44 凶刃(脚本)
〇黒背景
降りしきる雨の中、黒髪を垂らして、シャラが微笑んでいた。
シャラ「考えてみろ」
何を──
シャラ「どうして”そう”なった?」
訳のわからないことを
シャラ「答えてみろ」
だからなんだと言うんだ!
シャラ「おまえは」
シャラ「”どう”する?」
どう・・・する?・・・
〇海辺
海は、寄せては満ちていく。
林(リン)「はっ」
林(リン)は波打ち際に転がっていた。
首を巡らせようとするも、体はピクリとも動かない。
林(リン)(何が・・・?)
林(リン)(なぜ・・・こうなった?)
海岸の波に揉まれ、しぶきを被りながら、林(リン)は自問した。
林(リン)(何が・・・起こったのだ)
記憶の糸口を手繰ろうと、林(リン)は目を閉じた。
〇薄暗い谷底
あの時、シャラに印をつけて
林(リン)「おそらく、シャラ様は特攻してくる」
影「こちらの居場所は知れておりませんよ?」
林(リン)「シャラ様は、たいがいのことは出来る」
林(リン)「探査も例外ではない」
影「とは言え、我ら程ではありますまい?」
影「幾重にも罠を敷いておりますし」
影「強いとはいえ、人は人です」
影「いかな公主様とはいえ──」
その時──
突如地鳴りと共に、谷底が揺れた。
シャラが仕掛けてきた。それだけは確かだった。
崩れた岩肌が、次々と谷底に落ちていく。
これ程大規模に、力任せに、術を行使できるのは”撃滅のシャラ”をおいて他に無い。
薄れゆく意識の中で、翻る黒髪を見た気がした。
にっ、と嗤(わら)う口もとと共に。
〇海辺
林(リン)(そうだ、生き埋めになって・・・)
林(リン)(しかし、海に置き去りとは)
林(リン)(私の死を、水難・・・事故で処理しようとしている?)
林(リン)(無い頭を絞りましたね、シャラ様)
〇海辺
波が林(リン)の顔に迫った。
林(リン)(満ち潮か)
林(リン)(くっ、息が)
林(リン)(海を荒野に戻すか?・・・しかしっ)
元々、ここは荒野だった。
それを、林(リン)が術で海に変えたのだ。
侵入者を、阻むために。
林(リン)(海を消すなど・・・それでは何のために──)
ひたひたと押し寄せる波に、林(リン)の髪が濡れていく。
林(リン)「くそっ」
林(リン)は自由にならない体で叫んだ。
林(リン)「私はっ──」
〇薄暗い谷底
谷底の岩に腰かけたシャラ。
シャラは頬に手を当て、岩の上で両足をふらふらと揺らした。
シャラ「忠義にしたがって水に沈むか」
シャラ「防衛のための海を消して、「球」の端をさらすか」
シャラ「あの男は、どっちを選ぶか」
シャラは腰かけていた岩から飛び降りると、大きなあくびをした。
シャラ「どっちでもいいが・・・」
シャラ「さっさと決めてくれないものか」
しばらく、空を蹴るシャラの足だけが谷底で動いていた。
シャラ「ん?」
風の流れに顔を上げたシャラ。
シャラ「ほう」
シャラ「やっと『選んだ』か」
シャラは谷底の切れ目に足を向けた。
〇荒地
海岸は幻のように消えていた。
満ちていた海の代わりに、見渡す限り砂と岩の荒野が広がっていた。
シャラ「くっ、ふふ」
足取りも軽く、シャラは荒野を歩く。
シャラ「なあ!林(リン)」
シャラ「自分の命は惜しかったわけだ」
口角を上げ、目を細めて覗き込むシャラ。
足元に転がる林(リン)は、奥歯を噛み締めた。
林(リン)「私には、守るべき一族がいます」
林(リン)「こんなところで死ぬわけにはいかんのです」
林(リン)「貴女とは違う!」
眉をつり上げ、早口でまくし立てる林(リン)。
林(リン)「公主のお役目をなおざりにする貴女とは違うのです!」
林(リン)「好きに生きれば良いだけの貴女などにっ──」
シャラの足先が地面を蹴り上げ、横たわる顔に砂を降らせた。
シャラ「めでたい奴だ」
シャラ「もう助かった気でいるのか?」
林(リン)「貴女こそ、手を打てまい」
林(リン)「私を刺し殺せばモンスターになる」
林(リン)「海で溺死させようとでもしたのでしょうが、当てが外れて──」
抜き放たれた刃が、月明かりに閃いた。
〇黒背景


