第2話 『持つべき親友は英雄』(脚本)
〇川に架かる橋
相田英雄「おいっす、ヤギちゃん」
八木カモメ「おはよう、ヒロ」
相田英雄(アイダ ヒーロー)
カモメの親友の一人。
お調子者でいい加減な性格だが、抜け目がない。
相田英雄「そういえば聞いた? なんでもこの近所に空飛ぶ謎の猫が現れたらしいよ」
八木カモメ「そういえばツバメちゃんも見たって言ってたな。そうか、今や猫も空を飛ぶ時代か」
八木カモメ「・・・それでこれって、なんの話?」
相田英雄「今朝起きた、ご当地ネタだよ。 本当ならUFOより珍しいんじゃね」
八木カモメ「不思議なこともあるもんだ」
八木カモメ「・・・あっ、そうそう。 不思議なことと言えばさ、昨日の夢に女神を名乗る女の人が出てきたんだ」
相田英雄「へぇ、そうなんだ。美人だった?」
八木カモメ「凄く美人だった」
相田英雄「マジかよ! いいな! ヤギちゃん、いいな!」
八木カモメ「本当に不思議な夢でさ。 なんと痛みがあったんだ」
相田英雄「痛み? 夢なのに?」
八木カモメ「夢なのに。メッチャ尻が痛かった」
八木カモメ「その女神様が言うには『そういう夢もある』ってことだったけど、やっぱりそれっておかしくないかな?」
相田英雄「・・・いや、あながちそうとも言い切れないんじゃない」
八木カモメ「というと?」
相田英雄「男なら誰でも経験があることだが」
相田英雄「エッチな雰囲気の夢を見た翌朝は、体の一部がとても元気になる」
八木カモメ「・・・まあね、そりゃ男の子ですから」
相田英雄「しかし、よくよく考えると、これはおかしなことではないだろうか?」
相田英雄「もし夢で何も感じないのだったら、そんな生理現象は起こらないはずだ」
相田英雄「だけど、実際は起こりえる」
相田英雄「つまりだ、ヤギちゃん。 気持ちいい夢がある以上、痛い夢があってもおかしくはない!」
八木カモメ「・・・・・・」
八木カモメ「・・・確かに」
八木カモメ「流石はヒロ。くだらないことを考えることにおいて右に出る者はいないな」
相田英雄「ふっ、俺の頭脳を持ってすればこれくらい簡単だ」
八木カモメ「学校の成績は悪いけど」
相田英雄「万年赤点のヤギちゃんには言われたくはない」
相田英雄「それでなんの話だっけ?」
八木カモメ「俺がその女神様から世界を救うように言われたって話」
相田英雄「そんな話だったっけ!? というか、なにその夢!」
八木カモメ「実は(かくかくしかじか)」
相田英雄「なるほど」
相田英雄「もうすぐ世界がヤバイから、その『カウント3』っていう、どんな願いも叶う能力でなんとかしないといけないと」
八木カモメ「そうらしい」
相田英雄「確かにヤギちゃんの右手に変な数字書いているし」
相田英雄「・・・でも、なんで『2』? さっきの話だと『3』なんじゃないの?」
八木カモメ「そうなんだよ。不思議なんだよな~」
相田英雄「あれじゃね? 何か女神様を怒らすようなことをして1回分減らされたとか」
八木カモメ「あーっ。それ、あるかも」
相田英雄「または女神様が1回分ケチったとか?」
八木カモメ「女神様なのに!」
相田英雄「あるいは詐欺。こっちが文句言ったら、『いやちゃんと3回分にしたけど』とか逆切れされるの」
相田英雄「そして後に3回分の高額請求が・・・」
八木カモメ「どうしよう、俺お金持ってない。 こうなったら身体で払うしか・・・」
相田英雄「いや、それはむしろアリじゃん。 ただのご褒美じゃん」
八木カモメ「それで? なんの話だっけ?」
相田英雄「だから女神様に裸でご奉仕するって話でしょ」
八木カモメ「そんな楽しい話だったっけ?」
相田英雄「それ以外に何がある?」
相田英雄「しかしこれだけ天気が良いと逆に学校に行く気がしないな。 学校をサボってどこかに出かけたい気分だわ」
相田英雄「だが俺は真面目な人間だから、その罪悪感に耐えられそうにない」
八木カモメ「サボる勇気がないだけだろ?」
相田英雄「それを言っちゃ風情がない。 何かもっともらしい理由があった方がすっきりとサボれるって話だよ」
八木カモメ「サボりに風情もクソもないと思うけどね」
八木カモメ「・・・なんて話しているうちに、我らが通う仲富竹(なかとみたけ)高校が見えてきた」
相田英雄「よし、ヤギちゃん。 その女神様から授かった能力を使って、隕石で学校を吹っ飛ばそう」
八木カモメ「・・・えっ? なんて?」
相田英雄「折角の特別な力を有効利用しようって言ってんの」
八木カモメ「いや、これは世界を救う力だし」
相田英雄「そもそも、俺はヤギちゃんの話なんかまったく信じていない」
八木カモメ「そうなの!」
相田英雄「テメェ、年は幾つだ! 中二だったのは何年前だ!」
相田英雄「そんな設定考えるくらいなら、もっとマシな話のネタを提供しろ!」
八木カモメ「随分とあっさりと聞いてくれると思ったら全然信じられていなかった!」
八木カモメ「いや、だけど本当なんだって!」
相田英雄「だったらそれを証明してみろ! そんな力があるのか俺に見せてみろ!」
相田英雄「だいたい、ヤギちゃんだって半信半疑なんだろ?」
八木カモメ「・・・まあ、確かにね」
相田英雄「なら試してみればいい。 ちょっと隕石を降らして学校を吹き飛ばせば、その力が本当だって証明できる」
相田英雄「というか、やれるもんならやってみろ! 俺を驚かせてみろ!」
八木カモメ「朝からテンション高いな、ヒロは」
八木カモメ「・・・でも確かに怪しいもんな。 そもそもなぜか残りカウント2だし」
八木カモメ「やっぱり騙されたのかな。 というかコレ、ツバメちゃんの悪戯?」
相田英雄「はいはいはいはい。 ヤギちゃんが~隕石で学校吹っ飛ばすところが見てみたい~♪」
八木カモメ「分かった。やるよ。やりますよ」
八木カモメ「じゃあ、えっと『隕石で学校よ、吹っ飛べ』」
ピカッ
相田英雄「えっ、ヤギちゃん! 今、光らなかった!?」
八木カモメ「おいおいヒロ」
八木カモメ「いくら俺がカッコイイからって光ったように見えるなんてことは・・・」
相田英雄「いや別にヤギちゃんの顔がカッコイイと思ったことはない」
相田英雄「むしろ俺の方がカッコイイと思っているし」
相田英雄「いや、そういうことじゃなくて! 今、物理的に光ったって!」
相田英雄「・・・というか、右手の数字が『1』になってね?」
八木カモメ「あっ、本当だ」
相田英雄「・・・えっ、ということは?」
八木カモメ「ということは?」
バッ
相田英雄「おい、嘘だろ!」
八木カモメ「あれ、隕石! 隕石だよね!」
相田英雄「マジか!」
八木カモメ「というか、ヤバイバイバイ!」
八木カモメ「なんか来てる来てる! こっち来てる!」
相田英雄「マジじゃん! マジで来てるじゃん! これダメ! ダメなヤツだって!」
八木カモメ「あーっ、来た来た来た!」
相田英雄「これダメ! これダメ! あーっ、あーっ、あーっ!」
ドカーン
八木カモメ「・・・ヒロ」
相田英雄「なんだい、ヤギちゃん」
八木カモメ「気のせいじゃなければ学校に隕石が落ちたような」
相田英雄「いや落ちているから。 というか、吹っ飛んだから。跡形もなく」
八木カモメ「・・・・・・」
相田英雄「・・・・・・」
「ええええええええええっ!」
〇黒
隕石落下により、仲富竹高校、消滅。
──残りカウント1
To be continued