B1の王子(脚本)
〇大きいデパート
百貨店『柊屋』地下食品売場
〇デパ地下
藤「お待たせ致しました クッキー缶3個です」
「ありがとうございました」
田島「売れ行き好調っすね」
藤「うん、久しぶりに混んでるね」
田島「駅ビルが改装されてから お客さん減りましたもんね」
藤「百貨店も良い物あるんだけどなぁ」
田島「ま!お茶屋にかぎりは うちがどこよりも賑わってますって!」
藤「あー・・・」
西条「今日は知覧茶がお買い得です」
一般客「10箱買います!」
一般客「私も頂くわ」
西条「いつもありがとうございます」
藤「あれは、お茶屋というより 西条さんの人気かと」
田島「すごいっすよね、B1王子」
藤「B1王子?」
田島「1年前、B1フロアに彗星の如く 現れたイケメン店員」
田島「顔よし、性格よし、仕事はできる しかも実家は京都老舗茶屋!」
田島「人は彼をこう呼ぶ!」
〇西洋の城
B1の王子!!!
〇デパ地下
藤「へえ」
田島「王子はタイプじゃないんですか?」
藤「そりゃかっこいいと思うよ」
藤「ただ」
藤(社員通路で聞いちゃったからなぁ)
〇ビルの地下通路
紳士服店員「店継ぐ為の修行とはいえ こんな地方百貨店に来なくても」
紳士服店員「そのスペックがもったいねーよ」
西条「何言ってんですか」
西条「まぁ仕事は嫌いじゃないんで」
西条「ゆるくやります」
紳士服店員「暇潰しがてら気楽にやれよ」
西条「そうっすね」
藤(そんな風に思ってたの!?)
〇デパ地下
藤「私は、少し苦手かも」
田島「王子を苦手って正気ですか!?」
藤「もう、この話終わり!」
藤「働くよ」
〇大きいデパート
数日後
〇デパ地下
藤(休憩終了)
藤「戻りました」
藤「わ!随分売れたね」
田島「のし付きギフト注文の連続で」
藤「1人で大丈夫だった?」
田島「頑張りました!」
藤(田島、成長したなぁ)
藤「お疲れ様」
田島「はい」
〇大きいデパート
〇デパ地下
藤「いらっしゃいませ」
一般客「ちょっと!!」
「はい!?」
一般客「昼頃ここで買った結婚祝い ”のし”の水引が蝶結びなんだけど」
田島「あ、俺が売ったやつ」
藤「申し訳ございません、すぐに交換を」
一般客「そんな謝罪で済ませる気!?」
藤(え〜)
藤(どうしよう)
「お客様」
西条「不快な思いをさせ申し訳ございません」
一般客「だ、誰よあなた」
西条「奥の店の者です、声をお聞きして 思わず駆けつけました」
西条「私からもお詫び致します」
一般客「・・・」
西条「お客様?」
一般客「!」
一般客「もう、いいわよ」
一般客「気をつけなさいよ」
〇デパ地下
「・・・・・・」
西条「ひとまず、一件落着ですかね」
田島「王子ぃ〜ありがとうございます」
西条「王子?」
西条「まぁ、よかったよ」
藤「田島!」
藤「のしは必ず2回確認!」
藤「次は絶対に気をつけて!!」
田島「はい、すみませんでした」
西条「まぁ藤さん、そんなに怒らなくても」
西条「たかが"のし"のミスじゃないですか」
藤「たかが!?」
藤「私達百貨店店員はお客様の ライフイベントに関わるんですよ!?」
藤「西条さんみたいに暇潰し感覚では 困ります!!」
田島「藤さん!」
西条「暇潰し、ねぇ」
西条「助けてもらってその言い方は どうなんですか」
西条「仕事のモチベーションなんて 個人の自由ですよね」
西条「藤さんみたいな堅苦しい考えが 百貨店を時代遅れに するんじゃないですか?」
藤「なっ・・・」
田島(気まずすぎる)
藤「それなら、勝負しませんか?」
西条「勝負?」
藤「はい、来週50周年フェアですよね」
藤「各店舗50個の限定商品 どちらが早く売れるか競争しましょう」
西条「負けた方が発言撤回、土下座でいいですか?」
藤「ええ」
藤「西条さんの土下座楽しみにしてます」
〇大きいデパート
〇更衣室
藤(はぁ)
藤(馬鹿なことしたなぁ)
藤(でも)
〇デパートの屋上
百貨店は私にとって、小さい頃から
大好きで大切な場所
〇更衣室
藤(ここは譲れない!)
〇大きいデパート
フェア当日
〇デパ地下
田島「王子特別仕様っすね」
藤「こっちも気合い入れてくよ」
田島「はい!」
〇大きいデパート
〇デパ地下
藤「ありがとうございました」
藤(あと9個。お茶屋は──)
藤(7個。まだ行ける!)
藤「いらっしゃいませ」
一般客「この限定クッキー缶は何味かな?」
藤「バニラ、苺、抹茶の3種です」
一般客「では全部頂こう」
藤(完売!)
藤「すぐにご用意致しますね」
一般客「ああ」
一般客「抹茶好きに贈るお菓子のギフトを 探してたんだ」
一般客「やはり百貨店は何でも揃うね、よかった」
藤(抹茶好き・・・)
藤「お客様」
〇デパ地下
西条(閉店まで1時間半)
西条(残り7個か)
「こちらです」
一般客「お茶屋かい?」
藤「はい!実はこの店、お茶だけでなく 抹茶ボーロも取扱っていまして」
藤「抹茶好きも満足の濃厚さです」
一般客「そうか!ありがとう」
藤「西条さん」
西条「はい」
藤「抹茶味のお菓子ギフトをご所望の お客様です、お願いします」
西条「は、はい」
藤「失礼します」
一般客「では抹茶ボーロと、 このお茶の限定缶をあるだけ頂こう」
西条「かしこまりました」
〇大きいデパート
閉店後
〇デパ地下
田島「3個残り・・・」
田島「王子の方は完売か」
藤「勝負は負けだけど、頑張ったよ」
藤「お疲れ様、田島」
田島「はい」
田島「売上金預けてきますね」
藤「お願い」
〇デパ地下
藤(片付けよう)
藤(!)
藤「西条さん」
藤「土下座の件ですね?」
西条「いえ」
藤「え?」
西条「あの方、藤さんの所で 購入予定だったんですね」
西条「抹茶好きの話から、うちを 勧めてもらったって喜んでましたよ」
西条「黙っていれば完売だったのに」
西条「お客様と百貨店全体を考えた接客を したんですね」
西条「堅苦しいとか言ってすみませんでした」
藤「謝るのは私の方です!」
藤「自分の価値観を押し付けて ひどい事を言ってしまい」
藤「すみません」
西条「藤さん」
西条「じゃあ今回はお互い様ってことで ここで水に流しましょう」
藤「はい」
藤「西条さんの接客センスは本物です」
藤「これだけフェアを盛り上げられれば 京都の老舗も安泰ですね」
西条「京都?」
藤「ご実家、京都老舗のお茶屋ですよね」
西条「いや、たしかにお茶屋ですけど 老舗じゃないですし」
西条「俺の実家大阪です」
藤「え、そうなんですか?」
藤(田島〜)
藤「意外です、話していても気づきませんでした」
西条「方言が出ないよう意識してますからね」
藤「いいじゃないですか」
藤「方言って魅力的だと思いますよ」
西条「ほんまに?」
藤「──」
西条「ほんなら次から藤さんだけには」
西条「素で喋ろかな」
〇西洋の城
ほんまに?
〇落下する隕石
〇デパ地下
藤「・・・な」
藤「なんでやねーん」
西条「!」
西条「何そのしょーもない返し」
西条「冗談ですって」
西条「ま、とにかく お互いお疲れ様です。俺あがりますね」
藤「お疲れ様です」
藤「・・・」
〇デパ地下
田島「戻りました」
田島「藤さん!?」
藤「あんなの反則だ」
田島「はい?」
〇西洋の城
恐るべし・・・
B1の王子!
B1の王子の圧倒的勝利!(最後のあれはズルいです)
ヒロインの百貨店に対する想いも素敵で、だからこそいい場所にしたいと奮闘し敵に塩を送るところが素敵でした。
こんな想いを持って毎日奮闘している店員さんに接客してもらって、おじいさんも嬉しかったでしょうね。
ラストのヒロインの「なんでやねん」にものすごい共感でした!
心温まる素敵なお話でした、ありがとうございました!!
自分にだけ方言で話すとか、もはや反則級の一撃ですねw
次の帰省の土産探しは百貨店にでも行こうかな?
藤さんのように情熱を持って百貨店で接客して働く人ってどのくらいいるんだろう? チェーン店や大手の会社の接客がどんどんマニュアルに沿って何か人間味のないものに感じる時が多い中、彼女のような店員に出会えたお客様も幸運ですね。接客の仕事もこうして向き合えば、より価値の大きいものに感じられます。