読切(脚本)
〇住宅街の道
月明かりが、私の羽を銀色に染める。
「やっと・・・見つけたわ」
私は今、蚊である。
吸血衝動?
いいえ、そんな低俗なものじゃない。
これは愛の──いえ、制裁の結晶よ。
私が蚊になった理由?
そんなの、「愛が重すぎて、
形を変えざるを得なかっただけ」よ。
愛する健斗の温もりを奪った雌への、
情熱的な裁判執行人。
〇川沿いの原っぱ
ある満月の夜、健斗へのあまりの執着心と、
彼が女に心変わりしつつあるという
絶望感に押しつぶされそうになっていたの。
私は深夜の公園で、彼を想いながら
血の気が引くほど泣き叫んだわ。
その時、不思議な老人に声をかけられたの。
「そんなに彼が欲しいのかい?」
「姿型などただの殻。彼に触れられるなら、 人間である必要などないだろう」
老人は、古びた蚊取り線香を私に手渡したわ
「これを体内に取り込み、愛する人の血を 吸いたいと強く願え」
「お前はどこへでも行ける」
「彼が誰といようと、 その『喉元』まで近づけるようになるぞ」
私は迷わず、その灰を飲み込んだ。
すると、視界が急激に歪んだの。
地面がどんどん遠ざかり、世界が
巨大なジャングルみたいに広がっていく。
気がついた時には、私は鏡に映る
小さな小さな「黒い影」になっていたわ。
「あぁ、これで完璧。彼が服を脱いだら、 私はいつでもその肌に降り立てる・・・」
鏡の中の私は、小さな羽を
震わせて笑っていた。
人間という枠組みを超えて、彼に
「一生消えない痕」を刻み込める存在に
進化できたなんて、これほど幸せなことが
他にあるかしら?
蚊になってからというもの、
人間特有の「理性」や「羞恥心」なんて、
全部どこかへ飛んでいってしまったわ。
ただ彼を追い詰め、支配し、
痛痒さの中に私の名前を刻み込む。
それこそが、私の愛の形なのよ。
〇女の子の部屋(グッズ無し)
ターゲット:浮気女・美咲の部屋
美咲は、私の愛する健斗を寝取った、
あの小生意気な女。
夜な夜な彼女の部屋に侵入し、
私は顔面を狙い撃つ。
「・・・あー!んもうっ鬱陶しいわね」
美咲が殺虫剤を手に取る。
シュッ、シュッ。
私は優雅に空中で舞い、殺虫剤の霧を避ける
「鬱陶しいのは、アナタよ」
言葉は、羽音に混ざる。聞こえるはずもないけれど、私の悪意は確実に届いているはず。
〇女の子の部屋(グッズ無し)
一日目:頬。ぷっくりと腫れた赤い痕。
〇女の子の部屋(グッズ無し)
二日目:瞼。目が開かないほどの、
お岩さん状態。
三日目:唇。たらこ唇どころの騒ぎ
じゃない、タコのような腫れ。
美咲は泣き叫びながら、
高価な塗り薬を塗っている。
「な、何なのこれ・・・!」
「痒い、痒すぎて死にそう・・・! 誰か、助けてッ!」
「痒いでしょう?掻けば掻くほど、 私の愛が深く染み込んでいくのよ」
「私の『愛の痕』はね、一生消えないのよ」
〇女の子の部屋(グッズ無し)
「いやあああッ!」
翌朝。鏡を見た美咲の断末魔が響く。
美咲の顔は
鏡を見るのも恐ろしいほどの惨状だった。
「あ、あぁ・・・私の顔が・・・ッ!」
鏡を割った瞬間、彼女は
過呼吸を起こして床に崩れ落ちた。
あぁ、なんて滑稽で美しい姿なのかしら。
〇一戸建ての庭先
そして、彼氏・健斗の元へ
美咲を再起不能にした私は、
愛しの健斗のもとへ向かった。
〇一人部屋
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