第十三話 「スピードキング」(脚本)
〇荒野
ワカモトが告白をすることになり、サークルメンバーたちが面白がって盛り上がっている。
ワカモトがこれまで、ミサコに何もできずにいたことは、サークルの誰もが知っていることだった。
ワカモト「こらお前ら、盛り上がるな! ミサコさんは、もうどうしたって無理だろ!」
ディーシャ・バジュランギ「なぜ無理なのだ?」
ワカモト「ミサコさんは引っ越してしまった」
ディーシャ・バジュランギ「どこに?」
ワカモト「わからぬ」
ディーシャ・バジュランギ「連絡先は?」
ワカモト「知らぬ」
ディーシャ・バジュランギ「なんで知らないのだ」
ワカモト「聞けぬ」
ディーシャ・バジュランギ「つまらーん!」
すると、サークルメンバーが「こんなこともあろうかと、引っ越す前にメールアドレスを聞いておきました!」という。
ワカモト「なに!!」
ディーシャ・バジュランギ「ナイス!!」
ワカモト「ミ、ミ、ミサコさんに連絡先を聞くとは畏れ多いことを!」
ワカモト「俺たちのような人間が気安く接していい人ではないぞ!」
ディーシャ・バジュランギ「よし、ミサコさんに告白動画を送ろう」
ワカモト「できるか! ミサコさんだぞ!」
ディーシャ・バジュランギ「おや? ビビっているのかね? 狩猟民族の誇りを回復するため、勇気を示したいのだろ?」
ワカモト「ぐ ・・・それはそうなんだが ・・・こればかりはできん、絶対にムリだ」
ディーシャ・バジュランギ「簡単にはできないことをやるから、勇気が必要なんじゃないのかナー?」
ワカモト「ぬぅぅ・・・」
間宮景介(ディーシャさん、鬼だなー・・・)
ディーシャ・バジュランギ「恋愛マスターであるワに、全てお任せあれだよ! 勇気ある一歩を踏み出すのだ!」
ワカモト「これで狩猟民族の誇りが回復できるのならば、仕方あるまいか・・・」
ディーシャ・バジュランギ「よーし、それでは全メンバー、集合写真を撮るみたいにそこへ整列! 背景になってもらう」
ワカモト「ちょっと待て! 皆がいる前で撮影するのか?」
間宮景介(これはかなり恥ずかしい)
ディーシャ・バジュランギ「ワの国の告白動画では、まず画面のインパクトが求められる」
ワカモト「ぬう・・・。何か他のやり方は無いのか?」
ディーシャ・バジュランギ「そうだ、全員半裸にしよう!」
間宮景介(人の話をまったく聞いてない・・・)
ディーシャ・バジュランギ「その狩りたてのバッファローも横に置くぞ! ワイルドさが出るよね!」
間宮景介(誰か止めたほうが良いのでは・・・)
ディーシャ・バジュランギ「セリフは、『ミサコさん、好きです!』以外は不要!」
ワカモト「それだけでいいのか?」
ディーシャ・バジュランギ「やれやれ、非モテ男子はこれだから困るよ。素直な想いが全て込めてさえあれば、このひと言で相手のハートに突き刺さるのだよ」
間宮景介(なんかカッコいいこと言ってる・・・)
ディーシャ・バジュランギ「じゃ、リハーサル行ってみようか」
ワカモト「リ、リハーサル?」
ディーシャ・バジュランギ「リハでワの心に響いてこないうちは、カメラも回さないからね」
ワカモト「わ、わかった」
間宮景介(昔の映画監督みたい・・・)
ディーシャ・バジュランギ「それじゃあ、よーい、アクション!」
ワカモト「ミ、ミサコさん! す、すすふぃでぅす ・・・」
ディーシャ・バジュランギ「はいナメんな、もう一回!」
ワカモト「ミミ、ミミ、ミサコしゃ・・・」
ディーシャ・バジュランギ「やり直し!」
ワカモト「ミサ・・・ミサ・・・ミサコさんさん!」
ディーシャ・バジュランギ「ハートを燃やせーー!」
間宮景介(これ、いつまでたっても終わらないパターンのやつだと思う・・・)
景介の予想通り、リハ―サルは深夜まで及び、本番もリテイクを重ね、撮影が終わって送信したのは明け方だった・・・。
〇黒
2日後。
ワカモトたちによって修理されたスポーツカーは、大殺界峠にある廃れたドライブインの駐車場に運ばれてきた。
駐車場には、様々な機材が配線でつながれた作戦司令ブースも作られていた。
〇寂れたドライブイン
間宮景介「まさかバッファロー狩りサークルの人たちが、工学部自動車工学科の学生だとは思いもしませんでしたね」
ディーシャ・バジュランギ「バッファロー学部バギー科だと思ったよな」
間宮景介「見たまんまじゃないですか」
亮平が映子を連れて作戦司令ブースに到着した。
ディーシャ・バジュランギ「あ、タコクラゲ!」
國木田亮平「やあ、お二人! ばあちゃんにしゃべるミイラを見せたくて来ちゃったよ」
間宮景介「なんだかんだでおばあちゃんの言うことを信じてるんですね」
國木田亮平「万が一ってこともあるからね! あれ? ペーターゼンは?」
間宮景介「ペーターはドライバーなんで車の中です」
國木田亮平「大丈夫なの?」
間宮景介「不安しかありませんよ・・・でも、俺に任せろの一点張りなんです」
〇車内
ペーターとワカモトが打ち合わせをしている。
このチャレンジは、時速350キロ以上で大殺界峠トンネルを通過するのが目的。
そのためには峠道をうまく加速しながら走り、トンネルへ入るまでに、時速350キロ以上にしておかなくてはならない。
ワカモト「いいかペーター、VRシミュレーションで覚えた通り、落ち着いてドライビングをすればいい」
奥山ペーターゼン「フッ、俺はロボだ。正確にメモリーすることは得意だと何度も言っている」
ワカモト「覚えることが多すぎて、シミュレーションのたびに頭から煙を噴いているから、落ち着いて運転しろと言っているのだ」
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