灰色のカルテジア

八木羊

第4話 終幕の鐘は遠く(脚本)

灰色のカルテジア

八木羊

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〇黒背景
  アッシュマンが残した欠片を
  覗き込んだ先で、私が見たのは・・・
  手足がもげ切断部分が赤い糸で縫合されたクマのぬいぐるみが床に転がっている
キリエ「クマのぬいぐるみ?」
女性の声「またあなたは、ぬいぐるみを 切り刻んで・・・もう何体目? いい加減にしなさい!」
男性の声「まあまあ、子供のいたずらだ。 目くじらを立てることじゃない」
男性の声「それに、この綺麗な縫い目をご覧。 ソウゴが自分で縫ったんだ」
男性の声「この子はきっと立派に うちの家業を継いでくれる」
女性の声「でも・・・でも、この子、何か変よ」
子どもの声「足のない猫、片翅のもげた蝶、 ネズミに耳をかじられたウサギ・・・ 昔からそういうものにばかり惹かれていた」
子どもの声「人形やぬいぐるみを切り刻むのは、 手や脚がないほうが美しいと感じたから。 それは僕なりの愛だった」
子どもの声「でも、僕を見る母の眼差しで、 この愛はいけないことだと知った。 この愛は隠すべきものなのだと」

〇病院の診察室
青年の声「そんな僕にとって、整形外科医という 仕事は、まさに天職と言えた」
青年の声「様々な欠けた人がここに来る。 だから見ているだけで満足だった・・・ あの子に会うまでは」
青年の声「高校生バレリーナ? 症状は・・・じゃあ、入ってもらって」
???「・・・初めまして。 よろしくお願いします、先生」
青年の声「脚を引きずって入ってきた彼女を見て、 雷に打たれたような衝撃が走った」
青年の声「ああ、なんて不格好で美しい! 触れたい、切りたい、もぎたい」
青年の声「いや、そんなこと許されやしない ・・・でも!」

〇病院の待合室
キリエ「あ、ああ・・・」
  これは、アッシュマンだった
  『誰か』の記憶だ。
  そして、その『誰か』を私は知っている
キリエ「嘘でしょ・・・先生?」
  カランと、欠片が手から滑り落ちた。
  私の手は震えていた
U「貴重な材料なんだから、大切に扱ってよ」
キリエ「え?」
  Uは欠片を拾い上げると、
  それを前髪に隠れた左目に差し込んだ。
  間近で見て、ようやく気付く
  Uのピンポン玉大のガラスの眼球は
  半分近くが割れて欠けていた。
  欠片はその一部にピタリと嵌ったのだ
U「カルテジアに空いた穴と、 自分の目を繋いだのさ」
U「これで、この目が直れば、 空いた穴も塞がるってわけ」
キリエ「穴と目を繋ぐ? そもそも、あの欠片は何」
U「不純物まみれの灰が、君の幻肢に触れ、 完全燃焼して生まれた、高純度の灰。 さしずめ遺灰とでも言おうか」
U「幻肢に近い力を秘めながら、 幻肢と違い特定の形を持たないから、 欠けたものを埋めるにはちょうどいいんだ」
キリエ「本当に物知りね・・・この世界の ことなら、何でも知っているようだけど、 結局、あなたは何なの?」
U「この世界の創造主。 言うなれば、カミサマさ」
キリエ「・・・は?」
U「そういうわけで、 遺灰集めを手伝ってくれたら、 神がかり的なボーナスを用意してあげるよ」
U「たとえば、君が失ったものを 現実でも取り戻してあげる、とかね」
キリエ「私が失ったものって・・・」
  思わず視線を脚に向ける
キリエ「まさか、 ダイヤモンドの義足でもくれるの?」
U「君にとってダイヤモンドはあくまで、 たとえだろ? 君が本当に望むのは・・・」
キリエ「壊れることのない完璧な脚・・・でも、 そんなこと、本当に可能なの?」
U「君がそれを望むなら。カルテジアと、 その創造主である僕は応えるよ」
キリエ「・・・・・・」
  ゴーン、ゴーン・・・
キリエ「この鐘、たしか、 この世界に来る前にも聞いた・・・」
U「おっと、時間が来たみたいだ」
キリエ「時間?」
U「そうそう、君がずっと知りたがってた、 脱出方法だけど、時間が来れば出られるよ」
キリエ「何それ・・・嘘ついてたの!?」
U「いやいや、出口は紛れもなく、ここなのさ」
U「この向こうに君の言う元の世界がある。 ただ、時間が来るまで 扉は開かないってだけで」
  Uが近づくと、あれだけ頑なだった
  エントランスの自動ドアは、
  あっさり開いた。慌ててUを追いかける
  ドアの向こうのUに手を伸ばす、その時だ
キリエ「ぜんぶ詭弁じゃない! 待ちなさい! この・・・!」
  プツンと、張り詰めた糸が切れるように、私の意識はそこで途切れた

〇病室
  ウーウー、ウーウー・・・
  どこかからサイレンの音が聞こえて、
  目を覚ます。救急車だろうか
キリエ「変な夢・・・」
  白黒の世界、喋る人形、
  着ぐるみの怪物・・・カーテン越しの
  西日に染まった病室を眺め改めて実感する
  あれは、やはり夢だったのだと。
  それでも、少し不安になり、
  布団をめくり視線を落とす
キリエ「マネキンでもダイヤでもない・・・ 当たり前か・・・ん?」
  ベッドの中で、何か硬い物が足先に
  あたった気がした。さらに布団をめくる
キリエ「なっ・・・!」
U「よお」
  夢で見た人形が、
  現実でも生首になって追って来る
  世にも奇妙で陳腐なB級ホラーだ。
  私は思わず・・・
U「な!? 急に掴むな! え、ちょ、投げるの!? ダメダメ! ストーップ!」
  ごちゃごちゃ言う生首を無視し、
  窓を開ける
  人のいない、ちょうどいい場所はないか
  辺りを見回す
キリエ「あれは、パトカー? 病院に停まってる?」
U「頼むから早まるな! 話がある。さっきの相談の続きだ」
キリエ「まだ私、夢を見てるの?」
U「夢じゃない。今も、あの世界も」
キリエ「そんなわけ・・・」
看護師の声「灰瀬さん、今、入っても大丈夫ですか?」
キリエ「は、はい! ちょっと待ってください!」
キリエ「・・・いい、あんたは黙ってて」

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