プロポーズに不正解も逆もない(脚本)
〇公園のベンチ
クリスマスの気配が色濃くなった12月
駒沢公園内にあるベンチに2人は腰掛けていた
篤人「はい、これ。美和が見たがってた新作」
美和「おっ、ではでは拝見」
タブレットに表示されたイラストを見つめる美和
篤人「・・・どう?」
美和「すごいね・・・すごくいいよ」
篤人「そう?」
美和「うん。繊細なのは変わらないけど、目の力が増してるって言うか・・・」
篤人「うん、瞳をほんの少し変えてみたんだ。分かってもらえたんだ・・・」
美和「わたしは、すごく好きだな。この子」
篤人「そっか・・・」
美和「ん? どうかした?」
篤人「・・・結婚、しよっか」
美和「は? え?」
篤人「あれ? 俺、なに言ってんだ?」
美和「こっちのセリフ!」
篤人「だよね。ゴメン」
美和「・・・謝るんだ」
篤人「え?」
美和「なんでもない。で、なんだったの? 今の」
篤人「いや、自分でも分からないんだ・・・口から勝手に出ちゃったっていうか・・・」
美和「あのねえ。アラサーにとっては重いんだよ? その言葉」
篤人「あ、うん」
美和「篤人もわたしも、もう29歳なんだからさ。来年には三十路になるって自覚ある?」
篤人「そう言われると、ないかも・・・」
美和「だろうね・・・まあ、篤人らしいって言えば、らしいけどさ」
篤人「いや、ホント面目ない」
美和「まったく・・・初めてだったんだからね」
篤人「え? 初めて?」
美和「プロポーズが!」
篤人「あっ、そっか・・・えーと、ゴメン」
美和「謝るな、バカ・・・」
篤人「あ、うん。ごめ・・・」
美和「ふう・・・もういいよ。許してあげる」
腰掛けていたベンチから立ち上がる美和
美和「なんか、おなか空いた。ごはん行こ」
〇レストランの個室
世田谷区奥沢にあるビストロ
美和「んー! このパテも生ハムも、やっぱり美味しい!」
美和と篤人はフレンチをアラカルトで愉しんでいた
篤人「うん。ここのシャルキュトリーは絶品だよね」
美和「うんうん」
篤人「けど・・・」
美和「ん? どうかした?」
篤人「この店って、なにかの記念日用じゃなかったっけ」
美和「そうだよ?」
篤人「きょうって、なにかの記念日、だった?」
美和「プロポーズは立派な記念日じゃない?」
篤人「えっ? いや、え?」
美和「冗談だよ」
篤人「・・・じゃあ、なんで?」
美和「きょうは、そんな気分だったの。いいでしょ、たまには。クリスマスも近いんだし」
篤人「ああ、うん。そうか、もうクリスマスか」
美和「今年のイブは誰と過ごすの?」
篤人「今年も仕事だよ。配膳人らしくね」
美和「もう長いよね、ホテル勤めも」
篤人「そうだね。大学に入った年からだから、もう10年になるな・・・」
篤人「この歳まで世話になるとは思ってなかったけどね」
美和「イラストだけに専念はできないの?」
篤人「無理だね。単価が倍は必要だよ」
美和「そっか・・・イラストレーターも大変だね」
篤人「まあ、覚悟の上だしね。好きなことを続けてるんだから」
美和「好きなこと、か・・・そうだよね。篤人はすごいな」
篤人「美和のほうがすごいよ。パラリーガルとして働きながら司法試験に挑むなんて俺には真似できない」
美和「わたしは、夢に対して引っ込みがつかなくなってるだけだよ・・・」
篤人「引っ込みがつかなくなってるのは、俺も同じかもしれないな・・・」
美和「やめやめ、せっかく金曜の夜に美味しいもの食べてるんだから、面白い話しよ」
篤人「うん、そうだね」
美和「前から聞きたかったんだけど、なんで和服なの普段着」
篤人「うーん、慣れるとラクなんだよ和服。きっかけは仕事だけどね」
美和「仕事?」
篤人「ゲームのキャラクターを描くときに和服が描けなくてね。自分で着てみようと思ったんだ」
美和「ふーん・・・右手だけ手袋してるのは?」
篤人「利き手は俺にとって命みたいなもんだからね、常に意識して保護してるんだ」
美和「へえ、そんな理由があったんだ」
篤人「そろそろ落ち着いた服を着たほうがいいのかもしれないけどね」
美和「いいんじゃない、そのままで。似合ってるんだし」
篤人「そう?」
美和「うん。あっそうだ、松重さんのお店に行かない? 今夜は付き合ってくれるんでしょ?」
篤人「いいね。行こうか」
〇シックなバー
自由が丘にあるバー アゲイン
松重「いらっしゃ・・・おっ、しばらくぶりだね」
篤人「ご無沙汰しちゃって」
美和「松重さん、元気そうで安心しました」
松重「ああ、おかげさまでね。いつものでいいかい?」
「お願いします」
松重がなめらかな手付きで、ジントニックとソルティドッグを作り、2人の前に置く
「乾杯」
美和「聞いて松重さん。わたし、プロポーズされちゃった」
篤人「ちょっ・・・」
松重「ほお、ようやくかい。待たせたねえ、篤人くん」
「えっ」
松重「なんだい揃って慌てて、まあ、めでたいことに変りはないさ。そいつは私のおごりにしとくよ」
篤人「あ、いや」
美和「どうして相手が篤人だと思ったんです?」
松重「どうしてって、違うのかい?」
美和「えーと、違わないけど」
松重「だろ?」
篤人「まいったな・・・」
松重「なにを、まいる必要があるんだ?」
篤人「あ、いえ、なんでもありません。ありがとうございます」
美和「松重さんも今夜は付き合ってくれます?」
松重「そうだね。2人のめでたい日だ、とっておきの25年ものでも開けようか」
美和「そうこなくっちゃ」
〇川に架かる橋
美和「はあ・・・久しぶりだなあ。こんなに飲んだの」
篤人「だね。なんだか学生の頃を思い出すよ」
美和「今夜は最後まで付き合いなさいよ」
篤人「それはいいけど、次のあてがあるの?」
美和「わたしの部屋でいいよ」
篤人「りょーかい。じゃあコンビニに寄っていこう」
〇明るいリビング
美和「さっ、入って入って」
篤人「おじゃまします」
美和「さて、と・・・」
美和が篤人に、ぐいっと身を寄せた
篤人「なに? どうしたの?」
美和「わたしたち友達だよね」
篤人「うん」
美和「付き合ったことないし、男女の関係になったこともない」
篤人「そうだね」
美和「でも篤人はわたしと、ずっと一緒にいたい。違う?」
篤人「・・・違わない」
美和「じゃ、結婚、する?」
篤人「うん」
美和「よろしい」
Fin
なるほど、そりゃそうだ。偏見は道端に落ちてますね。タイミングもありますが、最後はド直球ですよね、どっちからにしても。
とても大人な距離感の恋の作品だなと思いました!美和さんのサッパリとした性格が、いいなぁとしみじみ思いました。
プロポーズ、確かにどんな手順でも形でもいいですよね!
とても素敵な作品でした!
二人の会話が自然なテンポだったからか、気がついたら物語に没頭してしまいました!
会話の内容もリアルだったから余計に...汗
素敵なお話でした!