」
結城春海「開けていいの?」
うなずく智也
結城春海「これは」
桜井智也「そう、僕のへその緒」
桜井智也「母さんとの絆なんだ」
結城春海「なんか素敵ね」
結城春海「宝物見せてくれてありがとう」
結城春海「あっ今、お腹動いた!」
桜井智也「ほんと! 触っていい?」
結城春海「えっ? うん、いいよ」
桜井智也「ほんとだ、動いた すごい、すごいよ!」
結城春海「はしゅぎすぎだよ」
桜井智也「お腹に耳当てさせて」
桜井智也「僕がこの子の通訳してあげる」
結城春海「えっ智也、そんな事できるの?」
桜井智也「なになに? ここは退屈でしょうがないよ、だって」
結城春海「ごめんね もう少しの辛抱だから」
桜井智也「早くママに会いたいよ、だって」
結城春海「ママもだよ」
桜井智也「ずーと、ここにいなよ」
結城春海「えっ」
桜井智也「今のは僕の言葉」
桜井智也「旦那さん、春海にもこの子にも絆無いんでしょ」
桜井智也「僕といなよ」
結城春海「智也」
ふたり唇を重ねようとした、その時
結城春海「うぅ!痛い!」
桜井智也「春海!大丈夫か!」
結城春海「う、生まれそうなの」
気を失う春海
桜井智也「春海!! しっかりしろ!」
桜井智也「スマホを借りるよ」
桜井智也「もしもし、大至急、救急車を!」
スマホを切った瞬間、着信ベルが鳴る
『健ちゃん』の表示
それに出る智也
(健一の涙声)
やっと繋がった
どこにいんだよ!
ほんとごめん俺が悪かった
(健一の涙声)
仕事も決まったんだよ
いいパパ、いい夫になるから
だからうぅ、帰ってきてくれよ~
桜井智也「もしもし」
(健一の声)
誰だ!誘拐犯か?
春海に何かあったら、許さねえからな!
桜井智也「・・・・・・」
〇病院の廊下
春海が救急車に運ばれ、病院に到着
同席する智也
ストレッチャーに運ばれてる春海
目が覚め
結城春海「智也、必ず戻ってくるから」
悲しげに首を横に振る智也
結城春海「なぜ?」
桜井智也「これあげるよ」
結城春海「へその緒 これ大切な物じゃない」
桜井智也「いいんだ 今日から僕達の絆のあかし」
桜井智也「じゃあね」
結城春海「智也」
分娩室に運ばれる春海
桜井智也「・・・・・・」
結城健一「(息切らせて) ハアハア あの春海、妊婦知りませんか?」
結城健一「誰か親切な人が ここに運ばれたって、知らせてくれたんだけど」
桜井智也「妊婦さんなら、そこに運ばれてましたよ」
結城健一「サンキュな」
桜井智也「では」
(赤ちゃんの泣き声)
おんぎゃあ~おんぎゃあ~
〇キラキラ
(春海)
智也はどこかに消えた
(春海)
そして私は男の子を出産した
どこか彼に似ている男の子
(春海)
私は健一の反対を押しきって
その子をトモヤと名付けた
(春海)
トモヤ、ずっと一緒にいてね
(春海)
だってトモヤは
ママの永遠の恋人だからー
旦那さんの冷たい言葉にとても悲しくなりました、最終的には頑張ると言ってくれましたが何だか信じがたい気がします、、、家族が幸せでありますように。
途中、旦那さんの投げかける言葉がひどすぎて悲しくなりましたが、最終的によいパパになろうとして戻ってきたのであきらめずうまくいってほしいです。
母親のいない智也君は、目の前に現れた母性あふれる春海さんに亡き母の面影を探したんでしょうね。そして彼女の話から、生まれてくる子が自身のように寂しさを感じることなく育つように共に生きようと提案したんだと。彼との絆は彼女の強さになると思いました。