無敵な一途と嘘つきパラドックス

糸本もとい

嘘つきなわたしと、一途なきみ(脚本)

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〇説明会場
  北海道北都市 西進予備校 北都駅前校
健人「美織! 公園に寄ってこう」
美織「は?」
健人「は? でなくて。公園さ、常磐公園」
美織「なして、わたしが健人と常磐公園に行かなきゃならないのさ?」
健人「紅葉を見に行くんだよ。北海道の短い秋を愛でるのは道民の義務、だべ?」
美織「そんな義務は、ない」
健人「いやいや、油断してっとすぐに冬っしょや」
美織「冬で結構。わたしは冬が嫌いじゃないし」
健人「そう言うなって。授業も終わったんだし、せっかくの日曜なんだしさ」
美織「そしたら、他の子を誘えばいいべさ」
健人「俺は美織と行きたいの」
美織「なして、わたしなのさ」
健人「そんなん、好きだからに決まってるべ」
美織「また、そったら恥ずいことを・・・」
健人「ホットココアおごるからさ。行こ行こ」
美織「まったく・・・」
健人「よしっ、決まりな!」

〇公園のベンチ
健人「北海道の秋はホントに気が早いからなぁ、来て良かったべ?」
  2人が訪れた公園は、紅葉が秋の落陽に照らされ紅く輝いていた
美織「・・・ねえ、健人。ひとつ聞いていい?」
健人「なに?」
美織「なして、わたしなの?」
健人「ん?」
美織「健人なら、わたしなんかじゃなくて、もっとめんこい女子でも・・・」
健人「んー・・・美織はめんこいけどなあ・・・」
美織「めんこくないべさ。こんな、つっけんどん」
健人「そんなことないべさ」
美織「でも、さ・・・幼なじみへの恋愛感情なんてさ、通り過ぎるもんでしょ」
健人「どうして断定するのさ? だれかが決めたのかい?」
美織「だれがって、一般的に、さ。わたしたち、もう17歳っしょや」
健人「俺が美織を好きってことに、幼なじみとか17歳とか関係ないから」
美織「・・・その自信はどこからくるのさ?」
健人「自信なんかないべさ。だから、がんばってるっしょ」
美織「健人はさ、わたしに合わせる必要なんかないのに・・・」
健人「俺が美織と一緒にいたいだけだし」
健人「がんばって同じとこに行けるならがんばる。無理だって言われてた一高にも合格したっしょや」
美織「健人は自分の好きなことしていいんだよ」
健人「好きな美織のそばにいることが、俺の好きなことだから」
美織「・・・なして?」
健人「ん?」
美織「なして、そこまで一途なのさ」
健人「美織のことが好きって気持ちにだけは自信があるんさ、俺」
美織「・・・わたしが、その気持ちに応えなくても?」
健人「美織は嘘つきだからなぁ」
美織「え?」
健人「違うかい?」
美織「・・・そだね。違わない。わたしは嘘つきだよ」
健人「安心して。俺は嘘つきだって言える美織を知ってる」
美織「・・・なにさ、それ」
健人「嘘つきのパラドックスってやつさ」
美織「・・・哲学科に行くって本気なんだ」
健人「叡智大学の文学部で、一番おもしろそうだと思ったのが哲学科だったからね」
美織「なして、そこまでできるの・・・?」
健人「そこまで?」
美織「猛勉強して一高に合格して、今だって誰よりも真剣に勉強して・・・」
健人「美織と一緒にいるための努力は苦じゃなべさ。それに、美織のおかげで違う景色が見れてる」
美織「違う景色?」
健人「真剣に勉強してみないと見れない景色ってあるっしょ?」
美織「うん・・・」
健人「美織のおかげで、俺は今、その景色を見てる」
美織「・・・そう」
健人「さて、と・・・日が落ちると一気に寒くなるし、帰ろっか」
美織「うん・・・」

〇川に架かる橋
  二人のスマホが、ほぼ同時にラインの着信を振動で報せた
健人「ああ、飲み行ってるんだ」
美織「そみたいだね」
  美織と健人の両親どうしは仲が良く、飲みに行くことも珍しくなかった
健人「そしたら、晩ごはんは一緒に食べよか。ピザでも頼んでさ」
美織「・・・うん」

〇おしゃれなリビングダイニング
健人「ふう、うまかったぁ」
  二人は、健人の自宅で食事を済ませた
美織「ねえ、健人・・・」
健人「ん?」
美織「健人はさ、怖くないの?」
健人「怖い?」
美織「わたしが健人の気持ちに応えて、今の関係が変わっちゃうこと」
健人「幼なじみでも、友達でも、彼氏彼女でも、夫婦でも。どんな関係になっても、俺は、美織が好きだよ」
美織「なして断言できるのさ? 先のことなんて分かんないのに・・・」
健人「うん。先のことなんて分からない。だから、俺は断言し続ける。美織をなまら好きだって断言を重ねてく」
美織「・・・敵わないな、健人には」
健人「美織のことが好きってことに限っていえば、俺は無敵だべさ」
美織「健人・・・あのさ・・・」
健人「ん?」
美織「ごめん、ね」
健人「なして謝ってるのさ」
美織「なしてって、今までの・・・わたしの態度って言うか、反応っていうか、さ」
健人「謝る必要なんかないべさ」
美織「急には無理かも、だけどさ・・・わたし、素直になってみる、から」
健人「無理はしなくていいからね」
美織「うん・・・でも、がんばってみる。健人ががんばってくれた分には届かないかも、だけど」
健人「美織のことが、なまら好きな俺は変わらないからさ。ゆっくりでいいよ」
美織「うん・・・ありがと・・・あのさ」
健人「ん?」
美織「わたしも・・・好き、だから。健人のこと」
健人「うんっ。知ってる」
美織「また、そったら恥ずい・・・まあ、いいさ。もう、わたしの負けっしょ」
健人「言ったべ、美織をなまら好きなことだけは無敵だって」
美織「むー・・・」
  Fin

コメント

  • 健人の頑張りは美織の近くにいるため、つまり自分のためだと思うのですが、気持ちに正直なところが潔くて、押しが強くても押し付けているわけではないのが伝わってきて、素敵だと感じました。方言も気心知れた隠し事できない感じがあります。
    高校2年の秋の予備校というと、これから一年間どこか別の場所に行くために頑張る、景色が変わっていく人生の季節ですよね。その時期にぴったりな未来への2人の想いにキュンとします。

  • 今までの関係が変わるってなると、少し怖いですよね。
    それが、幼馴染という長年続いたものであれば尚更です。
    方言で話題が繰り広げられる所が、彼らの今までを知れた感じがして良かったです!素敵な作品ありがとうございます!

  • こういう幼馴染みの関係はとてもうらやましく、憧れます。確かに今まで一緒にいる時間が長いと、一線をこえたあとで関係性がかわってしまうってことに怖さを感じることもあるので、素直になれない気持ちも共感できました。

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