龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第玖拾弐話 戦い終わって(脚本)

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〇教室
  いいか、カズ
  武具を手にしたその時から、戦いは始まっている
  鞘から抜かずとも、手にしたその時点で、お前は戦場にいるのだ
  即ち、素手の闘技を修めたなら常在戦場
  常に戦いに身を置いている事を忘れるな
橘一哉(とは、言ってもなあ・・・)
  授業中。
  砕けた刀に代わって素手の闘技を習うにあたり、黒龍から言われた言葉。
  常在戦場の心構えを、一哉は思い出していた。
  魔族からその存在を狙われている龍。
  強い力を持ちながらも、それを恐れる事無く魔族達は散発的に龍使い達を襲っている。
  龍が真の力を発揮すれば宿主も只では済まないと、彼らも知っているからだろう。
  しかし、だからといって魔族に負ける気はしなかった。
  人ならざる力を行使するという優越感、万能感。
  人外の力を持つ存在が味方しているという信頼感。
  それらが、命を賭けた戦いに対する恐れを上回っているからだ。
  だが、
橘一哉(強かったなぁ、サブちゃん)
  全てを貪り喰らい尽くす貪の化身、饕餮。
  なぜ三郎と呼ばれていたのかは分からない。
  しかし、その力は一哉に初めて命の危機を感じさせた。
  力比べで敵わなかったのも初めてだった。
橘一哉(どうなったんだろう、アレ)
  四神と哲也の方陣技を受け、文字通り『吹き飛ばされた』三郎。
  残ったのは、彼の全身を覆っていた紋様のみ。
  しかも。
橘一哉(紋様だけが喋って動くとか、どういう仕掛けなんだ・・・?)
  様々な面で彼は常軌を逸していた。
  それが、四凶という存在なのだろうか。
橘一哉(・・・ん?)
  そこまで考えた時、ハタと気付いた。

〇高い屋上
飯尾佳明「そうだな、『四』凶だから、あと三人はいることになるな」
古橋哲也「あと三人も・・・」
  さも当然だといった様子で口にした佳明の言葉に、うんざりした顔をする哲也。
橘一哉「まあ、そうなるよなぁ」
  一哉の口からもため息が漏れる。
飯尾佳明「テツが四神と一緒に吹き飛ばしたのが饕餮だろ?」
飯尾佳明「残りの三匹は、」
  窮 奇
  渾 沌
  檮 杌
飯尾佳明「俺が知ってる話では、古代中国の神話に出てくる化け物だ」
飯尾佳明「そのどうしようもない性質から、辺境に追放されたって話だぜ」
  何れも伝説においては怪物として伝えられている。
古橋哲也「でも、彼は、饕餮は人間だったよね?」
飯尾佳明「人間かどうかはアヤシイぜ」
橘一哉「本物なら、何千年と生きてる事になるもんな」
古橋哲也「そうだね・・・」
  人の寿命は百数十年が最高記録である。
  千年もありはしない。
飯尾佳明「俺は、あの紋様が怪しいと思ってる」
古橋哲也「あの紋様が?」
飯尾佳明「ああ」
  佳明は頷き、言葉を続けた。
飯尾佳明「テツが四神と一緒になって奴を吹っ飛ばした後、紋様だけが残ってた」
  しかも、
古橋哲也「あの紋様、動いたし喋ってたね」
緑龍「良い目の付け所だ、佳明」
  緑龍が顔を出した。
飯尾佳明「だろ?」
  佳明も会心の笑みを浮かべる。
緑龍「佳明の読み通り、奴の本体はあの紋様だ」
飯尾佳明「なら、あの三郎ってのは、何なんだ?」
緑龍「奴の肉体であるのは間違い無い」
緑龍「だが生物としての寿命はとうに尽きていただろうな」
飯尾佳明「おいおい」
  緑龍から出てきた言葉に佳明は、嫌な予測を立ててしまった。
飯尾佳明「まさか、自分の死体に乗り移って動かしていた、なんて言うなよ?」
緑龍「そのまさか、だよ」
  三人の顔が同時に引き攣る。
  更に緑龍は続けた。
緑龍「その生死に関わらず、肉体に乗り移り操るのは困難を要する」
緑龍「一つの肉体には一つの魂、それが基本原則だからな」
緑龍「そして、肉体と魂の相性というものもある」
緑龍「我ら龍を含めた神獣と、その宿主や使い手となる人間のようにな」
緑龍「だが、自分自身の肉体ならば、器としては申し分ない」
緑龍「その魂にとって、最も相性の良いのが自分の肉体だからな」
  だが、問題が一つ。
緑龍「本来であれば、肉体の寿命が尽きた時に魂との結び付きは失われる」
  肉体の有する『生命』こそが、魂を繋ぎ止める役割を果たしている。
緑龍「肉体の『生命』が尽きた時、魂も自動的に肉体から離れる」
  そういう仕組になっている。
  だが、
緑龍「奴は、饕餮は、外法を用いて理を超えた」
  それが、
緑龍「あの紋様」
緑龍「あの紋様こそ、魂を肉体に繋ぎ止めて現世に留まり続ける外法」
緑龍「いわば、『魂の肉体化』とでも呼ぶべきものだ」
「!!」

〇実家の居間
雀松司「・・・」
  庭に面した如月家の奥座敷で、司は瞑想していた。
  鳥の声。
  そよぐ風。
  草木の匂い。
  自然が心地よく司を包む。
  ゆっくりと、静かに、深く、呼吸をして、自然の気を体内の隅々まで満たしていく。
  心身の緊張が解れ、暖かいものに満たされていく。
如月玄伍「どうかね、司くん」
  襖を開けて、家主が入ってきた。
  目を開き、家主であり同士である翁を顧みる司。
雀松司「ええ、だいぶ落ち着きました」
  眉間の険も取れた穏やかな顔で答える司。
如月玄伍「あの方陣、朱乃ちゃんもいたとはいえ、かなりの負担だったろう」
雀松司「なに、大したことはありません」
  口ではそう言うものの、実際の所は大変どころの話ではなかった。

〇荒廃したショッピングモール
雀松司「ぐ、うっ」
  方陣を放った直後。
  異変が司を襲った。
  目が霞む。
  視界が薄赤くぼやけ、膝の力が抜ける。
雀松朱乃「お兄ちゃん!!!」
草薙由希「司さん!?」
  朱乃と由希が司の名を呼び、咄嗟に抱き止めた。
雀松司「・・・すまない・・・」
古橋哲也「雀松さん、それ・・・!!」
  哲也は驚きのあまり言葉を失った。
雀松司「・・・」
  服の上からも分かるほどの大量の出血。
  その出血は、司の衣服を朱雀の紋様で染め上げていた。
  しかも、紋様の部分が蚯蚓腫れのように盛り上がっているのも分かる。
雀松朱乃「しっかりして、お兄ちゃん!!」
雀松司「大丈夫、俺は大丈夫だよ・・・」
  言いながら、ゆっくりと司はその目を閉じた。

〇実家の居間
如月玄伍「橘くんが奴に追い打ちをかけたのは、良い判断だった」
如月玄伍「あれが決め手となって、奴を退散させられたからな」
雀松司「そうですね、彼の判断力には助けられました」
  事の顛末は、その後目が覚めた時に玄伍から聞かされた。
雀松司「それにしても、」
  倶利伽羅劫炎掌、か
雀松司「彼はすっかり朱雀の闘技を己のものにしたようだ」
如月玄伍「咄嗟の口から出任せだ、と彼は言っていたがね」
雀松司「結構ノリの良いやつですからね」
  その力を体感している二人は笑い合う。
  と、その時。
「ごめんくださーい」
如月玄伍「おや、お迎えが来たようだな」
  玄関の方から可愛らしい声が聞こえてきた。
雀松司「では、私はこれで」
如月玄伍「ああ、道中気を付けてな」
  まだ完全に回復したわけではない。
  小康状態だ。
如月玄伍「くれぐれも、妹さんを泣かせるなよ」
雀松司「分かっています」
  それでは、と一礼すると司は部屋を出て行った。
如月玄伍「四大も五行も共に火の朱雀、その力は一等激しいものだな・・・」
  過日の激戦を思い返し、玄伍は呟いた。

〇道場
竹村茂昭「由希先輩」
草薙由希「何?」
竹村茂昭「先輩、雀松さんの事好きなんですか?」
草薙由希「はあ!?」
  思わず大きな声を出す由希。
竹村茂昭「だって、」
  司が倒れそうになった時、由希は真っ先に駆け寄った。
竹村茂昭「どう見ても、そんな感じでしたよ?」
草薙由希「な、何言ってんのよ、このマセガキは」
竹村茂昭「ガキって、二歳しか違わないっすよ」
草薙由希「とにかく、そういうのは無いから!」
  語気強く否定する由希。
竹村茂昭「・・・へえ・・・」
  その由希が、一瞬チラリと向けた視線の先。
  そこにあったものを、茂昭はしっかりと理解していた。
竹村茂昭(そういう事、か)

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