ただいま、トン(脚本)
〇黒
どう生きたいか?
〇勉強机のある部屋
授業で出た宿題の作文──そのテーマ
私は”普通の人間”として生きたい
〇一戸建て
家に帰ると、いつもと違う”におい”がした
コウ「あれ」
コウ「何? このにおい──」
〇シックな玄関
コウ「ただいま〜」
トン「コウ姉ちゃん、おかえり」
コウ「なんか臭くない?」
トン「そうかな?」
トン「あ、太郎かも!」
コウ「太郎?」
トン「うん、飼うことにしたんだ〜」
妹のトンとはふたり暮らしをしている
コウ(ペットを飼って、トンが喜ぶならいいか)
コウ(でもペットっていくらかかるんだろ)
トン「こっちこっち!」
〇空っぽの部屋
トンに案内された部屋にいたのは
トン「じゃーん」
トン「人間!」
両手両足を縛られた、怯えている人間だった
コウ「こっ、れは・・・?」
トン「”人間”飼うことにしたの!」
トン「なんか声かけてきて、甘えられたからさ」
太郎「ひいいい」
トン「あ、おしっこしたの?」
トン「ダメって教えたじゃん」
太郎「やめてください、ひいっ!」
トンに何度も身体を叩かれ、男はうずくまって悲鳴もあげずに震え続けていた
コウ「トン、ダメだよ」
コウ「叩いたらかわいそうだよ」
コウ「ペットなんでしょう?」
トン「わかった。優しくするね」
トン「ごめんね、太郎」
太郎「ひいい、助けて」
コウ「じゃ、お姉ちゃん宿題してくる」
コウ「ちゃんと世話するんだよ」
トン「はーい」
〇勉強机のある部屋
コウ(なんだ、いつもと違うにおいは太郎かぁ)
部屋に戻り着替えると、さっそく作文用紙を広げた
コウ(”普通の人間”って何をすればいいんだろう)
妹のトンは豚の生まれ変わりだ
人間に食べられるための食料として生きて、その中でさらに虐待にあっていた
コウ(死んだら人間になってたって話だったな)
コウ「でも、人間になるってことは・・・」
コウ「皮肉だけど、人間の方が上って証明なのかな」
コウ(なら、やっぱり”普通の人間”として生きたい)
──でも”普通の人間”がわからなかった
コウ「あれ? 人間をペットにしたらダメっぽい?」
よくわからなかった
だって、人間は犬や猫を飼う
豚や牛を育て、殺し、食べる
コウ「私は”施設”にいて、ちゃんとパパにも会えたのにな」
〇施設の入口
施設の先生「コウちゃん、今日からこの人が家族だよ」
???「これからよろしくね」
パパ──
〇勉強机のある部屋
コウ「思い浮かばないから、休憩!」
コウ(コンビニでも行くか)
〇シックな玄関
コウ「トン、牛乳買ってくるけど何かいる?」
トン「お姉ちゃんまた牛乳? いつも下痢になるのに」
コウ「余計なお世話、メス豚」
トン「うるさいな、メス犬!」
コウ「に・ん・げ・んです!」
トン「だって鼻いいじゃん 犬歯もでかいし」
コウ「えー 犬っぽい?」
コウ(人間以外の動物なんて、人間に勝てないんだから)
”普通の人間”らしくしないと
〇コンビニのレジ
コウ「さて、牛乳以外に・・・トンの好物のトウモロコシでも買ってやるか」
おばさんA「ねえ、聞いた? 近くで”獣人”が見つかったそうよ」
おばさんB「対獣人警察もよく見るもんね」
コウ「・・・」
ちらりと目に入った新聞の見出しには
──獣人、国内発見634体目と書かれていた
おばさんA「獣人に関してわかってることなんて、少ないんでしょ?」
おばさんB「人間に恨みを持った動物の転生らしいね」
コウ(──やっぱり、人間のペットはまずいよね)
コウ(でも逃したらトンのことがバレちゃうし)
かわいそうだけど、太郎は殺そう
私は帰り道、包丁を一本購入した
〇シックな玄関
コウ「ただ・・・いま」
家に帰ると、いつもと違う”におい”がした
──血のにおい
〇女の子の部屋
コウ「あ・・・れ、トン?」
部屋に入った私を迎えたのは、鮮血に濡れた身体で横たわるトンの姿だった
コウ「トン、トンっ! 何があったの!?」
トン「お姉ちゃん・・・ 太郎が連れてかれちゃったよっ!」
コウ「対獣人警察にやられたんだね?」
トン「ぐすっ・・・ うん、痛いよ、お姉ちゃん」
コウ「やっぱり人間を飼っちゃダメだったんだ」
トン「なんで? トンだって、獣人になるまでは飼われてたんだよ?」
コウ「それはっ・・・ 人間が強いから──」
トン「暴力だって振るわれてた! なのに、なんで?」
トン「どうしてトンは人間を飼っちゃダメなの? 散歩してただけなのに──」
コウ「・・・」
コウ(私だって、なんで人間だけ特別扱いなのかはわからないよ)
トン「うう・・・ ごめんね、お姉ちゃん」
トン「対獣人警察がもうすぐ来るかも お姉ちゃんは逃げて」
コウ「ぐっ」
コウ(こんなときに頭痛が──)
〇アパートのダイニング
コウ「パパ、ご飯は?」
???「うん? お腹空いたか?」
コウ「うん!」
〇CDの散乱した部屋
コウ「パパ、疲れてそう 大丈夫?」
???「お、心配してくれるのかい? 大丈夫だよ」
コウ「よかった」
〇白いバスルーム
コウ「パパ、どうして泣いてるの?」
???「くっそ・・・頭から消えない!」
コウ「怖いよ、パパ」
???「罪滅ぼしで保健所に殺されそうだったお前を”飼った”けど」
???「殺した姿が消えないよおおおおおおおお」
コウ「パパ・・・?」
???「動物は、獣人は! 怖いっ怖いいいいい」
コウ「パパ、やめて 苦しいよ」
男の両腕に絡まるように、私の首は押しつぶされていった
???「ワンワンワンワンうるせえよっ!」
対獣人警察の男「ああ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
対獣人警察の男「獣人にはならないでくれよ、メス犬」
どうして私は殺されたんだろう
人間になればわかるのかな
コウ(ああ、全て忘れて)
”普通の人間”になれば──
〇女の子の部屋
コウ(そうだ・・・ 思い出した)
──私は犬だったんだ
コウ「っ!」
コウ「このにおい・・・パパだ」
トン「お姉ちゃん・・・?」
コウ「私は警察が来てない方角がにおいでわかるから、トンは先にコンビニ側へ逃げて」
トン「コウ姉ちゃんはどうするの?」
コウ「私、トンの言う通り犬だったよ」
コウ「だから足の速さには自信があるんだ」
トン(そんなの私を拾ってくれたときから知ってたよ、お姉ちゃん──)
コウ「逃げて」
コウ「必ず会いに行くから」
トン「約束だよ」
〇シックな玄関
トンを逃した後、対獣人警察はすぐに家にやってきた
対獣人警察の男「さっきの奴が逃げたのはここか」
対獣人警察の男「人間をペットにして散歩してやがった 恐ろしい奴らだ」
対獣人警察の男「やはり獣人を殺し続けなくては 自由に生きるのは人間だけでいい」
コウ「ここだよ」
対獣人警察の男「っ!」
コウ「パパ、久しぶり」
対獣人警察の男「・・・パパ、だと?」
対獣人警察の男「お前、まさか──」
コウ「あのときは引き取ってくれてありがとう」
コウ「結局、パパに殺されたけど」
対獣人警察の男「獣人になるなと言っただろうがああああああああああ」
私は包丁を握りしめて、走り出す
コウ「ぐっ!」
屈強な男の人間から放たれる拳は、容易に私の身体を吹き飛ばした
それでも、何度でも立ち向かう
──ああ、私、犬でよかった
後ろ足に力を込めて、目一杯前方に飛びかかる
対獣人警察の男「メス犬がああああああああああああ」
パパの眼球を狙って、犬歯を食い込ませた
そして、最後に包丁で──
〇黒
・・・
どれくらい経っただろうか
トンのところに行かないと
コウ(あれ、身体が動かないや)
コウ(なんか、寒い)
コウ「あれ・・・前にもこんなことあったっけ」
あ、私また死ぬんだ
コウ(でも、もう人間になりたいとは思わない)
”普通の人間”じゃトンは守れなかった
どう生きたいか?
やっと、宿題に書くべきことがわかった
コウ「私は犬として──」
ううん
トンのお姉ちゃんとして生きたい
コウ(叶うことなら、約束だけ──)
トンに会いたいなぁ
・・・・・・
・・・
〇安アパートの台所
一年後
トン「おかえり、スズメ」
スズメ「ただいま、トン姉ちゃん」
トンは獣人の弟とふたりで、細々と暮らす日々を送っていた
コウ姉ちゃんは、まだ帰らない
トン(ほんと遅いんだから)
スズメ「あのね、今日は新しい家族を連れてきたの」
トン「家族?」
スズメ「じゃーん」
???「ハッハッ」
???「ワン!」
トン「・・・」
トン「おかえり、コウ姉ちゃん」
──ただいま、トン
私たち人間は犬を飼ったり猫を飼ったりするけれどそれがペットたちにとって本当に最善の幸せなのかはわからない。うまれかわりがあるのならお互いの意識を学んで、お互いが共存するベストな方法を考えて生きられればいいな。とはいいつつ私たちは動物を食べて生きているので、難しそうだな、など深く考えさせられました。
色々と考えさせられました。
人間が動物にやっていることは許されるのに、逆は許されないんですよね。
動物虐待も絶対にやってはいけないことだと思います。
最後はお姉ちゃんが帰ってきて…あぁよかったなぁって思いました。
発想が斬新でとても楽しく読ませて頂きました。人間をペットとして、、、人間が一番強い、、、動物をペットにって発想も、人間が一番強いってのも人間から発言なんですよね。考えさせられるお話しでした。