星空心中

戸羽らい

星空心中(脚本)

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〇屋上の端
  ──ビルの屋上
  下を見ると、何もない地面がただ広がっている
  それは静かで、固く、冷たい
  まるでそこに意味なんてないんだと
  何もない私の人生は
  今日で幕を閉じるのだと
  そう受け入れるに相応しい光景だった
☆「おや、珍しいですね」
☆「こんなところに人がいるなんて」
★「・・・」
☆「もしかして星を見に来たんですか?」
☆「いいですよね、ここ」
☆「見晴らしもいいし、静かで・・・」
★「はは・・・」
☆「どうしました?」
★「いや、うまくいかないなぁって・・・」
☆「もしかしてお邪魔でした?」
★「いえ、そんなことないです」
★「邪魔なのは私の方ですよ」
★「私がいたって、みんなの邪魔になるだけ」
★「ならいっそ、死んでしまおうかなと、考えていたところです」
☆「そうなんですか」
☆「そんな素敵な声をしているのに、死ぬなんて勿体ないですね」
★「ははは・・・」
★「お世辞はいいですよ」
★「私の声、他の子より少し、低くないですか?」
☆「低いからなんですか?」
☆「僕は綺麗だと思いますよ、あなたの声」
★「・・・」
★「たとえ綺麗だったとしても、声が綺麗な子なんて他にいくらでもいます」
★「結局、私の代わりなんていくらでもいるんです」
☆「じゃあ言い方を変えます」
☆「僕はあなたの声が好きです」
★「・・・」
★「別にあなたの好みなんて知りませんけど」
☆「ではこの機会に知ってください」
☆「僕はあなたの声が好きです」
★「っ・・・」
★「そうですか」
★「でも、あなたがそうでも、みんなはそうじゃない」
★「世間からしたら、私の存在は取るに足らないんです」
☆「世間、ですか」
★「私、声優を目指してたんですよね」
★「でも、私は他の子と比べて華がなくて、目を引くような、人を魅了できるような、そんな何かがない」
★「何もないんですよ、私には」
☆「何もない──か」
☆「僕には、あなたが自分でそう思い込んでるだけに見えますけどね」
☆「あなたはその気になれば、誰かの目をひくことも、魅了することもできる」
☆「ただ、その自信がないだけで」
★「自信がなかったら目指してませんよ!」
★「その自信が・・・」
★「取り柄だと思ったものが・・・」
★「全然大したことなかった・・・」
★「これも私の思い込みだって言うんですか!?」
☆「思い込みですよ」
☆「そんなの、思い込みです」
★「・・・無責任な言葉で甘やかさないでください」
★「他人事だと思って適当なこと言わないでください」
★「あなたに私の・・・何が分かるんですか?」
☆「何も分かりません」
★「なら・・・」
☆「ですが、あなたに才能があることだけは分かります」
☆「あなたの声は低いのではなく、高低差がある」
☆「抑揚がはっきりとしていて、よく通る」
☆「そして何より、演者としての素質がある」
★「だから適当なこと言わないでください!」
☆「適当じゃないですよ」
☆「だって、僕もあなたと同じ志を持つ人間ですから」
☆「僕はあなたの声が好きです」
☆「それこそ、自分のものにしたいくらいに」
  そう言うと、
  彼は私の隣に立って、夜空を見上げた

〇宇宙空間
☆「今日は星が綺麗ですね」
☆「僕もいつかあんなふうに輝けたら──なんて思います」
★「・・・」
☆「ちょっと、二人で演技の練習でもしませんか?」
★「練習?」
☆「どんな役がいいだろう──そうだ」
☆「例えば、僕らは愛し合っているのだけど、それは許されない恋だった」
☆「二人で駆け落ちをするが、世界に居場所がない僕らは、最後に心中を選ぶ」
★「・・・」
☆「おい──本当についてきて良かったのか?」
☆「ここまで来たらもう、後戻りできないぜ」
  いい・・・
☆「そうか」
☆「最期にもう一度だけ──愛してる」
☆「こんな俺だが、お前に出会えたことだけが救いだった」
☆「何もない世界でも、お前と一緒にいることで、そこに意味が生まれた」
  彼は私の手を握る
☆「この手は死んでも離さない」
☆「離すもんか」
☆「最期を迎えるその瞬間まで、俺たちは繋がっていよう」
  心臓の鼓動が速くなる
  彼の言葉が、声色が、本当にこれから心中するつもりのように感じられるからだ
  ビルの屋上、夜風が私の頬を優しく撫でる
☆「一緒に一歩踏み出そう」
☆「大丈夫。二人なら怖くない」
  まって
☆「待たないよ」
  まってください
☆「待たない」
★「待ってったら!」
★「こんな幸せな気持ちで、死ねるわけないでしょう」
☆「・・・」
☆「いいね。それだよ」
☆「その感情が君には似合ってる」
☆「暗闇の中でも強く光る、星のような眩さ」
★「からかわないでくださいよ・・・」
☆「からかってないさ」
☆「だって最初に君を見つけた時、僕には本当に輝いて見えたのだから」
★「・・・」
☆「ふふっ。ごめんなさい ちょっと臭かったですかね?」
★「臭いです・・・」
★「羨ましいくらいに、臭いです・・・」
★「私もあなたのように、はっきりと言葉を紡ぎたい・・・」
☆「なら、僕が手伝います」
☆「良かったら、明日もここに来てくれませんか?」
☆「お互いの夢が叶うまで一緒に練習を──」
★「迷惑じゃないんですか?」
☆「とんでもない」
☆「僕はね、あなたの隣で一緒に輝いてみたいんです」
☆「今まで僕はここで夜空を眺めるたびに、暗闇と同化してしまうような気持ちになった」
☆「何もなかった ただただ、暗い世界だけが広がっていた」
☆「でもね」
☆「真っ暗だったこの場所に、一つの光が射しこんだんです」
☆「それがあなた──」
★「っ」
★「そんなこと言われたら、断れないですよ」
☆「ふふっ」
☆「どうか、よろしくお願いします」
☆「僕のお星様──」
  何もない私の人生は
  今日で幕を閉じるのだ
  そして、何かあるかもしれない
  明日に期待してしまう
★「ずるいです・・・」
  私は俯いていた顔を上げ
  星空を眺めると
  そこにはたくさんの星が
  静かに、それでいて強く、輝いていたのでした

コメント

  • 一つ一つのセリフが心に染みわたりました。きっと声優さんの声がついたら、もっと素敵な作品になるのだろうなと思いました。全体的にロマンがあってとても素敵な作品でした。ありがとうございました!

  • 感情や表情の変化が、物語が進むに連れてプラスの方へ動いていく演出がとても綺麗だなと感じました

    受賞すれば声優さんが起用されることもあり、この作風ならそこのところも上手にハマっていて、コンテスト方面もしっかり考えられているんだなと脱帽です

    自分の作品を作る上でも、参考になりました
    ありがとうございます🙇‍♂️

    これからも応援させていただきます✨

  • 美しい
    ただ美しいです

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