宙飛ぶクジラ

鴨せいろ

読切(脚本)

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〇男の子の一人部屋
主人公「渋谷で友達と遊ぶことになった」
主人公「テレビで何度も目にも耳にもしたことがある街だけど、実際に行くのは初めて」

〇渋谷駅前
  上京したてのぼくは、渋谷を散策してみようと少し浮き足立った気持ちで待ち合わせより3時間早く駅に降り立った
  出発だ、と歩き出そうとすると、突然何かあたたかいものが足にまとわりついた。
  下を見ると、そこには小さな黒猫がいて、ぼくの方を真っ直ぐ見上げていた。
黒猫「今から散歩するんだったうちを連れてけにゃ。うちは渋谷に詳しいにゃ。渋谷初心者のお前をうちが案内してやるにゃ」
主人公「猫さんが・・・・・・案内してくれるの・・・・・・?」
八重「特別ににゃ。それと、うちは八重という名前があるにゃ。そう呼んでくれて構わないにゃ」
  驚いていると、八重さんはすたすたと歩き出してしまった。
  時々立ち止まってこちらを振り返る。ついてこいと言っているみたいだった。
八重「どこか行きたいところはあるのかにゃ」
主人公「そうだなあ。テレビで見たことがあるだけなんだけど、ヒカリエ見てみたいかも」
八重「聞いたことないにゃ。どのあたりにあるにゃ」
  ぼくはスマホの地図を確認して、方向を指さす。
八重「ふーん。文化会館のことを言ってるのかにゃ。ついてくるにゃ」

〇渋谷ヒカリエ
  八重さんが立ち止まった。
  でかい。ここから見上げてもてっぺんが見えないくらいヒカリエは大きい。
八重「うちが知ってる建物と違うにゃ」
八重「前にここにあった建物の屋上にはおっきな鯨が泳いでる水槽があったんだにゃ。 うちはそれを見るのが好きだったにゃ」
主人公「嘘だあ。こんな渋谷のど真ん中にそんなものあるわけないよ」
八重「嘘じゃないにゃ。宇宙みたいな真っ暗な水槽の中をキラキラした星とクジラがゆーっくり泳いでいくんだにゃ」
八重「それを見るために、たくさん人間が並んでいたにゃ」
主人公「ほんとに? それだったら見てみたいかも・・・・・・」
  ヒカリエにはいろんなお店や映画館があるみたいだけど、八重さんを連れていけないから、また来た時に行ってみようと思った。
八重「満足したかにゃ。次はどこに行くにゃ」
主人公「じゃあ次はミヤシタパークに行ってみたい。最近新しくオープンしたんだって」
八重「パ・・・・・・? 宮下公園かにゃ。うちの好きなところにゃ。任せるにゃ」

〇見晴らしのいい公園
  八重さんと公園をひきしきりぐるぐると回ってみる。
  ハイブランドなお店があったかと思ったら、懐かしいような飲み屋さんもあって、ちぐはぐで面白い。
  屋上に芝生もあったので、八重さんと寝転がった。
八重「ここもうちが知ってる宮下公園とは全然別物にゃ」
主人公「そうなの? ここはどんなところだったの」
八重「昔はもっとふつーの公園だったにゃ。いろんな種類の人間がいるところは今と変わらんけどにゃ」
主人公「八重さんは今と昔だと、どっちが好きだった?」
八重「さあにゃ。どっちがいいとかないにゃ」
八重「単に新しく見えるものの裏にも歴史があるってだけにゃ。うちは久しぶりに見た今の渋谷も好きにゃ」
八重「お前そういえば、誰かと待ち合わせがあるんじゃなかったかにゃ」
主人公「あ! そうだった。いけない、そろそろ駅に戻らないと」

〇渋谷駅前
主人公「八重さん、ハチ公の場所わかる?」
八重「ハチィ? お前もあいつのところで待ち合わせするのかにゃ」
主人公「そうだけど、なんでそんな嫌そうな顔してるの」
八重「うちはあいつとは仲が悪かったにゃ。自分が酷い目に遭っても、会えるはずのない飼い主をずっと待っていたにゃ」
八重「あいつはあほにゃ。うちについてくれば、野犬に襲われたりもしなかったはずにゃ」
八重「でもそうしたおかげで、ハチは今も 人間たちに覚えられてるにゃ。それはそれでよかったのかもにゃ」
  八重さんはひとつ大きなあくびをした。
八重「最初は気まぐれだったけど。久しぶりに歩き回って楽しかったにゃ」
主人公「うん。ぼくも楽しかった」
八重「そうかにゃ。そいつはよかったにゃ。お前も渋谷のことを好きになって、この街を見届けてくれたら嬉しいにゃ」
主人公「うん。その時はぼくがこの街を案内する番だね。今日はありがとう。それじゃあまた」
  ぼくはハチ公に向かって歩き出した。途中振り返ったけど、八重さんはもうそこにはいなかった。

〇ハチ公前
  ハチ公の横には綺麗な八重桜が咲いていて、桜をみながらみんな楽しそうに待ち合わせをしている。
  約束の時間にすっかり遅れてしまったぼくは、友達に謝りながら話すんだ。
主人公「ヒカリエがあった場所には昔ね・・・」

コメント

  • 不思議なほど長生きの先輩だけれど、猫の姿だから納得してしまうところがあって、八重さんは魅力的な語り手さんですね。もしかしたら花びらが舞う季節だけ自由に動けるのでしょうか?昔を知る方とのんびりお散歩して、教えてもらったことをまたお友達と分かち合うって、素敵な過ごし方ですね。八重さんの時の流れを肯定する言葉がじんわりと心に沁みました。

  • ずっと移り変わりを見てきた八重さんにとってやっぱり昔のほうがいいのかなと思いましたがどっちが好きとかないというところに渋谷への愛が汲み取れました。

  • タイトルに惹かれました、センスが好きです。ストーリーの発想も楽しくて最後まで楽しく読ませて頂きました。続きがあれば読んでみたいです。

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