第佰話 赤黒決闘(脚本)
〇教室
姫野晃大「ちょ、おま、本気か!?」
幼馴染の発言に、晃大は我が耳を疑った。
穂村瑠美「本気だよ、コウ」
少女は真剣な眼差しで頷く。
姫野晃大「瑠美、お前、自分が何言ってるのか本当に分かってるか?」
念を押すように晃大は瑠美に問う。
晃大からすれば、瑠美の言った内容はとても正気とは思えない。
姫野晃大(昨日といい、今日といい、)
厄日の連続だ。
眉根を寄せて晃大は大きくため息をついた。
〇荒野
穂村瑠美「さあ、始めましょうか」
結界の中、瑠美は手にした得物を構える。
橘一哉「おうさ」
応じる一哉の手足から黒い霧が噴き出し、前腕と脛を覆って籠手と脛当てになった。
姫野晃大(・・・?)
少しずつ戦意を高めつつある二人の傍らで、晃大はとある違和感を抱いた。
姫野晃大(龍気が左腕以外からも出た・・・?)
一哉の龍の痣は左の前腕にある。
晃大を含めた他の龍使い達とは反対の腕だ。
それだけでもちょっとした疑問だったのだが、
姫野晃大(痣以外からも龍気って出せるのか・・・)
龍の力は、龍の宿った箇所か得物からというのがセオリーだったはず。
それ以外からも龍気を出せるとは、晃大は光龍から聞いたことが無い。
そもそも質問したことが無かった。
姫野晃大(まあ、カズだしな)
一哉は龍使いの中で最も歴が長い。
そういった技術を身に着けているのだろうと晃大は己を納得させた。
姫野晃大「おっ、と」
そんな事を考えている内に、二人の決闘は少しずつ進行していた。
互いに構えたまま睨み合いを続けていた二人だったが、
穂村瑠美「いくわよ」
瑠美はハルバードを構え直し、
神 気 発 勝
瑠美が先手を打った。
〇道場
草薙由希「はあ?決闘?」
辰宮玲奈「そう、決闘」
素っ頓狂な声を上げる由希に、玲奈は頷いた。
草薙由希「何でまた、」
あの瑠美が、よりにもよって一哉と。
辰宮玲奈「なんか、頼み事があるらしいよ」
草薙由希「頼み事?」
辰宮玲奈「うん」
辰宮玲奈「それでね、」
〇教室
穂村瑠美「橘くん、私と勝負して」
橘一哉「はい?」
瑠美の口から出た言葉に、一哉の返事する声は思わず裏返った。
穂村瑠美「で、私が勝ったらわたしの願いを聞いてほしいの」
橘一哉「それは、別に、構わんけども・・・」
困惑しつつも一哉が言葉を返すと、
穂村瑠美「じゃあ、やりましょうか」
〇荒野
橘一哉「え、今から?」
穂村瑠美「そうよ」
いきなりの結界。
未だ困惑の続く一哉に瑠美は頷く。
穂村瑠美「善は急げ、思い立ったが吉日、って言うでしょ」
橘一哉「強引だなぁ・・・」
従姉や幼馴染とはまた違った形で、この少女も中々押しが強かった。
〇荒野
橘一哉(随分と殺風景だなぁ・・・)
心の中で一哉は呟いた。
放課後、部活に行こうとしたら瑠美に声をかけられた。
何事かと思えば、決闘の申し込み。
稽古ではない。
『決闘』である。
何を賭けるのかと思ったら、勝ったら願い事を聞けと言う。
稽古よりも物騒な内容の申し出に困惑はした。
だが、お互いに一線を越えなければ良かろうと思い承諾した。
それが甘かった、と後に一哉は悔やむ事になるのだが、
橘一哉(それにしても、)
穂村さんらしいな、と一哉は思った。
結界の中の環境というのは、ある程度は術者の任意にできる。
とはいえ、あまりこだわりすぎるとそちらに力を割くことになる。
なので、大抵の場合は結界を張る直前の環境をそのまま再現することが多い。
だが、今回は違っていた。
見渡す限りの荒野。
土や岩が剥き出しで植物はまばら。
橘一哉(延焼対策か)
瑠美の赤龍は炎を操る。
燃えるものが周囲にあれば、自分に危害が及ぶかもしれない。
そう考えて、このような環境を再現したのだろう。
橘一哉(下手に倒れたりできないな)
草地なら植物がクッション代わりになって衝撃を和らげてくれる。
が、剥き出しの大地ではそれもかなわない。
橘一哉(転倒注意、よし)
瑠美の動向に気を付けつつ、周囲や足元の地形を確認する。
岩石の類いが転がっている位置や地形の凹凸を把握。
橘一哉(さあ、どういきますかね)
こちらは素手、向こうは長柄。
どう崩すかの方針を練り始める一哉だった。
〇荒野
穂村瑠美(さあ、橘くんはどう出る?)
神気発勝による身体能力の一次的な底上げ。
得物の斧槍にも赤龍の炎の龍気を纏わせ、態勢は整った。
問題は一哉の出方だけ。
穂村瑠美(素手の橘くん、か)
瑠美の知る一哉の戦い方は、刀身三尺の日本刀を用いたスタイル。
瑠美の中の一哉のイメージは、『剣術の獣』だ。
無我夢中で得物を振り回しているように見えて、実は違う。
刀を用いた攻防が本能レベルまで浸透して身に付いている。
武道を嗜む者にとっての理想の極致の一端に達している。
それを崩すのは容易ではない。
穂村瑠美(でも、)
今の一哉は違う。
彼の得物は刀ではない。
素手だ。
籠手にも足甲にも鋭い爪がついており、
穂村瑠美「うわ、キモ」
橘一哉「穂村さんもそれ言う!?」
穂村瑠美「あ、ゴメン」
つい口に出してしまったようだ。
穂村瑠美(ホント、何ソレ・・・)
恐らく一哉の足の指に連動してであろう。
爪先の爪が妙に滑らかに動くのが目に入ってしまった。
穂村瑠美(とにかく、あの爪は要注意ね)
何と言っても黒竜の龍気で形成された籠手と足甲である。
不用意に接触すれば、黒龍の属性の特性が発動するだろう。
鋭利な爪は単に鋭利に切り裂くだけではない。
籠手も足甲も単なる防具ではない。
黒龍の属性である『闇』の特性。
あらゆるものを停止させるという効果が付加されていると見て間違いないだろう。
分子や原子の動きを止めるだけではない。
それを構成するエネルギーすらも、停止させられるかも知れない。
そうでなければ、一哉が一撃を叩き込んだ相手に起きる変化が説明できない。
黒龍の闇の力は、結合エネルギーすらも、停止させる。
穂村瑠美(でも、)
瑠美と赤龍にも勝ち目はある。
赤龍の属性は『炎』。
その本質は燃焼であり、エネルギーの発生。
つまり、黒龍の属性である『闇』が持つ『停止』の逆。
龍気を最大限燃焼させ、黒龍の力を上回れば停止を回避できる。
そこに、瑠美の勝算があった。
穂村瑠美(全霊全力で当たれば、橘くんに勝てる可能性は、ある)


