当て馬と薬指

ヤマダナナコ

当て馬と薬指(脚本)

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〇広い改札
  今日は金曜日。
  仕事を終え、急いで駅へと向かう。
  定時で上がりたかったのに、退勤十分前からどうにもバタバタしてしまった。
  目的の人を見つけ、一度立ち止まる。
  手鏡を取り出し、最終チェック。
  前髪良し、アイライン良し、リップ良し。
竹内桐乃「春近君! おまたせ!」
祁答院春近「桐乃さん。 お仕事お疲れ様!」
竹内桐乃「遅くなってごめんね 寒くなかった?」
  春近君は、私の1つ下で大学4年生。
  ・・・・・・所謂、彼氏だ。
祁答院春近「ぜんぜん! 待ってるのもワクワクするよ。 それよりも、久しぶりに会えて嬉しい」
竹内桐乃「私も、会えて嬉しい。 電話もしてるのに、やっぱり実際に会うと、何て言うのかな、」
  自分で思っていた以上に寂しかったみたいだ。
  春近君の手をそっと握る。ごつごつとした、男の子の手。この感触も、久しぶり。
竹内桐乃「春近君のこと、大好きだなあって」
祁答院春近「へへ。俺も、大好きだよ」

〇広い改札
間宮健太「おっ、竹内じゃん!」
  春近君と向かい合って微笑んでいると、突然、肩を叩かれた。驚いて振りかえると、会社の先輩の間宮さんがそこに居た。
間宮健太「お疲れ~。 なんか慌てて帰っていったけど・・・ ふーん。彼が理由かぁ」
  間宮さんはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて、春近君の頭から爪先まで眺め始めた。
竹内桐乃「間宮さん!なんです? 用がないならこちらで失礼します!」
間宮健太「まぁまぁ。そうカリカリすんなって! 彼氏かなぁって思ったけど、弟君?おねーさんとの感動の再会ってやつ?」
  どうしてこの人は人を不快にさせるのが上手なんだろ・・・!先輩だけど、腹が立つ!
竹内桐乃「間宮さん!ほんとうにっ・・・」
  口を開こうとした私の腰に、春近君の手が添えられる。
祁答院春近「俺、桐乃さんとお付き合いさせていただいています」
  つむじに、柔らかい感覚。
  これ、春近君の唇・・・?
竹内桐乃「は、春近君・・・?」
祁答院春近「1ヶ月ぶりの逢瀬、楽しみにしてたんで。 邪魔しないでもらってもいいですか?」
間宮健太「じゃ、邪魔なんてしてないだろ・・・!」
間宮健太「なんか冷めたし、帰るわ。 じゃあな。末永くお幸せに!」
  面白くない!と言わんばかりに、間宮さんは肩を怒らせて改札へと歩いていった。
  短いの出来事の筈なのに、少し疲れたな。
竹内桐乃「ごめんね・・・ 会社の先輩なんだけど、人のことすぐからかうの」
祁答院春近「桐乃さんが謝ることじゃないよ。 あのマミヤって人、いつもあんな感じに絡んでくるの?」
竹内桐乃「うーん 部署では私だけ、かな? 1個上の人だし、彼からみたら唯一の後輩だからだと思うけど」
祁答院春近「まじか・・・ くそ!だったらもうちょっとイチャイチャしとけばよかった!」
  がばりと春近君に抱き締められる。
  ここ駅なのに・・・!腕で春近君の胸板を押しても、びくともしない。
竹内桐乃「春近君・・・! ここ駅!みんな見てるから・・・!」
祁答院春近「マミヤと業務以外関わっちゃ、駄目」
祁答院春近「アイツ、絶対桐乃さん狙ってる。 会社にかわいい服も着て行かないで」
  耳元で囁かれて、全身の血液が沸騰しているんじゃないかなんて思う程、身体中が熱くなる。
祁答院春近「こういう時、1個下って、俺がまだ学生ってすっげぇ悔しいけど、」
祁答院春近「就職して、ガンガン稼いで、 いい男になるからさ」
  春近君の手が私の身体から離れる。
  そのまま私の左手を掬い上げ、薬指に唇を落とされる。
祁答院春近「ここ、俺だけのために空けておいて」
竹内桐乃「それって、え・・・ほんとに?」
祁答院春近「うん。桐乃さんの彼氏以上になりたい」
祁答院春近「まだ今は学生のガキだからさ、 ちゃんとした言葉は、まだ、待ってて」
竹内桐乃「・・・うん 私も、彼女以上になりたいって思ってる」
竹内桐乃「待ってるから、 春近君も、ここ、空けておいてね」
  春近君の薬指に、私も唇を押し当てる。
  今はまだ何も飾りのない左手の薬指。
  でも、遠くの未来には、きっと。

コメント

  • 年下彼氏と社会人彼女の組み合わせって良いですよね!
    彼氏さんの堂々とした所や、嫉妬する姿が個人的キュンポイントでした!素敵な作品ありがとうございました!

  • キュンキュンしました。焦りと将来大物になりそうな言動…まさに年下彼氏の王道ですね!☺️こういうシチュがあるので、年下彼氏ものは大好きです🤤素敵なお話、ありがとうございます🤤

  • 年下彼氏の嫉妬、いいですね❤
    堂々と「邪魔しないで」の宣言から「もっとイチャイチャしとけばよかった」の一言に、心持ってかれました!
    最後は堂々とヒロインも彼との未来を誓う……私には恥ずかしくて絶対にできないけれど、こんな甘~い恋もしてたいなぁと思いました😊

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