エピソード1(脚本)
〇センター街
渋谷には音があふれている。
車の音
楽しそうな笑い声
店のBGM
大ボリュームのコマーシャル
いつまでも終わらない工事の音
にぎやかな呼び込みの声
ストリートミュージシャンの歌
どこから鳴り響いているのかわからない、
とびはねるようなゲームの音楽
外国語のアナウンス
海外からの観光客が
会話するのを聞いていると
異国にいる気分だ。
互いに主張しあって、一歩も引かない音であふれている。
そのとき、懐かしい声が聞こえた。
私はこの声を絶対知ってるはず。
あわてて振り返ると一人の女の子が立っていた。
「クラス一緒だったれあだけど、覚えてる?」
「覚えてるよ」
忘れるはずない。
友達が多くていつも目立ってたれあちゃん。
れあちゃんが私のことを覚えていたことが不思議なくらいだ。
これだけたくさんの人がいる渋谷で、
知り合いに会うなんて思っても見なかった
ひさしぶりに会ったけど、やっぱりスタイルがよくてかわいい。
「この辺よく来るの?」
れあちゃんが通りを指さした。
「あんまり。今日は買い物に来たんだけど」
「そうなんだ。もう買い物終わり?」
「うん」
わたしは肩から下げた大きな紙袋を見せた。
「じゃあ、ちょっとだけお茶しない? 久しぶりにあやちゃんと話したいし」
夢のような提案だった。
「なんか不思議だよね」
そう言ってれあちゃんは笑った。
すれ違う人を上手によける。
制服姿しか知らなかったから、
私服で渋谷を歩いている今の状況がくすぐったい感じだ。
「ほんとひさしぶりだもんね」
いつも何人かで会ってたから、二人だけで話すこの状況は新鮮だ。
手に持った紙袋が人とぶつからないように気をつけながら、
近くのカフェを目指した。
中学のときよりもずっと大人っぽくなってる。
よく手入れされたつやつやの髪。
流行のスカートがよく似合ってる。
中学のときの自分に教えてあげたい。
高校生になったら渋谷でれあちゃんとお茶してるよって。
向かい側の席に座ると、きれいな顔立ちがよく見える。
私は、誰にも会わないと思って適当な格好で来たことを後悔した。
急いでメイクしてこようかな。
今から席を立つのも変だし。
憧れの女の子との再会に浮かれて、どうしていいかわからない。
「今あの子たちと一緒なんだよ。クラスは離れたけど、うちの中学から結構受験したから」
地元の高校の話を次から次へと聞かせてくれるれあちゃん。
話に出てくる同級生の名前にあまりぴんと来ない。
相槌をうつのが精一杯だった。
楽しそうなれあちゃんの表情を見ていると、さみしくなった。
「そっちの学校はどんな感じ?」
れあちゃんがストローでドリンクをかき混ぜる。
「宿題とか多くて、勉強めんどくさいかも。」
私が進学したのはかなり離れた高校。
うちの中学から進学した子がほとんどいなくて、心細い気持ちだ。
カフェでしばらく話したあと
また街を歩いた。
高校生になったりすると、小中学の友人と同じような話をする時がありましたよね。
そんな時良いイメージに残るかどうかって、その場の空気や音楽、五感で感じる全てで決まると私も思います。
色んなものを取り込んでいく年代の彼女にとっては、雑音でさえもBGMになってるんですね。
読んでると私の耳にも雑踏の音が聞こえてくるようでした。
主人公は聴覚をはじめ五感が敏感なのでしょうね。繊細な感覚の大人しい女の子の印象です。
渋谷の様々な音を表したところ、とても納得です。