怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード11(脚本)

怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

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〇教室
  数日が経ち、薬師寺の家での暮らしにも大分慣れてきた。
  週明けの月曜、いつものように教室に入るとすでに来ていた由比が笑顔で寄ってきた。
由比隼人「おは〜。今日は元気そうでなにより」
茶村和成「おはよう由比。ありがとうな」
  頷(うなず)いた由比は、ちらりとスワの机を見て息をついた。
由比隼人「スワ、金曜休みだったけど今日は来るかな」
茶村和成「どうだろうな。 あの日連絡したけど、返事返ってこなかったんだよな」
由比隼人「俺も〜。なんかあったんかな」
  ふたりでそんな話をしていると、教室の扉が開いて話題の人物が顔を出した。
由比隼人「お、噂をすればなんとやら」
  スワの姿を目にした由比は、スワが席についたとともに彼に駆け寄る。
  俺もそれにならうように、スワのそばへと移動した。
由比隼人「おっは。先週の金曜ぶり?」
諏訪原亨輔「・・・ああ。おはよう」
茶村和成「・・・表情暗いな。 どうかしたのか?」
諏訪原亨輔「・・・ちょっとな」
由比隼人「金曜休んだのも、関係あんの?」
  スワは数秒黙り込んだあと、俺たちから視線を逸らしてポツリと呟(つぶや)いた。
諏訪原亨輔「いとこの、健(たける)が事故で亡くなったんだ」
  その言葉に、俺と由比は言葉を失った。
諏訪原亨輔「心の整理はついてるから、気にしないでくれ」
  笑いながらスワはそう言ったが、その笑みはどこか空虚に見えた。
  俺と由比は、今はそっとしておこうと目くばせをしてスワの席を離れた。
  スワがいとこと仲が良かったのは、俺も由比も知っていた。
  中学2年の彼は剣道少年で、スワに憧れて剣道を始めたと言っていた。
  自分を慕ってくれていた可愛いいとこが突然亡くなったんだ。
  それはあまりにも、ショックが大きかっただろう。
  俺は机に突っ伏してるスワに、かける言葉が見つからなかった。

〇教室
  4時間目の授業が終わり、昼休みの開始を告げるチャイムが鳴る。
  使っていた教材を片付けていると、突然クラスメイトの女子が沸(わ)き立った。
  なにがあったのかと廊下の方を見ると、そこにはひらひらと手を振る薬師寺がいた。
  うげ、と露骨に表情に出しながら薬師寺の待つ廊下へと向かう。

〇学校の廊下
茶村和成「なんの用だよ」
薬師寺廉太郎「そんな顔しないでよ。 せっかく忘れ物届けに来てあげたのに〜」
  そう言って薬師寺が差し出したのは、紺色の風呂敷に包まれた弁当箱だった。
  あ、と思って今朝のことを思い出す。
  2人分のお弁当を作り終わってから、まだ寝ぼけている薬師寺に「そこに弁当置いてあるから!」と言い捨てて学校に来た。
  そのとき、自分の分も一緒に置いてきてしまったらしい。
茶村和成「ありがとう。 昼食抜きになるところだった」
薬師寺廉太郎「うん、どういたしまして」
  素直に薬師寺にお礼を言ってから、弁当を受け取る。
  すると薬師寺が俺の向こう側、教室の中をじっと見つめているのに気がついた。
茶村和成「どうかしたのか?」
薬師寺廉太郎「・・・あの黒髪で体格のいい子は、友達?」
  薬師寺が指さした方を見ると、昼食を食べながらぼんやりと由比の話を聞くスワの姿があった。
茶村和成「ああ、そうだけど」
薬師寺廉太郎「ふうん」
  薬師寺はそう言いながらも、スワを見続けている。
  なんなんだと眉間に皺(しわ)を寄せると、薬師寺は目を細めて口を開いた。
薬師寺廉太郎「彼、このまま放置してたら死んじゃうよ」
茶村和成「・・・は?」
  絶句して薬師寺を見つめ返す。
  薬師寺はいつものように、へらりと笑った。
薬師寺廉太郎「いつもの図書館に、彼を連れてきてよ」
茶村和成「ちょ、おい! 薬師寺!」
薬師寺廉太郎「じゃあ放課後にね〜」
  薬師寺は俺に背を向け、ぶらぶらと手を振りながら立ち去っていく。
  俺は、先ほど薬師寺が指さしていた人物——スワに視線を向けて、口内に溜まった唾液をごくりと飲み込んだ。

〇木造校舎の廊下
  放課後、俺はスワを連れて旧校舎を訪れていた。
  もちろん薬師寺に言われたことが気になったからだ。
諏訪原亨輔「おい茶村、どうしてこんな場所に?」
茶村和成「・・・ここに用があるんだ」
諏訪原亨輔「いったいどうしたんだ? 部活があるから、できれば早くしてくれ」
  渋ってるのを強引に連れてきたため、スワは困惑した表情をしている。
  俺は薬師寺と初めて会った場所である、旧校舎の図書室のドアを開けた。

〇古い図書室
薬師寺廉太郎「やあ、いらっしゃい」
  薬師寺は本棚にもたれかかりながら俺とスワを迎え入れた。
  手にしていた古めかしい文庫本を閉じて、俺たちを中へと誘(いざな)う。
薬師寺廉太郎「座って座って、こっちどーぞ」
  奥にあるソファに俺とスワを座らせて、薬師寺はその向かいにある椅子にゆったりと腰掛けた。
薬師寺廉太郎「はじめまして。 俺は薬師寺廉太郎。3年生だよ」
諏訪原亨輔「ああ・・・最近茶村によく会いに来る・・・」
  スワは薬師寺に覚えがあったようで、俺の方を見て訝(いぶか)しげな表情を浮かべる。
諏訪原亨輔「茶村と薬師寺さんは、どういう関係なんだ?」
茶村和成「え、」
薬師寺廉太郎「ひゃひゃ、人には言えないヒミツの関係・・・ってやつだよぉ」
諏訪原亨輔「・・・そうなのか?」
茶村和成「違う! あー、その、ただの友達だ」
  ったく。こいつは本当に、ロクなことを言わない。
  薬師寺はケラケラと笑ってから、スワをじっと見つめる。
薬師寺廉太郎「んで、君のお名前は?」

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