朝、陽は昇る(脚本)
〇走る列車
私(はぁ・・・これからどうしよう・・・)
私は昨日、会社を辞めた。
あこがれの出版社に入社して2年、なんとかくらいつこうとしたけどダメだった。
職もないし東京の家賃は高い。為す術なくわたしは実家へ帰ることにしたのだ。
〇海岸沿いの駅
私「やっと着いた・・・!ほんの数年でなんだか寂れちゃったなあ・・・」
〇海岸線の道路
実家へと向かう。
高校生の頃、少し遠回りしてこの海沿いの道を歩くのが好きだった。
私(年齢だけ重ねて、中身はちっとも成長しないなあ・・・)
今でも、好きだったあの先生のちょっと変わった寝癖や優しい声まですっかりそのまま思い出せる。
〇海岸線の道路
私「ゆっくり歩いてたらすっかり暗くなっちゃった・・・早く帰ろう」
「おや、誰かいますね。もう暗いので危ないですよ」
忘れもしない、あの声。
私「!?」
先生「おや、これはこれは・・・久しぶりですね。元気でしたか?」
私「・・・先生!!お久しぶりです。どうしてここに?」
先生「ここもすっかりさびれてしまってね。遅くまで部活をしている生徒が帰る時間帯見回りをしてるんですよ」
私「今も、先生続けていらっしゃるんですね」
先生「ええ、この仕事が好きなので。・・・あなたは随分と疲れているように見えますが今どうしているんですか?」
私「あ、ああ、あの、ちょっと・・・・・・」
久しぶりに人の優しさに触れた気がする。心の奥にしまっていた辛い出来事が次々とよみがえり、涙があふれる。
私「あの、違うんです、ちょっと、し、しし、仕事で辛いことがあって・・・っ」
先生「大丈夫ですよ。時間はありますか?少し、そこでお話でもしましょう」
〇海辺
人気のない海辺。柔らかな波音が心地良い。
先生「あなたは高校生の頃よくここで本を読んでいましたね」
私「先生!知ってたんですか?」
先生「大切な生徒のことだから当然ですよ。・・・さあ、座って。何か辛いことがあったのですか?」
私「はい。仕事でミスばっかりしてしまって・・・」
私「自己嫌悪になってますます空回りして、どうにもならなくなっちゃったんです・・・。自信がないんです、わたし」
そっと、 頬にぬくもりが触れる。少しかさついた手の指が、わたしの皮膚をなぞる。
先生「とても頑張ってきたんですね」
私「はい・・・。上手くいかなくても、諦めずに頑張ってたんですけど・・・・・・っ」
ぽろぽろと溢れてくる涙は、先生の優しい仕草で拭われる。先生の体温がじんわりと身体中に溶けていくようで、心までほぐされる。
先生「ここまで頑張ったのは偉いですよ。その経験はこの先きっとどこかで役に立ちます」
私「先生、先生は本当にそう思いますか?」
私「私のことなんて誰もみてないんじゃないか、どんなに頑張ってもダメなんじゃないかって、怖くて・・・」
先生「わたしが見てますよ。どんなに離れていても、会うことがなくても、あなたがどうしているか、ずっと気になっていました」
私「・・・先生、それは・・・ほんとうのほんとうに?」
先生の両の手が私の頬を包み、優しく持ち上げる。
ばっちりと目が合った先生のその顔は真剣そのものだった。しっかりとわたしを捉えて離さない視線に釘付けになる。
先生「ほんとうに、ほんとうです。わたしは見ています」
と言えば、顔をゆるめ、甘い蜜をたらしたような表情をする。
先生「だから、あなたも他のことなんて気に病まず、わたしのことをみていて下さい。わたしは変わらずここにいますから」
私「それって・・・」
先生「あなたを大切に思っているということです」
私をそっと抱き寄せると、先生は耳元で言う。
先生「ずっとあなたを見てました。これからは僕に大切にさせて下さい」
〇海辺
〇海辺
夜が開けるまで、海辺で先生と2人寄り添っていた。
朝日が昇るのを見た。
先生「夜を越えたら朝が来ます。これからのことを考えましょう」
私「・・・そうします。ありがとう、先生」
先生「先生じゃなくて、これからは名前で読んで欲しいな、陽菜ちゃん」
ふいに名前を呼ばれ、心臓が大きくはねる。顔が熱い。
私「そ、それはまだちょっと慣れないというか、練習が必要というか・・・っ!」
先生「あはは、ゆっくりでいいよ。陽菜と過ごすこれからが楽しみだよ」
2人で手を繋いで帰りながら、これからのことを考えた。とりあえず、私は先生を名前で呼ぶ練習をしなくちゃいけない。
朝陽が登る情景と、主人公の心情変化、そして先生との関係性が相まって、美しい作品だなと思いました!これからの二人がどう進んでいくのか、妄想がはかどります!素敵な作品ありがとうございました!
学校の先生とは、ただ勉強を教えるわけではなく、その子の将来や道筋を教えるのも、必要かなとも思います。
あくまでアドバイス程度ですが、その子が生きやすい道を提示してあげられる人こそ人間的に先生と呼ばれる存在なのかもしれません。
主人公に共感してしまい、自然と涙がほろりと…😭
諦めていた先で一筋の光になってくれた先生と、朝陽が昇って前向きになったヒロインの気持ち。
恋って不思議なパワーがあるなぁと思わせてくれる、素敵な作品でした。
二人の未来がキラキラ輝くものでありますように😊