見えない恋人

南実花

エピソード1(脚本)

見えない恋人

南実花

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〇黒
  僕はいつも暗闇の中にいる
  この暗闇が始まったのはあの日からだ

〇市街地の交差点
  7月13日
  単刀直入に言うと、僕はこの日事故にあった
  僕が乗っている車に
  真正面から別の車が突っ込んできた
  マップを確認していて、前を見ていなかったという
  その事故で僕はガラス片が目に入り失明
  その時運悪く道路を渡っていた少女は即死
  その他 僕の親や
  相手方の親子は軽傷済んだ
  不思議なことに、そこに居合わせた
  僕・亡くなった方・相手方の子は
  皆同じ歳だという

〇特別教室
  僕は今 特別支援学級のある高校に通っている
  突然だが、皆は運命を信じるだろうか
  この高校は事故現場の目の前にあり
  さらには、ここであの娘と再会した
  彼女は古月 咲希(フルツキ サキ)といい
  これは先生から聞いたことだが、
  何らかの障がいを患っているという
  詳しいことはなんとなく・・聞かないようにしている
  彼女を傷つけたくないからだ
  そう僕は
  彼女と話しているうちに
  恋心を持つようになっていた

〇市街地の交差点
  僕達は毎日一緒に帰ってはここで話をしている
  いつも一緒に話してくれてありがとう
島木 進「何だよ急に?」
  だって私って面倒くさくない?
  君と話せるのはいつもここって・・・
島木 進「いいんだよ! 学校じゃ緊張して話せないんだろ?」
  うん
島木 進「・・・」
島木 進(この空気 どうにかしなきゃ!!)
島木 進「そっ、それにしてもあの事故からもう3ヶ月かぁ」
  ・・・
島木 進(なんでこの話題を出した!僕は!! 空気悪くなるだけじゃないか!!)
島木 進「あ!ごめん💦 そんなつもりじゃっ!!!」
島木 進「この空気感を何とかしようと思って・・・」
島木 進「余計悪くしちゃった」
  全然いいよ
  君はいつも私に優しいから
  それが善意なことくらいわかってるよ
島木 進「ありがと・・・」
  それにかっこいいし!!
島木 進「え・・・」
  あっは!君をからかうの楽しい
島木 進「な・・・」
  ずっと一緒にいたいなぁ
島木 進「いっ居れるよ」
  はーあ!この世から事故なんてなくなってしまえばいいのに
島木 進(聞こえてない・・・恥ずかしい)
  どうしたの?顔真っ赤にして?
島木 進「なんでもないよ!」
  ふーん
島木 進(僕はどうしても古月さんの前だと たじたじになってしまう)
島木 進(・・・)
島木 進(でもやっぱり古月さんって!!)
島木 進「かわいいなぁ」
  えっ!何?急に!?
島木 進「あっ心の声が・・・」
  心の声って、いつもそんなこと考えてるの?
島木 進「いやいやそんなことなぃ っていうのも失礼だし・・・」
  ふふっ!やっぱりからかうの楽しい!
  びっくりした〜
  ・・・。
  でも・・嬉しい
  この時の僕は こんな毎日がずっと続くものだと思っていた

〇特別教室
  数日後 唐突に先生の口から告げられた”それ”に
  僕の頭は真っ白になった
先生「古月さんは」
先生「本日付で転校することになりました」
島木 進「え?どういうことですか?」
先生「彼女の病気が治ったことで、すぐに転校することが決まったそうだ」
島木 進「病気?僕は障がいと聞きましたが?」
先生「まぁ障がいにもなるのかな」
先生「彼女は失声症だったんだ」
島木 進「え?」
先生「例の事故がショックで声が出なくなってしまったんだ」
島木 進(声が出ないってどういう・・・?)
島木 進(でも、だって僕達 会話を・・・)
先生「でも君が話しかけてくれるうちに」
先生「少しずつストレスがほぐれていったそうだ」
島木 進(じゃあ・・・僕が話していたのは)
島木 進「誰・・・・・・」
先生「それで古月さんから君に最後に話したいことがあるらしい」
先生「いつもの場所に来て欲しいとの事だが、 わかるかな?」
島木 進(きっといつも話しているあの場所だ)
島木 進「はい、わかります」
先生「それじゃあ放課後に行ってやれ」
島木 進「はい・・・」

〇市街地の交差点
島木 進「古月さん?」
古月 咲希「うん」
島木 進「・・・違う」
島木 進「やっぱりいつも聞いてる声と違う」
古月 咲希「・・・」
島木 進「ねぇ古月さん 僕は一体誰と話していたの?」
島木 進「あの時間はなんだったの?」
島木 進「僕の妄想?無駄な時間じゃ──」
古月 咲希「無駄じゃない!!」
古月 咲希「あの時間は私にとって決して無駄ではなかった」
古月 咲希「私はあなたのおかげで失声症を根治できた」
島木 進「じゃあ!」
古月 咲希「わかってたよ?」
古月 咲希「あなたが話している相手は私じゃないことはもちろんわかってけど・・・」
古月 咲希「でもわたしにはそれを伝える手段がなかった」
古月 咲希「それに私は」
古月 咲希「誰かに恋するあなたとその会話が好きだった」
古月 咲希「まるで本当に自分に言われているような気持ちになって」
古月 咲希「勇気もらったり・・」
古月 咲希「ドキドキしたり・・・」
島木 進「え?」
古月 咲希「でもね・・・同時に辛かったりもした」
古月 咲希「その言葉は私に向けられたものじゃないんだなって思うと・・・」
島木 進「・・・ごめん」
古月 咲希「あなたが謝ることじゃないよ」
古月 咲希「全部私の勝手だから」
島木 進「そんな事に感付きもしなかった僕にも責任あるよ」
古月 咲希「・・・!!」
古月 咲希「ありがとう!」
島木 進「なら僕は一体誰と話していたんだろ?」
古月 咲希「私は何となくわかっているよ」
島木 進「本当に?だれ?」
古月 咲希「あなたも考えたらわかると思うよ」
古月 咲希「ヒント1 あの事故のことを鮮明に覚えている人」
古月 咲希「ヒント2 この事故現場でしか話せない理由がある人」
島木 進「うそ──」
古月 咲希「最後のヒント」
古月 咲希「私の目には見えない」
古月 咲希「つまり実体のない人」
島木 進「それじゃあ あの事故唯一の死者の」
島木 進「彼女が────」
  その時 10月には似つかわしくない
  暖かく
  そして心地のいい風が
  僕らを包み込んだ
  それ以降この場所で
  あの声を聞くことはなかった
  一体なぜ彼女の声が僕だけに聞こえたのか
  それはもう知る由もない
  〜fin〜

コメント

  • 短い時間だったけど、心揺さぶられました。
    江戸転生と並べて心に残る作品となると思います。

  • 主人公が目が見えないことを活かした、大どんでん返しのある、とても切なくも、どこか暖かいストーリーだと思いました!素敵な作品、ありがとうございました!

  • 最初の吹き出しの違和感が終盤で回収できてしまった...!すごい!素敵なお話でした!

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