龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第玖拾壱話 決着(脚本)

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〇センター街
「!!!!!!」
  世界が揺れた。
  大地が、空気が、建物が。
  結界そのものが、激しく揺さぶられている。
  体験したことのない異常事態に、三郎も一哉も佳明も動きが止まる。
  そして、
  眩い光の奔流が三郎目掛けて伸びてきたかと思うと、
  三郎を飲み込んだ。
「!?」
  一瞬だった。
  一哉と佳明の目の前にいたはずの三郎が、消えた。
飯尾佳明「アイツ、どこいった!?」
橘一哉「・・・分からん」
  唖然とする二人に、
「うまくいったようだな」

〇センター街
如月玄伍「我らの方陣、成功したようだな」
  玄伍が歩み寄ってきた。
橘一哉「方陣?」
飯尾佳明「今のが?」
如月玄伍「うむ」
  頷く玄伍。
如月玄伍「四神の力を黄龍に纏めてもらって放つ秘儀よ」
如月玄伍「四大・五行・陰陽の無限循環により、その威力は理論上は無限大」
  得意げな顔をする玄伍だったが、
橘一哉「あの、玄伍さん、」
如月玄伍「何かな?」
飯尾佳明「それって、一歩間違えれば俺たちも巻き添えになってなかったか?」
如月玄伍「・・・」
  沈黙。
橘一哉「あの、玄伍さん?」
飯尾佳明「なんで黙り込むんだよ」
如月玄伍「結果オーライ、ということにしておこうか」
  ギリギリ紙一重だったようだ。

〇センター街
古橋哲也「疲れた・・・」
  四神の力を纏めて放つ。
  言葉にすれば簡単だが、実際にやるとなると困難を極めた。
  まず、力そのものが非常に大きく強い。
  黄龍の属性は土。
  この場合の土とは、大地そのものということである。
  四神の司る方位や属性は、大地あってのもの。
  即ち、黄龍が擬似的に世界となり、四神の力の受け皿となる。
  そして、四神と黄龍で世界そのものを作り出し、その力を相手にぶつける。
  世界、あるいは宇宙の力そのものを相手に向けて放つ。
  それこそが、四神黄龍五行陣である。
  つまり、三郎は世界をその身に受けたのである。
  如何に絶大なエネルギー吸収能力を持っていると言っても、世界が相手では分が悪い。
古橋哲也「これで生きてたら、本当に為す術が無いよ・・・」

〇センター街
「ふ、ふふ」
竹村茂昭「!!」
  彼方から響く声に、最初に気付いたのは茂昭だった。
竹村茂昭「何だ、今の声!?」
雀松司「あ、あれは・・・!?」
  次いで何かに気付いたのは司。
  二人は同じ方向を見つめている。
如月玄伍「二人とも、どうした?」
  異変に気付いた玄伍も、二人が見つめる先を注視する。
  そして、
如月玄伍「・・・これは・・・!!」
  何かを感じ取った。
草薙由希「皆、気付いてるわよね?」
  確認するように由希が皆を見渡すと、一同は黙って首を縦に振った。
  皆揃って緊張した面持ちで彼方の一点を見つめている。
  誰もが気付いた。
  最悪の事態の発生に。

〇センター街
「四神黄龍五行陣、か」
  彼方から声が聞こえる。
  姿は見えぬが声がする。
  まるで、直ぐ側にいるかのように、はっきりと聞こえる。
飯尾佳明「なあ、カズ」
橘一哉「・・・うん」
  佳明と一哉も気付いた。
橘一哉「サブちゃんは、」
飯尾佳明「あの野郎は、」
  まだ、
「生きてる」

〇荒廃したショッピングモール
  四神黄龍五行陣の力が放たれた、その先。
  瓦礫だらけの廃墟と化した、街の一角。
  方陣の力が直撃した所は跡形もなく崩れ去り、瓦礫の山となっている。
  その瓦礫の山の中から、声が聞こえてくる。
草薙由希「アイツ、まだ生きてるというの⋯!?」
  得物を構え直す由希。
  信じたくはない。
  信じたくはなかった。
  方陣の威力は、その一部を為した由希自身もよく分かっている。
  そして、放たれた力は飲み込まれた三郎の姿が見えなくなる程に濃密。
  そんな濃密で強大な力を受けて、無事であろうはずがない。
  だが、
竹村茂昭「笑う余裕があるのかよ⋯!」
  瓦礫に埋もれたその中から、聞こえてくるのは笑い声。
  笑う余裕が、声を出す余力が、あるというのか。
如月玄伍「皆、油断するなよ」
  玄伍が厳しい声音と共に一同を見渡す。
  言われずとも承知している。
  何が来るか分からない。
  最大限の警戒態勢で注視する瓦礫の中から出てきたのは、

〇荒廃したショッピングモール
「!!」
「!!!!」
「!!」
  それは、三郎ではなかった。
  人ですらなかった。
  それは、紋様だった。
  三郎の全身を覆っていた紋様。
  それが、形を保ったまま、出てきた。
  まるで、そこに透明な人間でもいるかのように、形を保ったまま。
橘一哉「サブちゃんはどうしたのさ、サブちゃんは!?」
饕餮紋様「あの器なら、お前たちがきっちり滅ぼしてくれたばかりだろう」
  その人型紋様は、何を言っているのだと言いたげな様子で言葉を返す。
橘一哉「なら、その声真似はやめてもらいたいもんだね」
  一哉の言う通り。
  人型紋様の放つ声は、三郎そのもの。
  違う点といえば、その口調。
  慇懃無礼な丁寧口調ではなく、やや低めの声音に変わっているくらいか。
饕餮紋様「それは無理な相談だな」
  人型紋様の一哉に対する返答は否。
饕餮紋様「あれは長年生きる中で培われた私自身」
饕餮紋様「私が生み出した垢にして澱」
饕餮紋様「それを纏めて洗い流されるとは思わなかったがな」
橘一哉「なら、ついでにとどめを刺してやるよ!」
  一哉の全身から黒い火の粉が舞い散り、
橘一哉「これで終わりだ!!」
  バネで弾かれたかのように一哉は一瞬で人型紋様へと間合いを詰め、
  倶 利 伽 羅 劫 炎 掌
  漆黒の炎をまとった両腕。
  その両の掌を広げて五指を人型紋様へと打ち付けた。
  が、
  それは人型紋様を切り裂くには至らなかった。
  人型紋様の前に魔法陣が現れ、一哉の攻撃を遮ったのだ。
饕餮紋様「黒龍の宿主よ、内なる小宇宙に目覚めつつあるか」
橘一哉「何を世迷言を!」
  足を踏ん張り、四肢五体の気脈を沸騰させる。
  その踏ん張りで、ズン、と地鳴りが響く。
  より先に、より遠くに、力が届くように全身を伸ばす。
  魔法陣と黒炎の両掌がせめぎ合い火花を散らす。
  踏ん張る両足が大地に食い込む。
橘一哉「オオオオオオオオオッッ!!」
  咆哮を上げて全身の力を振り絞り、
  魔法陣の盾が砕かれた。
  そして黒炎を纏った両手が人型紋様についに届くかと思われたその瞬間、
橘一哉「うおお!?」
  人型紋様は急に姿を消した。
  空振りして態勢を崩した一哉は前につんのめった。
「我にも貴様らを喰らう余力は無い」
「この戦い、預けたぞ」
橘一哉「!!」
  黒炎が行き場を失い爆発する。
  黒い火の粉が、一気に全方位に広がっていく。
飯尾佳明「あぶねえなオイ!」
  鞭剣を慌てて振るい、降り掛かる黒い火の粉を払い除ける佳明。
  黒い火の粉が完全に消え去った時、
橘一哉「・・・消えた・・・」
  人型紋様は、影も形も、気配すらも無くなっていた。
飯尾佳明「逃げた、か」
橘一哉「これって、勝った、って事で良いのかな?」
如月玄伍「皆が無事なのだ、我らの勝ちと見て良いだろうな」
飯尾佳明「なら、一段落だな」
  一同は大きくため息をついた。

〇実家の居間
雀松朱乃「今までお兄ちゃんは、ああいうのと戦ってきたの?」
雀松司「ああ」
  妹の言葉に、司は頷く。
雀松司「本当は、知られたくなかったんだけどな」
  ここは如月堂。
  激戦を終えた一同は、一旦如月家に集まっていた。
  その話題の中心は、朱乃だった。
  今までは、兄の司が代行者として四神の力を振るっていた。
  しかし、饕餮の三郎に目を付けられて朱雀の力に目覚めてしまった。
  朱雀の本来の宿主である彼女が本格的に目覚めた。
  もう、隠しておくことはできない。
雀松朱乃「ねえ、今まで、どれだけ無理をしてきたの?」
  兄に詰め寄る朱乃。
  こうして話している間も、司の衣服には血が滲み出ている。
  司の全身に刻まれた朱雀の紋様。
  既に司の肉体は限界を迎えていた。
  朱雀の力を使うたびに、紋様が傷となり血を流れさせている。
雀松朱乃「お兄ちゃんはもう、戦っちゃダメ」
雀松司「っ・・・」
  言葉が出ない。
  幼い妹に窘められたからか、はたまた傷の痛みの故か。
  傷は痛むが、心も痛い。
  タイムリミットが、ついに来てしまったのだ。
  朱乃が大人になるまでは、覚醒させないと。
  それまでは、代行者たる自分が、決して知られることなく戦い続けると。
  あれだけ誓っていたのに。
雀松司(現実は、残酷だな・・・)
  司の誓いは、何れも果たせなかった。
  幼い妹に、遊びたい盛りの少女に、戦いの運命を背負わせてしまうことになろうとは。
  悔やんでも悔やみきれなかった。

〇入り組んだ路地裏
饕餮紋様「器が失われた・・・」
饕餮紋様「滅びも時間の問題か・・・」
饕餮紋様「・・・いや、滅びはせぬ」
饕餮紋様「必ず、生き長らえてみせる」
饕餮紋様「・・・必ず、だ」

次のエピソード:第玖拾弐話 戦い終わって

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