雨降る夜に(脚本)
〇店の入口
店員の青年「ッし!「closed」本日も無事営業しゅ──」
店員の青年「──っと!?」
店員の青年「大丈夫? おねーさん」
店員の青年「軒先くらい別にいくらでも貸すけど 今、注文してくれるならタオルもついてきますよ?」
店員の青年「うん? この雨だしさ。もう客来ないだろーって」
店員の青年「けど、ラストオーダーまではまだ時間あるし」
店員の青年「実入りあった方が、うちの店も嬉しいから 気にすんなって!」
店員の青年「──じゃなくて、「気にしなくていいですよ?」「お気になさらず?」うん。まぁ、そんな感じです」
〇シックなカフェ
店員の青年「こっち。カウンター」
店員の青年「はい。タオル。 「ご注文は?」」
店員の青年「おすすめか。「ぜんぶおすすめです」 俺がこの店のメニュー語り出すと長いからそう答えろって言われててー」
店員の青年「だれに? うん。おっさ──叔父さん。 ここのマスター」
店員の青年「いや跡継ぎも何も──」
店員の青年「ははっ。俺はしがない店員ですよー。 おっさんが遠くに行く日だけ留守番してんの」
店員の青年「まぁ。いいや。 このままだとおねーさん風邪引きそうだし 先に髪拭こ?」
店員の青年「貸して?」
──────
店員の青年「てりゃ!」
窓を叩く雨音が緩やかになっていく。
丁寧に髪に触れて、言葉をかける。
店員の青年「これも何かの縁だから」
店員の青年「あっ! 注文は決まった?」
〇シックなカフェ
店員の青年「はい! 珈琲」
店員の青年「と、こちら「ケーキセット」になります」
店員の青年「うん。頼まれてないけど」
店員の青年「「珈琲とケーキで、ケーキセットなのに、珈琲とケーキセットはおかしい?」 うん。言いたいことは理解できます」
店員の青年「もう一度言いますね。ケーキセットになります」
店員の青年「「タルトタタン」と「チーズケーキ」と「ガトーショコラ」 別に選ばなくていーよ」
店員の青年「──きらい?」
──────
店員の青年「ああ。お代はいいよ ケーキに関してはね」
店員の青年「──助かった。 俺ひとりで、この後みっつも食べれないし どれも自慢の味だから!」
店員の青年「ひとつでも助かるよ!」
店員の青年「カロリーは・・・・・・ごめん 明日以降がんばって 今日は甘やかしていいと思う」
店員の青年「おいしーよ?」
店員の青年「ほら! たとえば、このタルトタタン。 「恋するタルトタタン」って呼ばれてるんだ」
店員の青年「ぎっしり詰まった林檎が、つやつや真っ赤で宝石みたいだろ?」
店員の青年「このタルトタタンに好かれると 縁を繋いでくれるんだってさ」
店員の青年「食紅? うちの店は使ってないよ。 使うこと自体は個人的には賛成だけど 違うんだなこれが。不思議だろー?」
店員の青年「一口頬張ればもっとびっくりするよ?」
店員の青年「なに? ぽかんと口開けて。 あーんして欲しい?」
店員の青年「──こんなに赤いのが不思議?」
店員の青年「ふっ。ははっ。方法自体はちょっと調べれば察しがつくよ。 レモン汁使うやつ。配合はひみつー」
──────
店員の青年「おねーさんは可愛い人だ」
店員の青年「うん。よかった。おねーさんが 今、ここに居てくれたから、 タルトタタンは見つけて貰えたんだよ」
店員の青年「だから、ありがとね」
〇シックなカフェ
静かな店内にちいさな音が響いている。
バックヤードと客席に存在する
忙しい昼間には気づけない音。
店員の青年「──あ、雨。いつの間にか止んでたんだ」
店員の青年「うん? 別に好きなだけ居ていーよ?」
店員の青年「「明日仕事だから」? そっか。まぁ仕方ないね。うん。お疲れ様です」
店員の青年「たいへんだねー。うんうん。明日来なきゃいいねー」
店員の青年「ッし。「お見送り」してあげよう!」
店員の青年「あ、お会計はこっち」
〇店の入口
店員の青年「いってらっしゃい!」
店員の青年「俺が応援してるから、明日もがんばれ!」
店員の青年「それで弱音でもなんでも いつでも聞いてあげるから よかったらまた来てよ」
店員の青年「じゃあね「また明日!」」
〇シックなカフェ
店員の青年「戸締りよし。今度こそ本日営業しゅーりょー」
店員の青年(通知気づかなかった。おっさんからだ)
店員の青年「もしもし?」
店員の青年「うん。うん。退院の日付決まったって? おめでとう」
店員の青年「店? 大丈夫。ちゃんと営業出来てるよ。 もともと俺がちっせー頃から知ってるような常連さんばっかだし」
店員の青年「へまは多分してるけど!」
店員の青年「あー。まぁ。新しいお客さんは── 今日は、ひとり居なくもなかったけど」
店員の青年「けど。うん「お客さん」と言っていいのか? うちの店に来たっていうか──」
店員の青年「うーん。まぁ、とにかく。 いつ戻ってくるんだ? おっさんが 店にたてるようになるまでは手伝うし」
店員の青年「うん。うん。──そう」
店員の青年「ううん。仕方ないよ」
店員の青年「──お疲れ様」
店員の青年「もし、よかったらさ。その日まで開けてていい?」
店員の青年「うん。もっとはやくに、こうなる可能性もあったのに。 わがまま聞いてくれてありがとう」
店員の青年「この店が好きだよ。 最後の瞬間まで、ここに来てよかったって思ってもらいたい!」
店員の青年「うん。おやすみなさい。 大丈夫。また明日」
────
店員の青年(あのおねーさんは、覚えててくれるかな ここに居たこと。タルトタタンと雨の音)
店員の青年(ちょっと強引なとこあったし そこは反省。 次は──もっと、うん。上手くやる)
店員の青年「──また、来てくれるといいなぁ」
〇店の入口
店員の青年「あれ? 昨日のおねーさん?」
店員の青年「今から仕事? ちゃんと起きれてえらいなー。 ──モーニング食べる時間ある?」
店員の青年「うん。開店は八時からだけど よく前後するし別にいーよ」
店員の青年「いや、ナンパみたいって。 そんなチャラくはないです」
店員の青年「──急ぐ?」
店員の青年「ッし! 一名様ご案内ー!」
店員の青年「──いらっしゃいませ!」
じつは私がタップノベルを本格的に知ったのが、この作品を読んだからです!何回も読み返すほどとても好きです!
柔らかくも甘酸っぱく甘いセリフが似合う彼は、まさにタルトタタンですね!
終始キュンがとまらない…!
お姉さんがいわくのある人かと思って…と、最初オートの仕方が分からず、2回目に、あ、店を閉める前の初めての青年が出会ったお客さんなのかも、とか、オートだと、アニメみたいで、作るの大変だったかも、と思えてきました。間違いの場合はご容赦を。
おねーさん呼びに終始キュンキュンされっぱなしでした。全体的に穏やかな甘さを感じる作品で、一つ一つのセリフが丁寧に描かれている印象でした!
素敵な作品ありがとうございました!