熱と、渇望と。(脚本)
〇遊園地の広場
部活がない唯一の休息の日。
私は人と音と熱気で溢れかえる場所・・・遊園地に来ていた。
・・・キャプテンからのお誘いを受け、みんなで。
なんで私、こんなところにいるんだろう・・・
いや、まぁなんでって・・・私が『行く』って意思表示をしたからなんだけども
ゆい「はぁ・・・」
思わず漏れ出る大きなため息。
だけど、がやがやとした周囲には敵わなかったらしい。
副キャプテンや友人のうきうきとした表情を曇らせることはなかった。
ほっと胸を撫で下ろした私は続けて”彼”へと視線を移す。
先輩、今日は一段とかっこいいな・・・
いつものデートの服装もすごくかっこいいから、結局は全部好きなんだけど
と、先輩のかっこよさにときめく一方で。
・・・罪悪感で、胸が痛い。
今日は先輩とデートの予定だったから。
部活の合宿や受験生である先輩の模試で、ことごとく潰れた休日。
久しぶりに会えると思った矢先、私がやらかしてしまった。
あれは数日前のこと──
〇学校の部室
キャプテン「日曜は久しぶりの休みじゃん!」
突然、キャプテンが元気な声を出した。
副キャプテン「そうだな。 お前は1か月ぶりくらいか」
キャプテン「そーそー。 俺だけ先週大会で~、先々週は合宿で~ ・・・って感じだったから」
キャプテン「俺はめいっぱい遊びたい!!!」
さすがキャプテン。
うるさ・・・体力が有り余っているなぁ
へとへとで倒れそうな私とは大違い
キャプテン「っつーことで、日曜は遊園地に行こーぜ!」
キャプテン「なぁ、ゆいも行きたいだろ!?」
ゆい「あ、はい!」
あれ。今、私、なんて・・・
キャプテン「すっげー気合がこもった返事だな!いいことだ!!」
キャプテン「みんなも行くよな!」
副キャプテン「もちろん行くよ!」
後輩「私も行きたいです!」
次々と増えていく参加者。
一番初めに了承した私は今更『やっぱり行かない!』とも言えなくなる。
いくら疲れてたからって・・・やらかした
先輩とのデートはまたおあずけか・・・
走り終えたばかりだった先輩は、腕を冬の冷気に晒している。
意外とがっしりしたそれに見惚れそうになったとき。
微笑む先輩が目に入った。
『大丈夫だよ』って言ってくれてるみたい・・・相変わらず優しいな
キャプテン「日曜は12時に現地集合で!」
場に合わないときめきを感じている私を目覚めさせるような一声。
2人の間を埋めようとしていた空気も、先輩の頬を赤く染めていた熱も。
もう、消えてしまったけれど。
先輩の表情は柔らかいままだったから。
安堵を覚えた私は、先輩にこっそりと微笑みを返したのだった。
〇ジェットコースター
キャプテン「うおー!!」
後輩「きゃぁぁぁぁー!!!」
ゆい「しぬっ・・・!!」
〇メリーゴーランド
キャプテン「ふははっ! メルへ~ン!!」
後輩「メルへ~ン!!」
ゆい「恥ずかしい・・・」
〇暗い廊下
先輩「怖い仕掛けはなさそうだね」
ゆい「先輩、それフラグです・・・」
お化け「う、うぅ・・・」
ゆい「わ、わわっ・・・!!」
先輩「慌てるゆいちゃん、可愛いね」
ゆい「そ、そんなこと言ってる場合じゃ・・・」
ゆい「って、ほら!追いかけてきますよ!」
先輩「恨めしそうだね。 羨ましいんだろうね、ははっ」
お化け「一発殴るくらいは許される・・・」
ゆい「物騒な言葉が・・・!」
ゆい「先輩、本気で逃げますよ!!」
先輩「ふふっ、りょーかい」
先輩「今ならみんなに見られないし・・・」
──ぎゅっ
ゆい「あっ、手・・・」
先輩「さぁ、行こうか」
ゆい「・・・・・・はい」
お化け「うがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
〇観覧車のゴンドラ
それから私たちは、はぐれたふりをしてちゃっかり2人きりに。
なんとなく目を合わせられずにいると
先輩「そろそろ、こっちを見てくれると嬉しいな」
ゆい「うっ・・・」
揶揄うように、そしてどこか切なげに響く声。
静かな籠の中では私のうるさい鼓動が先輩に聞こえてしまいそうだ。
と、そのとき。
──ストンッ
先輩「待てなかった」
先輩「余裕がない彼氏でごめんね」
ゆい「だ、大丈夫です! 私も、その・・・」
ゆい「・・・ずっと隣に行きたかったので」
恥ずかしくてぼそぼそとしか出てこない本音。
ただ、小さくてもやっぱり届いていたらしく、
先輩「それ反則だよ」
珍しく照れた表情を浮かべる先輩がいた。
先輩「触れてもいい?」
先輩「全然、足りない」
口を開いたら心臓が飛び出てしまいそうな私はこくりと頷く。
先輩「髪、今までで一番好きかも」
流れている私の髪を優しく掬う先輩。
息が触れ合いそうな距離まで近づく先輩は艶やかで、逃げ出してしまいたくなるけれど。それと同時に。
・・・私も先輩に触れたい
そんな思いから私に触れる先輩の手へ、自分の手を重ねた。
ずっと、こうしたかった
ううん。むしろ私も
ゆい「・・・全然足りない」
ぽろりと零れ落ちた言葉。
心の隙間を埋めようとするみたいに、どちらからともなく近づいていく。
自然と目を閉じた私に、柔らかな温もりが落とされた。
じんわりと広がっていく熱と、私の全身を包み込む先輩の想い。
それなのに。
『まだ足りない。もっともっと』
なんて、私は欲張りかもしれない。
先輩「・・・困ったな」
先輩「満たされてるはずなのに。 もっと欲しい」
ゆい「・・・ふふっ。同じですね」
先輩「っ・・・!!」
再びゆっくりと目を閉じる。
ドキドキは止まらないけど、幾分か緩やかになった鼓動は心地いい。
熱の雨を受けながら感じる、確かな幸せ。
ゆい「今度は2人だけで来たいですね」
先輩「また来ようよ。何回も。 来年も再来年も」
”これから”を約束する私たち。
甘い雰囲気が漂う私たちを。
澄んだ夜空に浮かぶお星さまと強い煌めきを放つお月様が、優しく見つめていた。
甘ぁぁぁぁぁい。秘密が、優越感が燃える。さらに「全然足りない」でちゅどんと発射しました。恋愛讃歌。
後半の怒涛の甘い展開に、私もドキドキしてしまいました。先輩の言葉一つ一つにヒロインへの愛情が感じられました!
とても素敵な作品ありがとうございました!
キャプテンが出てきた時、「こういう人いたな〜」って思ってしまいました...笑
面白いお話でした!