私は渋谷

美野哲郎

エピソード1(脚本)

私は渋谷

美野哲郎

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〇電車の中
  僕はもうすぐ渋谷に到着する

〇空
  ミサキ「早く会いたいな。トオルくん」

〇電車の中
  待ち合わせたのは、SNSで知り合ったミサキちゃん

〇空
  ミサキ「ドキドキするね。毎日やりとりしてるのに、初めて会うなんて嘘みたい」

〇電車の中
  僕は、ちゃんと伝えられるだろうか。
  僕が本当は──

〇電車の中
  ───「私」で、ある事を。
  僕のことを、男性だと思っている彼女に

〇駅のホーム
  アナウンス「──間もなく渋谷。渋谷」

〇SNSの画面
  女の体で生まれたことを隠して、僕はSNSで身も心も男性として振る舞っていた。

〇SNSの画面
  ミサキ「トオルくんといると楽しい。
  私、こんなに話が合う人、今までいなかったな」

〇SNSの画面
  僕も。本当の自分のまま打ち解けられたのは、ミサキちゃんが初めてだったよ。

〇渋谷駅前

〇ハチ公前
  今、ハチ公前に着いたよ。

〇渋谷駅前
  ミサキ「私も。ハチ公前に着いたわ。
   いつ来ても、凄い人の数だね。
   私のこと、見つけられるかな」

〇ハチ公前
  え。ミサキちゃん、もうここにいるの?
  どこだろう。目印とかあるかな。

〇渋谷駅前
  ミサキ「私、手を振るからね。
   見てて。おーい。おーい・・・」

〇ハチ公前
  ぼ、僕も手を振ってみるよ。
  おーい。おーい・・・

〇ハチ公前
  手を振っているその人物が、
  女性だってわかったら。
  ミサキちゃんは、どう思うんだろう。

〇ハチ公前
  怖かったけど、
  僕は手を振り続けた。

〇空
  本当の僕を、見つけて欲しかったから。

〇ハチ公前
  おーい。おーい・・・

〇渋谷駅前
  ミサキ「ごめん。トオルくん。
   私からは、見えないや・・・」

〇ハチ公前
  ごめん、ミサキちゃん。
  僕はまだ君に伝えてない事がある。

〇渋谷駅前
  ミサキ「え? どういうこと?」

〇ハチ公前
  男性じゃなくて。
  今、ハチ公前で手を振っている、女性がいるでしょう・・・?

〇ハチ公前
  それが、僕なんだ・・・

〇渋谷駅前
  ミサキ「トオルくんは、女性・・・?」

〇ハチ公前
  ごめんね。嘘をついていて。
  ショックだったかい?

〇渋谷駅前
  ミサキ「いいえ。驚きはしたけれど、
   ショックだなんて全然」

〇ハチ公前
  本当、に?

〇渋谷駅前
  ミサキ「ええ。だって会ったことないんですもの。勝手な期待を寄せるほど、私、自分勝手ではないわ」

〇ハチ公前
  ありがとう。
  今日は帰ってくれてもいいよ。
  ただ──

〇ハチ公前
  今日は、僕のことを知って欲しかったんだ。
  一目、見るだけでも。

〇渋谷駅前
  ミサキ「ああ。見えたわ。
   格好良い女の人が手を振ってる」

〇ハチ公前
  ふふ。褒め言葉と受け取っておくよ。

〇渋谷駅前
  ミサキ「じゃあ、トオルくん。
   私の姿は?」

〇ハチ公前
  え?

〇渋谷駅前
  ミサキ「さっきからずっと手を振っている、私の姿は見つけられるかしら」

〇ハチ公前
  さっきから、ずっと・・・?

〇渋谷駅前
  どんなに見回しても、僕以外に手を振っている人の姿は見当たらなかった。

〇ハチ公前
  ごめん、ミサキちゃん。
  本当に、君を見つけられないんだ。

〇ハチ公前
  本当に今、君は──

〇渋谷の雑踏
  渋谷に、いるの──?

〇ハチ公前
  ミサキ「やっぱり」

〇ハチ公前
  え?

〇ハチ公前
  ミサキ「トオルくんにも、見つけられないんだね。私は──」

〇SHIBUYA109
  ミサキ「私は、渋谷になってしまったから」

〇ハチ公前
  は? 一体──
  何を言っているんだ、ミサキちゃん

〇渋谷の雑踏
  ミサキ「渋谷の雑踏の中にいるとね、
   みんなバラバラで、
   誰も私を気に留めない」

〇渋谷駅前
  ミサキ「私は渋谷という
   大きな街の一部なんだ。
   そう思えて、居心地が良かったの」

〇大きな木のある校舎
  「学校では、みんな同じ制服、厳しい校則」

〇大教室
  ミサキ「合わせなきゃいけない空気。
   それを無視すれば、
   鋭いみんなの視線が飛んでくる」

〇女子トイレ
  ミサキ「何もかも、
   息苦しかったから──」

〇渋谷の雑踏
  ミサキ「だからね、私は放課後。
   ひとりぼっちで、渋谷の雑踏に
   紛れ込むのが好きだったの」

〇渋谷駅前
  ミサキ「誰も私を見ないで。
   私に気づかないで。
   ただ、この街の空気でいさせて」

〇空
  ミサキ「気がついたら私は、
   透明な存在になっていた」

〇SHIBUYA109
  ミサキ「渋谷のどこにでもいて、
   どこにもいない。
   SNSだけが、世界との繋がり」

〇ハチ公前
  ミサキ「なーんて。どう? トオルくん。
   ミサキの正体は、ただの大嘘つき」

〇白
  ミサキ「ガッカリ、させちゃったよね・・・?」

〇ハチ公前
  ううん

〇白
  ミサキ「え?」

〇ハチ公前
  ミサキちゃんは、本当の僕を受け入れてくれた。そんな君の本当を、僕は信じたい。

〇渋谷駅前

〇ハチ公前
  それにね、不思議なことに気づいたんだけど。

〇渋谷駅前
  ミサキ「なぁに?」

〇ハチ公前
  僕には、SNSでやりとりしている時からずっと、ミサキちゃんの姿が見えているんだよ

〇ハチ公前
  君がどんな女の子なのか。
  最初に知り合った時から、ずっと知っていたような気さえする。

〇ハチ公前
  その・・・・・・正直言うと、タイプだ。

〇渋谷駅前
  ミサキ「・・・わあ」

〇ハチ公前
  思えば、僕も現実の自分を消そうとしていたのかも知れない。だから──

〇白
  ミサキ「だから私たち、透明な世界で繋がれたのかも知れないね」

〇ハチ公前
  待ってて、ミサキちゃん、君はこの渋谷のどこかにいる。今、探してみせるよ。

〇ハチ公前
  そして本当の僕と出会って欲しいんだ。
  君に!

〇渋谷駅前
  ミサキ「私も、トオルくんに私と出会って欲しい。私を見つけて欲しい」

〇ハチ公前
  そうだ! ミサキちゃん。
  SNSだけが世界との繋がり。だよね?
  ってことは

〇ハチ公前
  君のスマホを鳴らせば、君を見つけられるかも知れない

〇渋谷駅前

〇ハチ公前
  今、鳴らすよ──?

〇渋谷駅前
  ミサキ「ええ」

〇渋谷の雑踏
  ミサキ「渋谷のどこかで、着信音が聞こえたら」

〇SHIBUYA109
  どうか。私を見つけてください。

コメント

  • いつの間にかSNSの世界が浸透してしまって、こういう出会いも増えていると思います。
    彼女たちは形にとらわれず、お互いに好意を抱いていて、それも愛の形なのかもしれないと。
    見つかるといいですね。

  • 女として生まれたけど男の心を持ってしまった人の葛藤や苦悩が現実社会にもありますね。人は見かけで判断されやすい生き物ですが頑張ってさください。

  • 直接は言えない話でも、SMSを使えば本音トークができ自分をしってもらえる今の時代を反映していて、共感できるストーリーでした。いい結果でよかったです。

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