惜しからざりし命

NekoiRina

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〇神社の出店
緋勇(ヒユウ)「リンゴ飴ひとつ」
富ノ森カナタ「300円です」
緋勇(ヒユウ)「ねぇ、僕の名前、覚えてくれた?」
富ノ森カナタ「覚えてません」
緋勇(ヒユウ)「今日もつれないなぁ。もう2ヶ月だよ? さすがに覚えたでしょ~?」
富ノ森カナタ「ありがとうございましたー」
  僕は最近
  毎日この屋台に通っている。
  僕の名前は緋勇(ヒユウ)。
  かれこれ2ヶ月
  毎日のように顔を出しているのに
  このボーッとした娘は
  一向に僕の名前を覚えない。
  愛想だって死ぬほど悪い。
  だが僕には、このリンゴ飴屋に通う
  大きな理由があった。

〇神社の出店
緋勇(ヒユウ)「リンゴ飴ひとつ」
富ノ森カナタ「300円です」
緋勇(ヒユウ)「ほんと、ここのリンゴ飴は美味しいよね。 毎食リンゴ飴でもいけるよ~」
富ノ森カナタ「健康に悪いです」
緋勇(ヒユウ)「僕の体を気遣ってくれるの?」
富ノ森カナタ「ありがとうございましたー」
  ここ最近、実家が経営するリンゴ飴の
  屋台に、毎日来る男がいる。
  私の名前はカナタ。
  男はこの2ヶ月
  飽きもせず毎日来る。
  見るからに怪しげな和服姿で
  なるべく関わりたくない人種だ。
  それに私には、彼の名前を覚えたくない
  大きな理由があった。

〇ビルの屋上
富ノ森カナタ「見つけた。今日の最後の獲物」
  カナタは、高層ビルの屋上から
  10キロ先にいる男めがけ
  持っていた弓矢の矢を放った。
  特殊な毒が内蔵された光る矢が
  心臓に命中した男は
  ヒザから崩れ落ち、絶命した。
  富ノ森カナタ。
  彼女は国に雇われた、殺し屋なのだ。
緋勇(ヒユウ)「ふーん。なるほどね」
富ノ森カナタ「どうしてここに!?」
緋勇(ヒユウ)「いつも無愛想だけど、様子が違う日が 週に1度だけある。それは毎週水曜日」
富ノ森カナタ「どうして・・・」
緋勇(ヒユウ)「分かるよ~! 誰よりも君を見ていたからね」
緋勇(ヒユウ)「水曜日に、何かあるんだと思った。 悪いがあとをつけさせてもらったよ」
富ノ森カナタ「見られたのなら・・・貴方も・・・」
緋勇(ヒユウ)「殺す?」
富ノ森カナタ「・・・いいえ。 私は選ばれた人間しか殺しません」
富ノ森カナタ「でも、知ってしまった貴方を 政府は生かしておかないでしょう」
緋勇(ヒユウ)「政府?君はどうしてこんなことを?」
富ノ森カナタ「人を葬る為に開発された特殊な光る弓矢」
富ノ森カナタ「身体を貫通しても痕跡が残らない」
富ノ森カナタ「それを扱える人間は私しかいない。 世界を救ってほしい、と」
緋勇(ヒユウ)「政府がそう言ったのか?」
緋勇(ヒユウ)「そんな戯言を鵜呑みに・・・?」
緋勇(ヒユウ)「政府はどうして人を殺すんだ?」
富ノ森カナタ「人口が増えすぎたそうです。 地球は今、静かに綻び始めている」
富ノ森カナタ「政府は、人類を淘汰することで 自然バランスが保てると信じています」
緋勇(ヒユウ)「・・・排除する人間はどうやって選ぶんだ?」
富ノ森カナタ「完全ランダムだそうです」
富ノ森カナタ「だから私は・・・人と関わりません」
富ノ森カナタ「友達も作らない」
富ノ森カナタ「誰の名前も絶対に覚えない」
緋勇(ヒユウ)「さすがに知り合いは殺せない、か」
富ノ森カナタ「ただし、このプロジェクトに関する人間と その家族は選別から外されます」
緋勇(ヒユウ)(君が引き受けた理由はそれか?)
緋勇(ヒユウ)「じゃーあ、君と結婚すれば 僕はこの地球で生きていけるってわけか」
富ノ森カナタ「な!け!結婚て! 何を言い出すんですかバカ!」
緋勇(ヒユウ)「あはは!耳まで真っ赤になって リンゴ飴みたい!可愛いね」
富ノ森カナタ「からかうのはやめて下さい!とにかく! 貴方は近日中に、確実に抹消されます」
富ノ森カナタ「身を隠しても無駄なので 心残りの無いように過ごして下さい」
緋勇(ヒユウ)「じゃあ 僕が殺されるまで付き合ってよ」
富ノ森カナタ「はあ?だから からかうのはやめて下さいって」
緋勇(ヒユウ)「君には付き合う責任あると思うよ~? ある意味、君のせいで僕、死ぬんだから」
富ノ森カナタ「う・・・それは・・・そうですけど」
緋勇(ヒユウ)「じゃあ決まり! 明日の朝9時にここで待ち合わせね!」
  殺されるというのに
  緋勇は嬉しそうに去って行った。

〇ビルの屋上
  翌朝。
緋勇(ヒユウ)「ほんとに来てくれたんだ! 嬉しいなぁ!」
富ノ森カナタ「だって貴方、私のせいで もうすぐ死にますから・・・」
緋勇(ヒユウ)「とりあえず 今日まで生きてて良かった~!」
緋勇(ヒユウ)「じゃあ今日は、映画館に行こう!」
富ノ森カナタ「え、映画館!? 私、男の人と映画館なんて行ったこと・・・」
緋勇(ヒユウ)「そうなの!?よし!初めてゲット! さぁ、早く行こ!」
  こんな調子で、緋勇は
  カナタとのデートを楽しんだ。

〇遊園地の広場
  翌日も。

〇ゲームセンター
  翌々日も。

〇水中トンネル
  その次の日も。
  気が付けば、
  一ヶ月の月日が過ぎていた。

〇住宅街の公園
  すっかり打ち解けた二人は、
  毎回のデートのあと
  カナタの家の近くの公園でリンゴ飴を
  食べるのが日課になっていた。
富ノ森カナタ「どうして緋勇は殺されないんだろ?」
緋勇(ヒユウ)「今まで誰かにバレたことあったの?」
富ノ森カナタ「うん。 一度だけ、クラスメイトに」
富ノ森カナタ「その子は・・・」
緋勇(ヒユウ)「・・・ごめん。 辛いことを思い出させてしまった」
富ノ森カナタ「ううん、大丈夫」
緋勇(ヒユウ)「・・・明日はどこへ行こうか?」
近所のおばさん「あらぁ!リンゴ飴屋さんの カナタちゃんじゃないの~!」
富ノ森カナタ「こ、こんばんは・・・」
近所のおばさん「大きくなったわねぇ! それにしても・・・」
近所のおばさん「ひとりで何してるの?」
富ノ森カナタ「え・・・?」
近所のおばさん「女の子がひとりで夜の公園なんて! 危ないわよお~?」
近所のおばさん「早く帰りなさいね?」

〇住宅街の公園
  どういうこと?
  緋勇は隣にいるのに。
  まさか・・・?
  どうして気付かなかったの?
「あーあ、バレちゃったかな?」

〇住宅街の公園
緋勇(ヒユウ)「そう、僕はこの世の者じゃない。 ずっと前に死んでいる」
富ノ森カナタ「そんな!」
緋勇(ヒユウ)「殺されたんだ」
緋勇(ヒユウ)「可愛くて、純粋な、女の子に」
  嫌な予感がカナタを包む。
  カナタはスマホを取り出し、毎週
  水曜日に政府から届くメールを見返した。
富ノ森カナタ「まさか・・・」
富ノ森カナタ「『3月2日、水曜日 殺害対象者の氏名』」
富ノ森カナタ「『緋勇すめらぎ』」
緋勇(ヒユウ)「そう。それが、僕」
緋勇(ヒユウ)「僕は君に復讐するつもりで近付いた」
緋勇(ヒユウ)「でも・・・」
緋勇(ヒユウ)「いや」
緋勇(ヒユウ)「なんでもない」

〇住宅街の公園
「最後に幸せな想い出をありがとう」
「さようなら、愛しい殺人者さん」
  緋勇はカナタを抱きしめ
  首筋に唇を寄せた。

コメント

  • 最後の展開を読んで、思わず切ねぇ!!という声をあげてしまいました。二人が幸せになれる世界線がある事を心より願います。
    素敵な作品ありがとうございました!

  • 気がつくと、口の中にりんご飴の甘酸っぱさが広がっていました。
    美味しく&楽しく読ませていただきました。

  • 全く分かりませんでした…。
    何故殺されないのかもわからなかったのですが、既に死んでいればそりゃあ殺される命もないですもんね…。
    自分を殺した人間との恋…?なんだか不思議な気持ちですが悪くない気持ちです!

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