エピソード1(脚本)
〇見晴らしのいい公園
葵(あおい)「いや〜、いい天気だし、いい眺めだし。最高だな、シロ!」
シロ「ワンワン!」
俺は愛犬シロと一緒に散歩に来ている。ここは俺らのお気に入りの場所。天気のいい日は眺めが最高なんだ。
希望ヶ丘公園。希望の丘と勝手に呼んでいて気に入っている。
シロと俺は5年の付き合いになる。俺が中学生の頃、親の友人から貰った犬だった。
やたら俺に懐く。で、やたらかわいい。で、やたら俺の守り神的なところもある。
俺達は毎日のように希望の丘に散歩に来たんだ。
〇男の子の一人部屋
俺が高校生の頃。気がつくと部屋でシロに勉強を教わっていた。
夢の中で・・・
葵(あおい)「あ、なるほどね。それ、授業中先生が言ってたような気がする。寝てたから全く聞いてなかったけど」
シロ「聞いてなきゃダメじゃん」
葵(あおい)「授業がクソつまんねーから眠いんだよ」
葵(あおい)「でもさ、シロが教えてくれる方が分かりやすいよな。学校の先生よりも分かりやすい」
シロ「マジか。よっしゃ〜」
俺が初めて付き合った女の子にフラれた時もシロは温かく優しく慰めてくれた。
夢の中で・・・
シロ「よしよし。そんなに落ち込まないの。またいい出会いがあるから」
葵(あおい)「う、うん。頑張る」
シロ「アンタをふる女なんてロクなもんじゃないよ」
葵(あおい)「う、うん。頑張る」
シロ「私という女がいるんだから」
葵(あおい)「う、うん。頑張る」
シロ「上の空だね〜」
高校3年生になって、受験を意識し出した俺はシロと散歩することが少なくなっていった。
同時にシロが俺の夢の中に出てくることもなくなっていた。
〇大学の広場
その後俺は東京の大学に進学が決まり、キャンパスライフをそれなりに楽しんだ。
気がつけば大学も行かなくなっており、バイトに遊びに明けくれていた。
〇男の子の一人部屋
大学2年の夏のある日のこと。
母親から突然電話がかかってきた。
母「もしもし。久しぶりだねー。元気にやってるの?家にも帰ってこないで」
葵(あおい)「元気だよ。色々と忙しくてさ。 シロは元気?」
母「アンタがいなくなってから元気ないんだよ。もういいおばあちゃんだしね。散歩にも全く行かなくなっちゃったしさ」
葵(あおい)「そっか。分かったよ。そのうち帰るよ、そのうちね」
それから何日かして久しぶりにシロが夢に出てきたんだ。
シロ「久しぶりだねー、葵。元気そうじゃない?」
葵(あおい)「シロか。久しぶりだな。母さんが心配していたよ。シロが元気ないって」
シロ「アタシももうトシだからねー。葵に聞いてほしいことがあるんだよ」
葵(あおい)「どうしたよ?改まって。なに?カネならねーぞ」
シロ「アホか。んなこと分かってるよ。この貧乏学生が。どうせ女とばかり遊んでいるんだろ!」
葵(あおい)「んなことねーよ。こっちゃあバイトしてるんだよ。たくさんの仕事と少しの勉学と・・・」
シロ「分かった分かった」
シロ「私は明日死ぬんだ。私が死んだら私の小屋のすぐ下を掘ってほしい」
シロ「このことに関しては葵にすまないことをしたと思ってるんだよ。ごめんよ」
葵(あおい)「いやいや。いきなり謝んなよ。意味分かんねーよ」
シロ「・・・・・・」
葵(あおい)「ハハハハ。何かお宝でも登場ってか。花咲か爺さんのポチか、お前は」
シロ「お宝が出てくるかもしれないじゃないか」
シロ「もしお宝が出てきたら、それに向かって願いごとをするんだ。一つだけ叶えてやる。せめてものお詫びだ」
そこで夢から覚めた。
葵(あおい)「夢か。シロの夢、久しぶりに見たな」
葵(あおい)「アイツ、死ぬとかお宝とかほざいてたな。ちょっと見ねえうちに訳分かんねー犬になりやがったな」
〇川のある裏庭(発電機あり)
シロ「ワン、ワン!」
何だか嫌な予感が、胸騒ぎがして翌日実家に帰ったんだ。
そうしたらシロが元気よく迎えてくれた。
明日死ぬとか嘘ほざきやがって・・・
葵(あおい)「シロ〜!!久しぶりだなぁ。元気そうじゃないか。ったく心配したんだぞ」
シロも尻尾を振りながら狂ったように吠えた。すごく嬉しそうで俺を見て笑ってたんだ。
俺はシロを夢中になって抱きしめた。このまま時が止まれ!と思った。
シロ「ありがとう」
葵(あおい)「え?」
気のせいか。シロが喋ったような気がした。
葵(あおい)「さ、家に入ろう。俺の部屋に来いよ」
シロ「ワン!」
シロは一つ吠えると玄関に向かって歩き出した。俺も後に続いた。
とその時だった。
シロが突然倒れた。
葵(あおい)「シロ!!」
既に死んでいた。幸せそうな表情をして・・・
葵(あおい)「シロが・・・シロが・・・死んじまった」
俺はその死んだ犬をずっと抱きしめていた。
葵(あおい)「なぁシロ、もう一度吠えてくれよ。 もう一度散歩しようよ」
俺はその時シロの夢を思い出した。
そしてシロの小屋のすぐ下を掘り起こした。
すると・・・
葵(あおい)「あ──!!お、俺のペンダント」
初めて出来た彼女からのプレゼントだった。なくしたと言ったら彼女が激怒し、別れたのだった。
葵(あおい)「アイツ・・・。ふざけんな!クソ!」
葵(あおい)「だからアイツ、夢の中で謝ってたのか」
夢の意味が・・・線がつながった。
葵(あおい)「願いごとか・・・」
葵(あおい)「本当に何でもいいんだな、シロ・・・」
翌日の朝、俺は犬の吠える声で目を覚ました。
葵(あおい)「うっせんだよ。人の安眠を邪魔しやがって!どこのバカ犬だよ!」
玄関を開けてみた。すると・・・
シロ「ワンワンワンワンワンワン!!!!」
葵(あおい)「シロ───!!!!」
葵(あおい)「夢は本当だったんだな。シロ!」
俺はシロを抱きしめた。
葵(あおい)「シロ、行くぞ!」
シロ「ワン!」
〇見晴らしのいい公園
葵(あおい)「シロ────!!」
シロ「ワン!!」
シロとの最後の希望の丘。いつまでもこの楽しい時が続けばいい。
蝶が楽しそうに舞い、花が美しく咲き乱れていた。
夕陽が綺麗な日だった。
心を通わせるペットとの夢での会話、そして別れ、、すごく胸を打ちます。葵とシロの結びつきの強さが伝わる、悲しくも優しい物語ですね。
隠してしまった宝物にシロは、彼に好きな人ができて妬いちゃったんだなぁと、ちょっとほっこりしました。
シロも家族ですから、亡くなると悲しいですよね。
彼の願い事がそれだったとは…わかる気もします。
ペットであれ家族であれいるのが当たり前のように感じていると、ありがたみや大切さをつい忘れてしまいがちですね。 そんなことにはっと気づかされ、離れて暮らす家族に連絡を取りたくなりました。