読切(脚本)
〇ネオン街
相模 柊「──それにしても、久々に皆で集まれて楽しかったね」
相模 柊「ふふっ、学生時代を思い出すなぁ」
相模 柊「君は?酔って気分悪くなったりしていない?」
相模 柊「──それならよかった」
相模 柊「でもちょっと顔、赤い」
相模 柊「あまりお酒に強くないの、昔から変わらないね」
相模 柊「調子に乗って飲みすぎたらダメだよ」
相模 柊「悪い男に引っかかって君が泣くとこなんて見たくないからね」
「二人って兄妹みたいだよね」
学生時代、聞き飽きるほど周囲からそう言われ続けたこの関係性。
あの頃から先輩のことを一人の異性として慕っていたのに、このぬるま湯のような関係を壊すのがなによりも怖くて。
結局想いを告げることもできないまま、卒業と共に先輩とも疎遠になってしまった。
私(本当は、顔が赤いのは貴方のせいなのに)
私「全く先輩は心配性ですね!」
私は無邪気に拗ねたふりをして、笑ってみせた。
〇渋谷のスクランブル交差点
相模 柊「大学の最寄り駅なんて卒業以来だけど、ちょっと見ないうちにこうも景色が様変わりしてるとびっくりするよ」
相模 柊「駅までこうして二人で歩くのも久しぶりだし、なんだか新鮮な気分だね」
夜風に吹かれて、先輩と交わす他愛もない会話はとても心地よい。
私(この感じ、懐かしいな)
ドンッ!!
突然、肩に鈍い衝撃を感じた。
気づいた時には、尻餅をつき路肩に倒れ込んでいた。
私「・・・い、たた」
相模 柊「だ、大丈夫!?」
チンピラ「おいおいねーちゃん、何してくれてんだよ!?」
チンピラ「お前がぶつかってきたせいで!」
チンピラ「俺が!!」
チンピラ「ケガしちまったじゃねーかよ!?」
チンピラ「どう落とし前つけてくれんだ!?」
相模 柊「ちょっと、何を仰ってるんですか?」
相模 柊「あなたが彼女にぶつかってきたんでしょう?」
チンピラ「お前には聞いてねーんだよ!」
相模 柊「──ッ!」
私「!!」
チンピラ「で?ねーちゃんは、どう責任を取ってくれるのかなぁ?」
私(あぁ、この人、「わざと」だ)
気づいた瞬間、手の震えが止まらなくなった。
相模 柊「・・・走ろう、一緒に」
そっと、先輩が耳元で囁いた。
私「え──?」
相模 柊「絶対に、君の手を離さないから」
私「・・・」
私「はい──!」
チンピラ「なんだお前ら?こそこそしやがって」
相模 柊「・・・せーの、で走るよ」
相模 柊「せーの、っ!!」
ダダダッ!
チンピラ「──お前ら!待ちやがれ!」
〇飲み屋街
相模 柊「──ハァッハァ、ここの路地なら身を隠せそうだね」
相模 柊「・・・」
相模 柊「そんな泣きそうな顔しないの」
相模 柊「何があっても、絶対に守るから」
私の心臓は違う意味でも早鐘を打っていた。
狭い路地で、まるで壁に押さえつけられるような体勢で密着している。
私「あの、せんぱ、」
相模 柊「しっ、静かに。あいつの声がする」
私(どうか、このままやり過ごせますように)
どうか、心臓の鼓動が先輩に伝わりませんように
〇飲み屋街
──
どれぐらい時間が経っただろう。
相模 柊「──うん、もう大丈夫そう」
相模 柊「見失ってくれたみたいだ、よかった」
相模 柊「あはは、なんだか俺も今になって怖くなってきちゃった」
相模 柊「待って、今タクシー拾うから。家まで送らせて」
〇タクシーの後部座席
相模 柊「──ごめんね、俺がついてたのに、怖い思いさせちゃった」
相模 柊「手、まだ震えてる」
カタカタと震える冷たい手が、先輩の大きな掌にぎゅっと包み込まれる。
その暖かさを感じた瞬間、一気に緊張の糸が切れて涙が溢れた。
相模 柊「──大丈夫。側にいるから」
相模 柊「だから、今は泣いていいんだよ」
優しい言葉に心がほどけていくようで、私はポロポロと安堵の涙を零し続けた。
〇綺麗な部屋
相模 柊「それにしても、こんな夜中に女性のお部屋にお邪魔するなんて」
相模 柊「いくらなんでも失礼が過ぎたかな・・・?」
相模 柊「・・・」
相模 柊「──ありがとう。俺のこと、信頼してくれてるんだね」
相模 柊「さすが俺の妹分!」
相模 柊「──なんて。ごめん、冗談」
相模 柊「素直に嬉しいよ」
相模 柊「でももう少しだけ警戒心も持ってくれないと」
相模 柊「俺は君が悪い男に引っかからないか気が気じゃないよ」
私「ふふっ、またその心配。相変わらずですね」
相模 柊「あ、掌・・・擦りむいてる」
相模 柊「ちょっと見せて」
相模 柊「それに、涙の跡も・・・」
頬を指が伝う。
鼓動が跳ねた。
相模 柊「──こんな風に傷ついた君を見てると」
相模 柊「どうしてだろう、耐えられないぐらい」
相模 柊「胸が苦しいんだ」
指先に吐息がかかる。
私「あの、せんぱ・・・?」
とんでもなく、先輩の顔が近い。
瞳に映る自分の慌てふためいた顔に、動揺が隠せない。
相模 柊「ねぇ、一つ訊いてもいい?」
相模 柊「もしも、だよ・・・?」
相模 柊「今君の家に押しかけたとってもわるい男が」
相模 柊「君を抱きしめて安心させたいんだって言ったら」
相模 柊「君は怒るかな・・・?」
私「──!」
相模 柊「──って、ごめん!」
相模 柊「震えてる君にこんなこと訊くなんて」
相模 柊「俺、めちゃくちゃ卑怯だよね・・・」
相模 柊「──うん、だから、全部正直に伝える」
相模 柊「兄妹みたいな関係なんて言葉に甘えて、自分の気持ちに気づかないふりしてた」
相模 柊「多分怖かったんだ、この感情と真っ直ぐ向き合うのが」
相模 柊「でも、君の手を握りしめて駆け出した時にさ」
相模 柊「君を守れるなら俺なんてどうなってもいいって思えちゃったんだ」
相模 柊「やっと気づいた」
相模 柊「君を、一人の女性として愛おしく想ってたんだって」
私「──!」
相模 柊「その表情・・・俺、自惚れてもいいのかな」
相模 柊「君が、同じ気持ちでいてくれてるって」
私は、嬉しさで滲む視界の中こくりとうなづいた。
相模 柊「──嬉しい、言葉で言い表せないぐらい」
先輩は、私の左手を恭しく手に取った。
薬指に、そっと口づけが降りてくる。
相模 柊「こんなに君を待たせて、わるい先輩でごめんね」
相模 柊「これからは、ずっと君の側にいさせて」
相模 柊「──愛してるよ」
薬指に残った彼の体温はいつまでも消えず、私を満たし続けた。
それはまるで、誓いの指輪のように。
ピンチな時に彼に助けてもらうシチュエーション、そして手を繋いで走って逃げる部分の青春感、とても良かったです!また、彼の言い回しにも甘さを感じました。素敵な物語ありがとうございました!
柊君の台詞にドキドキしっぱなしでした!!
素敵なお話で、今日一日頑張れそうです!
関係を壊すのが怖いから踏み出せない一歩。でも、彼も同じ思いでいてくれて良かったです!
最初のヒロインの想いからドキドキ、そして甘々でキュンキュンなラストまで、楽しく読ませていただきました。二人の未来はきっと甘くて幸せに溢れているんでしょうね✨